頑張れシニアベンチャー

化学物質と環境コンサルタントで独立「テクノヒル」

自分らしい仕事をしたいと考え、起業したシニアにエールを送るコーナーです。 社外で新しい業界情報に接する機会の多かった鈴木さんは、ヨーロッパの化学品に関する規制強化に対応すべく化学物質と環境のコンサルタントとして独立しました。

テクノヒル株式会社代表取締役 鈴木一行氏

テクノヒル株式会社 代表取締役
知恵ネット有限責任事業組合 組合員業務執行者
環境省登録環境カウンセラー・エコアクション21審査人・公害防止管理者 鈴木 一行(すずき・かずゆき)
昭和30年生まれ。昭和55年、大学の化学科卒業後、化学品専門商社入社。以来約6年の欧州駐在を含め、化学品の輸出入や国内販売などに携わる傍ら、社外で多数の学会や環境関連の研究会で研鑽を積む。新素材開発、化学品の流通や国内外の法規・規制分野に明るい。平成17年末退職、翌年2月、資本金400万円のテクノヒル(株)と出資金330万円の知恵ネットLLPを立ち上げ、化学品と環境のコンサルティング事業に着手。
※LLP...有限責任事業組合(日本版LLP)。民法上の任意組合と株式会社のそれぞれの長所を取り入れた事業体で、有限責任制、内部自治原則、構成員課税制度の特徴をもつ。

同時に性格の違う2つの組織を立ち上げる

——株式会社と有限責任事業組合を同時に立ち上げられたそうですね。

「テクノヒル」は、化学技術と環境に関するコンサルタント事業およびこれらに付帯する一切の業務を、「知恵ネット」は、インターネットを活用しての化学物質・環境に関するコンサルタント事業とこれらに付帯する一切の事業を行っています。
具体的には、前者は放射線測定機器の輸入販売や化学ビジネス業務(立ち上げ)の支援を行い、後者は経済産業省の外郭団体である(社)産業環境管理協会※REACH登録支援室のスタッフの一員として、予備登録および登録支援業務を行っています。

※REACH(リーチ/化学品の登録、評価、認可、制限に関する規則)...2007年に発効されたEU(欧州連合)における新しい化学物質規制。既存の約3万種の化学品および製品の最終納入先がEU域内にある企業は情報登録が求められる。

——なぜ同時に性格の違う2つの組織を立ち上げられたのですか。

本当は経験者の知恵を集めて中小企業の環境・技術支援を行うNPOを作りたかったんですが、いろいろ検討して自分の想いを実現するにはLLPが一番相応しいと判断しました。しかし、LLPには規模を大きくできない弱点があり、また物を介在しないと売り上げを上げるのが難しいことから、これらの弱点を補うために営利企業と両輪でやることにしたんです。

——社内で新規事業の提案をしたのに通らなかったのが起業のきっかけと伺いましたが。

ヨーロッパの環境規制はこの5年ぐらいの間にどんどん厳しくなってきており、2006年7月の※RoHS(ローズ)指令に続き、2007年6月には化学物質管理規則であるREACHが施行されました。日本の産業を支えている約3,000社の化学メーカーのうち、大手を除く2,800社ぐらいは関西に集中しています。規制が厳しくなると新たな対応を迫られて一番しんどくなるのはこれらの中小企業なので、会社に新規部門を作って対応することを提案したんですが受け入れられなかったので、「それなら自分でやろう」と思いまして。

※RoHS指令...EUの有害物質規制

—— 2つの組織を立ち上げたら、もくろみ通り事業はスムーズに動き始めたのですか?

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いいえ(笑)。日本ではコンサルタントとか情報サービス業では中小企業はお金を払ってくれず、物を介在させないと売り上げをあげるのは難しいです。当初テクノヒルでは新規部門・新規事業を考えている企業の調査や相談を請けていたのですが、これはすごく時間がかかります。費用対効果の面で課題があったところへ、たまたま在職中に付き合いのあった世界トップの放射線測定機器メーカーから日本での窓口になってくれと頼まれまして......。

——タイミングよく"物を扱う仕事"が向こうから現われたのですね。

すでに国内に販売代理店制度ができていたので、最初はそのメーカーの日本法人のような形で動き出しました。今は総代理店です。僕は業界に8年ぐらいいたので技術はもちろん、商習慣やお客さんのこともよく知っています。ですから、そのメーカーは技術的に僕らのサポートがどうしても必要だっただろうと思います。カタログなどもうちで制作しています。

日本企業には死活問題

——「知恵ネット」の方はどんな手応えでスタートしたのですか。

最初は自分でやろうと思っていたのですが、仕事そのものが国策に近くなってきました。REACHの施行により年間1t以上のEU域内製造者・輸入者、域外製造者は「唯一代理人」に委託して、約3万物質について、「技術一式文書」、「化学品安全性報告書」などを欧州化学品庁に提出して「登録」しなければ事業継続が不可能となりました。多数の日本企業には死活問題となったため、「登録」支援の重要性が極めて高くなったからです。

——そこで国の外郭団体と提携、スタッフとして登録支援事業をやっておられるのですね。

産業環境管理協会ではセミナーなども実施していて、僕はそこで講師もしています。同協会との関わりはやはり前職時代、委員会の一つに出席していたことから知り合った人に「(独立したなら)セミナー運営をやってくれるか?」と打診されたのがきっかけです。独自にやるよりは、やはり大きな組織と組んで仕事をする方が大きな仕事ができるので、そこから自然に登録支援なども手伝うようになったというわけです。

——最後に今後の目標などを教えてください。

僕が起業した目的はIPOやM&Aではなく、好きな仕事でずーっと技術の深堀をしたいと思ったからです。しかし技術的に多少野心をもっている人間にとっては、ある程度企業サイズが大きくないとお金を回収できません。だから、国がベンチャー企業を煽るならもう少し厚い支援をして欲しいですね。
ちなみに今期の売り上げは、テクノヒルが8,000万円、知恵ネットが600万円ぐらい。1期目赤字、2期目ゼロで、3期目で累積赤字を消せるのが一番いいが、今は事業規模の拡大に注力しているので1期ぐらい遅れるかもしれません。儲けの仕組みそのものは相当強く作ってきたので、今後に期待できると確信しています。

掲載日:2008年6月10日