農業ビジネスに挑む(事例)

「柑香園」3本柱で柑橘類の経営を展開する

  • 徹底的にこだわる柑橘類の生産方法
  • 昭和の初めから取り組む直接販売

102年の歴史を誇るみかん生産者が6次産業化で気勢を上げる。和歌山県紀ノ川市で明治44(1911)年からみかん生産に勤しむ柑香園だ。

柑香園のルーツである農業生産者の吉兵衛は明治44年、観音山(和歌山県)の開墾でみかん栽培を始めた。次いで2代目・長次郎が昭和元(1925)年から個人で出荷を始め、翌2年には北米への輸出や朝鮮・旧満州での外地販売も始めた。自らつくり、自ら売る。この自主独立の気風は末々まで引き継がれていく。

太平洋戦争を挟んで昭和38年には有限会社柑香園として組織化し、現在は「紀州 観音山フルーツガーデン」の屋号でビジネスを営む。

生産には徹底的にこだわる

柑香園の5代目社長(現会長)・児玉典男さんは大学卒業時の昭和47(1973)年に就農。その児玉会長がこの間に確立したのが経営の3本柱、すなわち生産・販売・加工だ。

生産の主体はみかん、はっさく、レモンなどの柑橘類、また少量ながらライムやグレープフルーツも手がける。そして、みかんの生産には徹底的にこだわる。

まず、収穫2カ月前から農薬は一切散布しない。特に収穫前の防腐剤、防カビ剤は絶対に散布しない。有機肥料を主体に厳選した肥料、きれいな水による栽培によって活力ある果実にできるので、防腐剤やワックスを用いなくても簡単に腐らないからだ。

また、収穫および選別もすべて手作業でやることもその要因だ。果実の味の劣化は衝撃にある。それらの作業でキズついた表面からガス化して腐る。それを回避する。

また、収穫も糖度計は用いず人間の舌で判断する。1本1本の木で一番不味そうな果実を試食して合格すれば、その木のすべての果実を収穫する。糖度、酸度は計器で計れるが、食味は人間の舌でないと計れない。それが理由だ。

同社の農園(7ha)のすべてが傾斜地にある。それは柑橘の栽培には傾斜地が最適だからだ。なぜなら、斜面だと土中の水はけがよく、それゆえ夏から秋にかけて栽培土が乾燥し、乾燥することで水分が足りない危機を感じた果樹が葉でつくった養分を果実に送り柑橘が甘くなるからだ。

収穫も糖度計は用いず人間の舌で判断する

直接販売する顧客は6万件

昭和の初めから続く直接販売の顧客リストは現在6万件にも上る。顧客数の急上昇に寄与したのが1998年頃から始めたWeb通販だった。

「Web通販のお客さまに対する商品づくりでは3つのSを大切にしています」(児玉会長)

Surprise(驚き)、Story(物語性)、Satisfacttion(満足)の3つの「S」だ。Web通販の購入者はギフト用が多い。だからこそ商品にはおいしさと上述の生産者のこだわりを込める。それが3つもSへとつながると信じる。

「ここ(柑香園)でしか買えないものだからこそ、お客さまが長い間支持してくださります」

その顧客の支持が商品の価値を高め、強くしてくれる。顧客の80%は個人、残り20%が高級スーパーや催事販売など業務向けだ。また、最近は台湾、香港、シンガポールへの輸出も始めた。

同社の事業の柱の1つである加工品は5年前から始めた。現社長の芳典さんが入社すると、さっそくドライフルーツとジュースの加工に着手した。収穫後も出荷しないみかんはジュースに加工するが、これにもこだわりをもつ。果実を絞って80℃で加熱し、真空保存したジュースはすぐに販売しない。1年間寝かせて熟成させてから出荷するのだ。

同社のジュースは保存料、着色料は一切使わない。また、3年前の2010年には薄皮(食物繊維)も含んだ「とろコク搾り」という商標のみかんジュースを発売したところ、ネットの口コミサイトで高く評価され、ユーザーが支持する取り寄せ商品の最高賞(コーヒー・茶・ジュース・アルコール部門)を受賞した。

ネットの口コミサイトで高く評価されて拡販したみかんジュース「とろコク搾り」

若者を魅了して止まない経営

現在、柑香園の年商は1億6000万円。直接販売のため市場流通に比べて出荷価格は2倍以上を確保でき、成長率も前年度比で20%以上と高い。

また、今年(2013年)からはライムやグレープフルーツなどをニッチ商品として戦略的に販売し始めた。

「ライムやグレープフルーツを使ってカクテルを提供する全国のバーなどをネットで調べ、それらの店に順次アプローチしました」

国産ライムという希少性をアピールして、実際に反応のある飲食店へはサンプルを提供する。それにより品質を評価してくれた顧客とのビジネスが始まる。そんな絶え間ないビジネス展開と生産への徹底したこだわりが若者を魅了するのだろう。その証左だろうか、同社の社員は8名(パート20名)で、平均年齢は27歳と若い。しかも、会長、社長のみならず社員も三重大、専修大、岐阜大、明治大と大卒が多い。そして、毎年絶えず若者が同社の門を叩くという。

企業データ

企業名
有限会社柑香園
Webサイト
代表者
児玉 典男
所在地
和歌山県紀ノ川市下丹生谷557