支援機関によるカーボンニュートラル支援事例

中央会がカーボンニュートラルの相談窓口に 専門機関と連携して企業組合の脱炭素化を推進:愛媛県中小企業団体中央会(愛媛県松山市)

2024年 4月 25日


中小企業の発展を目指し、組織化や企業間の連携強化等を支援【中小企業団体中央会】

愛媛県中小企業団体中央会

中小企業団体中央会

機関分類:中小企業団体中央会

所在地:愛媛県松山市久米窪田町337-1 テクノプラザ愛媛3階

電話:089-955-7150

Webサイトhttp://bp-ehime.or.jp/

中小企業団体中央会

中小企業の発展を目的に、「中小企業連携組織支援のための専門機関」として、国や県と連携しながら中小企業組織化の支援とその関連事業を主な業務としている。愛媛県中小企業団体中央会(以下、愛媛県中央会)は、エコアクション21地域事務局や各種補助金の事務局業務のほか、カーボンニュートラルに関するセミナー等を開催するなど、事業者の脱炭素化に向けた支援をしている。2023年3月時点で、380の組合会員と122の賛助会員が参画している。

支援事例

企業データ

企業名
企業組合津島あぐり工房
Webサイト
設立
2012年(平成24年)8月
従業員数
11名
所在地
愛媛県宇和島市浦知380
業種
食品加工・販売業

地元で採れた食材を使った惣菜や弁当を製造し、移動販売車で地域住民に販売。廃校を再利用した地産地消カフェの運営や、農産加工品のインターネット販売等も手掛けている。店名の「あすも」は、地域に伝わる伝統的な食文化を大切に良いものを残していくため、明日も一歩一歩未来へ歩んでいきたい、という思いが込められている。

企業組合津島あぐり工房

[経緯]
移転先のエアコンの電気代に驚愕。経営が危機的状況に

「卒業した子供たちがいつかこの地に戻ってきた時のために、できるだけ当時のままの状態を残しています」と話す山下氏
「卒業した子供たちがいつかこの地に戻ってきた時のために、できるだけ当時のままの状態を残しています」と話す山下氏

2003年5月、農家女性たちの自立を掲げ結成された「あぐり工房(現:企業組合津島あぐり工房)」。「次世代に伝統的な味を残したい」という思いから、地元・南予地方(愛媛県南部)で採れた新鮮な野菜や海産物を使った弁当や惣菜、伝統的な製法で作った味噌などを製造・販売し、地域の食文化を支えてきた。

2012年8月、法人化に合わせて、地産地消カフェ「あすも」をオープン。事業の拡大によってこれまでの工房が手狭になり、2022年9月に現在の廃校に拠点を移した。
企業組合津島あぐり工房 代表理事 山下由美氏に、同工房を運営する理由を聞いた。
「この地域には、美味しいものがいっぱいあります。それらを子や孫の世代に残していきたいと思うようになったことがきっかけです。移転先に廃校を選んだのも、大切な場所を残しておきたいという思いがありました。子供たちは進学や就職でいずれこの地を離れてしまいますが、いつか帰ってきた時のために、思い出が詰まったこの場所を守ってあげないといけない。それがこの地域に住む大人の役割だと思いました。地産地消カフェ『あすも』で、そうした役割を果たせたらなと思いました」(山下氏)

こうした山下氏の思いが宇和島市に伝わり、ほどなくして廃校の使用許可が下りた。だが、問題はその先にあった。
「もう何十年も使ってない廃校を再利用したので、もともと設置されていたエアコンを稼動させたら、ものすごく電気代が上がってしまい、経営を直撃しました」(山下氏)

このまま老朽化したエアコンを稼動させ続けたら赤字になってしまう。山下氏は日ごろから頼りにしている、愛媛県中央会に相談することにした。

[現状把握と解決策]
省エネ補助金を活用し設備を更新。電気代は約2割減に

愛媛県中央会の調査役 二宮誠司氏(写真中央)と井上氏(写真右)に、経営相談をする山下氏(写真左)
愛媛県中央会の調査役 二宮誠司氏(写真中央)と井上氏(写真右)に、経営相談をする山下氏(写真左)

工房を始めた当初は理事4名と従業員1名だったが、やがて業務拡大とともに従業員が増えてきたため、全員が安心して働ける職場環境を整備する必要性を感じていた、と話す山下氏。そんな中、法人化の提案とそれに向けた支援をしたのが、愛媛県中央会だった。その後も販促に関するアドバイスや什器購入の際に対象となる補助金提案などの支援もあり、山下氏にとって愛媛県中央会はとても頼りになる存在になった。
「私たちはもともと小さなグループだったこともあり、折に触れて中央会が(事業に活用できる)勉強会を開催してくれました。工房を法人化しようと決めたのも、中央会に相談したことがきっかけです。創業時から補助金申請、商品のブランディングに関することなど、中央会にはいろいろと力を貸してもらっています」(山下氏)

今回、老朽化したエアコンの相談を受けた愛媛県中央会 総務部長 井上和也氏は、
「廃校に設置されていたエアコンは3台ありましたが、どれも25年ぐらい前のもので、さすがにこれは使えないと思いました。そこで、こちらから省エネ補助金(正式名称:省エネルギー対応設備更新等補助金)を提案し、その申請に向けた支援をしました」(井上氏)

省エネ補助金の交付申請書には、更新する機器の設備能力や稼動条件等を調べ、導入する前後におけるエネルギー消費量の差分を原油換算値にした数値を記載することが必要となる。山下氏は愛媛県中央会の助けを借りながら、こうした煩雑な作業をこなし、省エネ補助金の交付を無事受けることができた。
その後エアコンを更新したところ、電気代は導入前と比べて1ヶ月で約2割減となった。

[意識変化・伴走支援]
身近な環境の変化でカーボンニュートラルの重要性を認識

調理場で使用しているのは主に電力。「従業員たちと省エネについて話し合い、まずはこまめな節電から取り組むことを共有しました。どうすれば電気代を削減できるか、従業員たちは自ら考えながら仕事をするようになりました」と話す山下氏
調理場で使用しているのは主に電力。「従業員たちと省エネについて話し合い、まずはこまめな節電から取り組むことを共有しました。どうすれば電気代を削減できるか、従業員たちは自ら考えながら仕事をするようになりました」と話す山下氏

省エネ補助金を申請したことによって、井上氏は山下氏のある変化に気付いた。
「CO2排出量に換算した数値を調べるという慣れない作業はとても苦労されたと思いますが、そうした体験をされたことで、山下理事長の中で環境への意識がどこか芽生えたように感じました。最初は確かにコスト削減のために奮闘していましたが、省エネ対策をすることは環境負荷を抑えることに繋がっている、ということを感じてもらえるようになったと思います」(井上氏)

山下氏は、省エネに取り組む自身の行動が、カーボンニュートラルに繋がっていることを初めて知った。
「『元気もん』という商品にいりこを使っているのですが、最近いりこが本当に捕れなくなってきたので、海の環境が変わってきているのを感じます。また、今年は柑橘類が不作であったため、農作物も将来採れなくなってしまうのではないかという危機感もあります。子供や孫たちが大きくなった時に、どんな環境になっているのか。自然を守るためには、今すぐできることから取り組まないと間に合わないんじゃないか、と感じるようになりました」(山下氏)

後日、愛媛県中央会は、企業組合津島あぐり工房に専門家派遣による省エネ診断の受診を提案した。
「日々の業務の中でかなりエネルギーを使っているので、専門家の省エネ診断によってどういった点に気をつければいいのか。改善できるポイントをまず知ることから始めないといけないと思っています」(山下氏)

今後は愛媛県中央会の伴走支援によって、脱炭素化の取り組みをさらに進めていく予定だという。

[中央会の取り組み]
組合や傘下事業者へ脱炭素化を啓発し、支援する機関に繋いでいく

「事業者はカーボンニュートラルに取り組んでいることをアピールすることが大切だと思っています。そのような活動によって、近隣の事業者の環境に対する意識が少しずつ醸成されていけたらと思っております」(井上氏)
「事業者はカーボンニュートラルに取り組んでいることをアピールすることが大切だと思っています。そのような活動によって、近隣の事業者の環境に対する意識が少しずつ醸成されていけたらと思っております」(井上氏)

企業組合津島あぐり工房に対する今回の支援は、省エネ補助金の申請に関するものであったが、その他県下の組合、また組合傘下の事業者に対する脱炭素化の支援について、愛媛県中央会はどのように考えているのか。井上氏に聞いた。
「県下組合の脱炭素化への取り組みは、全国と比べて遅れていると感じます。下請け企業が多く、余剰資金が少ないため、脱炭素化がなかなか思うように進んでいないというのが現状です。一方、環境対策に取り組んでいる企業は、これからますます企業価値を高めていくことが期待されるため、取引先から優先的に選ばれる状況が来ると思います。カーボンニュートラルは今の世界的な流れなので、中小企業支援機関として私たちもしっかり取り組んでいかなければならないと感じています」(井上氏)

昨年度、カーボンニュートラルがテーマのセミナーを開催したところ、具体的な取り組みに関する問い合わせが何件か寄せられた。
「セミナー終了後、参加者の方から問い合わせをいただきました。より詳しい話を聞きたいということでしたので、省エネルギーセンターや愛媛県地球温暖化防止活動推進センターを紹介しました。当中央会としては、組合にまず省エネ化や脱炭素化の気付きを与えることが大切だと思っています。そのうえで必要に応じて、専門に支援する機関に話を繋げていきたいと考えています」(井上氏)

気軽に相談できる近い存在だからこそ、経営者は耳を傾けてくれる。そこで脱炭素化の重要性を啓発することによって、事業者がカーボンニュートラルに向けた取り組みの第一歩を踏み出せる。省エネ診断による省エネ化の取り組みや、燃料費削減に向けた設備の更新など、引き続き専門機関と連携しながら支援を進めていくという。

担当支援機関からのひと言

愛媛県中小企業団体中央会 総務部長
井上和也氏

山下理事長はどんなことにもチャレンジする方なので、先方からの問い合わせに対しては、これまで中央会としてもできる限り支援をしてきました。次回、カーボンニュートラルや省エネに関するセミナーを開催する時は、山下理事長や組合員の皆さんに出席いただき、省エネ活動についてもっと理解を深めていただければと思っております。より効果的な省エネ活動により、CO2排出量の削減に繋がっていけばいいと思っています。

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