経営課題別に見る 中小企業グッドカンパニー事例集
「カフェ・ミワ」コーヒー激戦区で生き残る!老舗コーヒー店の差別化戦略
コーヒーショップ激戦区の千葉県JR市川駅。大手チェーンの出店が相次ぎ、閉店する店舗が多い中、老舗コーヒー店のカフェ・ミワは、レトロで落ち着いた空間とサイフォンで淹れる本格的なコーヒー、名物「ヤキサンド」を中心としたフードメニューが愛され、40年来営業を続けている。個人経営のコーヒーショップがどのように独自の強みを磨き、大手チェーンと差別化しているのか、今までの取り組みを中心に取り上げる。
この記事のポイント
- 店舗がもつ経営資源を見極め、独自の強みを強化・創出
- トレンドに合わせ、フードメニューを追加することでマンネリ化を防止
- 従業員教育を通じて、接客力を中心とした組織能力を強化
- 「モノ」「コト」「空間」の提供による差別化
大手チェーンにない、独自の強みを創り出す
個人経営の老舗コーヒー店「カフェ・ミワ」は差別化を図ることで、大手チェーンが多く出店する激戦区のJR市川駅前で40年間営業を続けている。井関まりこオーナーのご主人(井関真人氏)がカフェ・ミワの常連客だったことから、体調を崩した前オーナーより相談を受け、2007年に事業承継した。事業承継後、井関まりこオーナーは、生き残るために「残すべきものは残し、変えるべきものは変える」ことに注力してきた。
サイフォンを使用し、手で淹れる本格的なコーヒー、チーズやトマトなどの食材を挟んで香ばしく焼き上げた「ヤキサンド」をはじめとした人気フードメニュー、レトロで落ち着いた店内の雰囲気などはそのまま踏襲した。また、アルバイトなどが中心の大手チェーンと異なり、長年勤めており、顧客の信頼が厚く、スキルも高い従業員を継続雇用することでサービスの質と店の個性を維持した。
一方で、新しい取り組みにも挑戦している。井関氏が著名なシャンソン歌手であるため、店内奥の部屋にスタジオを併設し、シャンソン教室「モン・シェル・コパン」を毎週実施している。また、シャンソンライブも月2~3回、参加料3,500円(1ドリンク付き)で開催しており、井関氏をはじめプロのシャンソン歌手の歌を生で聴くことができる。
シャンソン以外にもオーナーの人脈を活かし、落語やマジックなどのイベントを行っている。「プロ出演によるイベント」にこだわり、過去には俳優の風間杜夫さんも出演している。
オーナーは事業承継前に飲食店経営の経験がなかった分、本格的なコーヒーや人気フードメニュー、従業員のサービス力などの持続的に競争力を優位に保てる経営資源を客観的に見極め、老舗コーヒー店ならではの良さを維持することができた。また、「シャンソン」という新たな経営資源を有効活用し、教室やイベントを通じて新たな付加価値を提供することで、新たな常連客の獲得につなげている。
マンネリ化させないよう、トレンドに合うメニューを追加し続ける
事業承継後に大きく変えた点がもう1点ある。フードメニューの充実だ。マンネリ化しないように、評判の良いメニューを残す一方で、季節ものを中心にトレンドに合うメニューや、ラインアップになかったメニューをオーナーが発案、開発し続けている。最近では、フルーツサンド、クリームブリュレ、ガトーショコラの3種類の提供を新たに開始した。
中でも好評だったのは、フルーツサンドだ。新鮮な生クリームを手でホイップすることできめ細かい味わいがあり、今年7月に発売された「純喫茶」の紹介書籍にも取り上げられる新名物メニューとなった。
また、シャンソンライブに合わせ、3種類のおつまみと1種類のドリンクをセットにした特別メニューを月1回提供している。特別メニューの提供を始めたのは、「お客さまに喜んでいただくために考え続けないと、従業員のスキルが向上しない」との考えに基づく。店長をはじめ従業員は、当初、常に変化を求められることに戸惑ったというが、オーナーがメニュー追加の理由を説明して従業員の理解を得るとともに、お客さまの反応の良さを実感して、現在では自ら特別メニューを考え、オーナーに提案するまでになっている。
老舗の飲食店の場合、メニューやサービスを変えることで常連客が離れるリスクに目が向きがちだが、あえて変化を選び、マンネリ化を防いでいる。
従業員教育も強みの源泉
カフェ・ミワでは接客にもこだわり、従業員教育を徹底している。オーナー自身がお客さまとの対話を大切にしていることもあり、店員との対話を楽しみたいお客さまと静かに過ごしたいお客さまの違いを見極め、対話するお客さまへの接し方はオーナー自らが自身の経験を活かして丁寧に指導している。
また、「時事ネタを中心に情報や教養をもち続けることがお客さまとの会話で不可欠」と考え、本やインターネット、新聞を読むように指導しており、学習用にタブレット端末を従業員に提供している。
お客さまに合わせた接客を行うことで、全てのお客さまが安心して過ごせる快適な空間づくりに努めている。
「モノ」だけでなく、「コト」や「空間」を提供する
これらの取り組みを通じて、カフェ・ミワではコーヒーという「モノ」のみならず、シャンソンを聴く「コト」や静かにゆっくり過ごせる「空間」の提供で差別化を図り、来客につなげている。そのため、一人ゆっくり読書がしたいお客さまの来店や、商談などの活用も多い。
「空間」を作り出すため、店内装飾と静かさにも細心の配慮がされている。木の温もりを感じさせる店内の雰囲気を保つため、装飾は最低限にとどめ、音楽も静かなBGMを流すのみとしている。
お客さまは40代以上が大半だが、レトロな雰囲気を好む10~20代の若年層も増えている。「若いお客さまに、より来店いただけるよう、さらにサービスやイベントを工夫したい」とオーナーは考えている。
カフェ・ミワは、経営資源を見極め、提供サービスを明確にすることで、大手チェーンにない強みや特徴のある経営を実現している。近年、「純喫茶」と呼ばれる、昔ながらの喫茶店が再評価されているが、カフェ・ミワもその好事例の一つと言えるであろう。
企業データ
- 企業名
- 有限会社イセキ・ミュージックオフィス
- Webサイト
- 設立
- 1991年
- 資本金
- 300万円
- 従業員数
- 3名
- 代表者
- 井関 まりこ
- 所在地
- 千葉県市川市市川1-9-2(カフェ・ミワ)
千葉県市川市市川1-14-26(本社)
中小企業診断士からのコメント
大手チェーンが個人経営の店舗周辺に進出した場合、競合の経営資源を必要以上に大きく捉えてしまい、自店舗の強みに目が向けられないケースも多い。その中でカフェ・ミワは、自店舗の経営資源を見極めることで、独自の強みに気づき、それを軸にした差別化を図っている。また、マンネリ化を防ぐメニュー開発や従業員教育を通じて、自店舗の経営資源を常に高め続けてきた。
コーヒーやフードメニューなどの「モノ」の提供にとどまらず、シャンソンを聴けるという「コト」や、ゆっくり落ち着いて過ごせる「空間」までを提供する場とすることで、大手チェーンにない魅力を引き出している。個人経営の喫茶店でももっている経営資源を有効に活かせば、大手チェーンに対抗できる競争力を充分に創り出せることを証明してくれた事例である。
水戸 脩平