人手不足を乗り越える

変化に柔軟に対応する経営が、優秀な外部人材の獲得に寄与【草津電機株式会社(滋賀県草津市)】

2025年 8月 18日

髙田豊郎社長
髙田豊郎社長

草津電機株式会社は、モーター専業メーカーとして家電から産業機器、住宅、医療など、さまざまな業種にモーターを供給している。創業当初は大手家電メーカーの協力工場で、売り上げの半分以上を一社に依存していた。円高ショック、リーマンショック、中国や韓国の台頭など、日本を襲った経済危機の影響は、同社にも及んだ。そこから得た教訓は「一つの産業に対して売り上げを20%以下にする」という用途の多様化だった。さらに、モーター事業で培った提案力やノウハウを生かして、モーター以外の分野にも進出している。これらの事業で重要な戦力となっているのが、中途採用人材だ。大手電機メーカー、IT企業、金融機関など出身は多岐にわたる。「滋賀で働くなら、草津電機にお世話になりたい」と思わせる魅力をどうやって創り上げていったのだろうか。

家電メーカーの協力工場として成長

琵琶湖に近い滋賀県草津市に本社を構える
琵琶湖に近い滋賀県草津市に本社を構える

同社は戦後間もない1948年に創業し、大手家電メーカーの協力企業として事業を拡大させていった。関東や東北に生産拠点を新設し、シンガポールを皮切りに中国やタイなど海外にも生産拠点を設けた。家電メーカーの事業拡大に歩調を合わせ、同社も業容を拡げていった。当時、同社の売上高の50%以上は、1社の家電メーカー向けが占める状況となっていた。しかし、韓国や中国の家電メーカーが台頭し、日本の家電メーカーは世界市場から撤退を余儀なくされていった。さらに、頼みの綱であった取引先家電メーカーが別の大手電機メーカーの傘下となり、その後吸収合併されたことで、同社の事業環境も激変した。

幾多の経済ショックを経て、幅広い業種を開拓

カスタムモーターは幅広い業種に8000種以上を供給する
カスタムモーターは幅広い業種に8000種以上を供給する

「1社に過度に依存する経営では危うい」。同社は取引先の開拓に取り組んだ。幸い小型モーターの生産では、大きな実績があった。毎年新製品が出る家電メーカーとともに仕事をしてきただけに、臨機応変の対応も得意。これら自社の強みを武器に、販路開拓に奔走した。その際に強く意識したのが、「一つの業種に占める売り上げは20%以上にしない」ということだった。多くの家電メーカーに同社の存在は周知されており、提案も積極的に聞いてくれる。しかし、それだけでは、過去の苦い経験を繰り返すことになりかねない。苦しくともこれまで取引のない新分野の顧客獲得に力を注いだ。その結果、取引先は産業機器全般、医療・健康分野、インフラ分野など大きく広がった。生産体制も大量生産から、多品種小ロットへと転換した。

現在は顧客の要望に対して、モーター専業事業者ならではの一歩先を見据えた提案力でニーズに対応する「カスタムモーター」の提供を標ぼうし、8000種類に及ぶモーターを手がけている。多くの業種と取引をすることは、その時々に発生するリスクを回避することにもつながった。例えば、コロナ禍で多くの生産現場が操業停止を余儀なくされる中で、同社は医療機器向けの事業がけん引し、全体の売上高を増加させることができた。取引先の多様化は同社の事業の足腰を確実に強くさせた。

新分野に挑戦 BtoC事業を開拓

紙製ボトルのワインや和式プレスコーヒーなどユニークなBtoC商材を手がける
紙製ボトルのワインや和式プレスコーヒーなどユニークなBtoC商材を手がける

髙田 豊郎氏は2019年に同社の社長に就任した。かつて国内外に12あった生産拠点は、現在国内7、海外はタイのみ、シンガポールと上海には営業拠点を置くという体制に再編した。中国から生産を撤退する際には、名義人の変更など現地政府との折衝に2年を要するなど、撤退の難しさも経験した。髙田社長はこうした同社の歩みを見てきた中で「会社を持続可能な仕組みにするにはどうすればよいか」を真剣に考えた。そこから導き出したのが、ものづくり以外の道を探ることと、地域にとってなくてはならない企業になることだった。

例えば、同社子会社のジャパンコンミュテーター株式会社は、もともとはモーター部品の一種である整流子を製造し、輸出もしていた。しかし、中国製整流子との競合で国内生産ではコストが合わなくなり、中国から整流子を仕入れて同社が品質保証をしてユーザーに供給するという商社機能へと業態転換を図った。扱う商材も拡大したが、当初は銅線や電設資材などのBtoB商材が中心だった。それが最近は、食料品や雑貨などのBtoC商材も取り扱う総合商社へと転身している。スペインから紙製のボトルを使い有機栽培で育てたブドウを原料にしたユニークなワインを輸入したり、茶産地と組んで海外でブームとなっている抹茶の輸出に取り組んだりと、消費者が付加価値を感じられる商材の取り扱いを拡大させている。また、同社が輸出入業務で経験して獲得したノウハウを活用して、海外へ販路を広げたいと考える中小企業に対して、販路開拓支援を行うコンサルタントビジネスも行っている。

ジャパンコンミュテーター常務取締役の奥井智氏は、「整流子の製造販売一筋でやってきたのが、商社になり、さらに3年前ごろから髙田社長と相談してもっと新しい商材を扱おうということにした。今まで行ったことのない展示会に出かけたり、新しい分野の企業の方々と話したりするのは本当に楽しい。メーカーの枠を取り払って、新しいことに挑戦していきたい。昨年は酒類免許や宅地建物取引の資格も取得した」と意欲を示す。髙田社長も「メーカーからの転換には足かせをかけていない。たくさんの事業の卵を産んで育ててもらいたい。奥井常務と共に働いてもらうために新たに若い人材も採用した」と同社の事業転換ぶりに目を細めている。

琵琶湖を守る環境経営を推進

発電量を知らせるディスプレー
発電量を知らせるディスプレー

同社が拠点を置く滋賀県草津市は、琵琶湖の南端近くにある。地域の住民、企業とも琵琶湖の環境を守ろうという意識はもともと高い。同社は環境の国際認証である「ISO14000」を県内の中小企業として早期に取得し、県が掲げる環境関連の目標を県が設定する以前から独自目標を定め、それを達成するなど、率先して環境重視の経営を行ってきた。また、モーターは、世界であらゆる機械や装置に組み込まれており、駆動時に大きなエネルギーが必要なため、温室効果ガス排出量増加の大きな要因ともなっている。同社は永久磁石を用いて省エネを実現したセンサレス・ブラシレスモーターを開発するなど、モーターの高効率化に早い段階から取り組んでいる。

さらに、滋賀県が推進している「しがCO2ネットゼロ」ムーブメントへ賛同して、CO2排出量を2030年度までに2013年度比で51.7%削減する目標を設定した。省エネ性能の高いエアコンやLED照明の導入、太陽光発電設備の設置、部門ごとの電力使用量のデマンド管理、工場棟にペアガラスを導入、WEB会議システムの導入など、ハード・ソフト両面で取り組みを加速している。こうした活動が評価され、同社は滋賀銀行が始めたCO2削減量に応じて金利を優遇する新しい融資制度の第1号に選定されるなど、中小企業として先進的な温暖化対策を進める企業として評価されている。

また、2025年1月から地域や子供たちの未来を創るCSR活動である「E-CAN CONNECT」をスタートさせた。「E-CAN CONNECT」は、近隣の小・中学校とリサイクル事業者の株式会社がんさん(滋賀県草津市)と連携した缶のリサイクル活動。集められた缶は福祉作業所に持ち込み、分別作業後にリサイクルされる。生徒にはその時に得られたリサイクル還元金を使って地域貢献になることを考えてもらい、実行してもらうことにしている。地域の子どもたちが「共によりよい社会をつくる力」をもち、地域全体の活力を育み、地域社会を担う人材の育成につなげることを目指している。

転職希望者から選ばれる企業に

多彩な人材が成長を支えている
多彩な人材が成長を支えている

同社が目指す持続可能な会社へと転身させていくために重要なのが、実際に事業を進める人材だ。同社は自社で不足する人材を外部から中途採用することに力を入れている。採用部門を率いる小西哲也常務取締役は、自身も金融機関からの転身組。同社には大手電機メーカーやIT系企業など、中小企業なら喉から手を出しても欲しい中途採用人材が多数存在する。小西常務は「元にいた企業で自分が担当する部門の仕事がなくなった方や、滋賀県出身で家族の介護のために地元に戻らなければならなくなった、家庭の事情で実家に戻ったなど、人にはさまざまな人生における転機がある。そういう人たちに当社を選んでもらえるような環境づくりをしている」という。例えば、子どもが小学校3年生まで育児支援する制度など、子育て中の社員には法律で規定されたもの以上の支援制度を整備している。その結果、「優秀な女性を採用することができている」(小西常務)という。

また、人事制度を見直して、給与体系が異なるグループ企業間で人が異動できるように、出向手当などの制度も設けた。これは、若いうちにさまざまな部署を経験したいという希望を叶えるためのものだ。また、グループ全体で改善事例発表会を開催し、そこで優秀な成績をあげた事業所に、若手の社員が見学に行くということも行っている。また、シニア雇用についても、70歳まで働ける機会を創出し、社員それぞれが働き方を選択できる仕組みを整えている。

同社が変化に柔軟に対応する経営をしていることも、外部の人材を惹きつける要因となっている。髙田社長は「オーナー経営の企業なので、過去には『言われたことをやっていればいい、上には逆らわない』という気風があった時もあるが、それでは激変する時代に対応できない。社員がそれぞれ知恵を絞り『これをやりたい』と言える体質に変えていきたい」と語る。足元では、米国による関税引き上げなど、新たな課題も浮上している。髙田社長は「当社のモーターは、供給先の企業を通して米国に輸出されるものも多い。影響は数か月後ぐらいから出てくるだろう」と見ている。しかしそれも「当社は新しいものに挑戦する体質が根付いており、経営環境が変化するストレスにも強い」と言う。乗り越える自信はありそうだ。

企業データ

企業名
草津電機株式会社
Webサイト
設立
1948年3月
従業員数
950名(グループ合計)
代表者
髙田豊郎 氏
所在地
滋賀県草津市東草津二丁目3番38号
事業内容
小型モータ・ポンプ等の製造・販売