あの人気商品はこうして開発された「食品編」
「甘栗むいちゃいました」栗そのものの自然の甘みで勝負しよう
「甘栗むいちゃいました」
このユニークなネーミングの菓子が世に登場したのが1998年11月。発売と同時に爆発的ヒットを飛ばした。甘栗が皮をむかずに食べられる。この便利さがウケにうけた。
開発のスタートは1997年だった。前身のカネボウフーズ時代、当時の社長から「新しい菓子の開発」と厳命が下る。このころの主力商品として「ねるねるねるね」「フリスク」などがあったが、「カテゴリーにとらわれない有力商品を開発せよ」と社長の熱情は並々ならぬものがあった。
ヘルシーさが求められている
しかも社長が設定した開発期間は1年。特命を受けた開発担当者が3人、研究所のスタッフを入れて約10人の精鋭部隊が編成された。
新しいカテゴリーの商品開発といわれても雲をつかむような話だったが、発想の源としてはっきりしていることが1つだけあった。健康だ。なぜなら、食品に対して消費者は安全・安心志向を高め、「からだによいもの」「ヘルシーなもの」を求めていたからだ。これを開発コンセプトの核にした。
そこで全国各地から、その土地でしか売られていない、しかもその土地で根強く支持されている菓子、しかも自然素材を使ったヘルシーな菓子を集め、徹底的に分析・研究した。そしてそれをもとに新商品のアイデアを浮かべる。さつまいもやレーズン、はちみつなどを素材にした菓子、また梅の果肉を用いた菓子。つぎつぎと試作品をつくり、新商品の検討会の大テーブルには候補品が山のように積まれた。
ヘルシーな菓子というコンセプトに間違いはない。開発部隊はそう確信していた。さつまいも、レーズン、梅肉とどれもヘルシーな素材だが、なにかが違っているようだった。
新商品のアイデアはふとしたことから浮かんだ。栗だ。栗は洋菓子、和菓子ともに人気の食材であり、古から親しまれている。しかも、食物繊維、ビタミン、カルシウムなど栄養素が豊富。さらには栗の味そのもので勝負している菓子は稀有だ。
甘栗にしよう。しかも「天津甘栗」とは違い、皮を剥いてパッケージに入れよう。天津甘栗に対してマーケットには、つめが汚れる、1袋の量が多すぎるという不満があることも確かだ。パッケージから取り出してそのまま食べられる甘栗。これはいける。試作品を提示すると、「よかろう。おもしろいじゃないか」と、ようやく社長の表情に笑みが広がり、商品化の断が下された。
製品戦略室菓子グループ部長の男鹿豊さんは振り返る。
「栗で新商品をつくろうと決まったとき、粒ガムのように1つずつ形を均一に整えて個包装にしようかというアイデアもありましたが、やはり原形のままがおいしいということに落ち着きました」
これはヒットする
ブランドネームも「甘栗むいちゃいました」に落ち着くまでにはいささかの曲折があった。当時、ポケモンが大流行していたので、「ポケット甘栗」という名称もあがったが、これではあまりにも陳腐でインパクトが小さすぎる。いっそストレートな表現で商品特性を消費者に訴えようと、心のどこかでクスリと笑えるようなネーミングとして「甘栗むいちゃいました」に決まった。
1998年11月、JR駅売店の「KIOSK」(キヨスク)でテスト販売すると予想外の手応えを得た。さらに99年3月に静岡県限定でテスト販売すると、爆発的な売行きで供給が追いつかず、テスト販売を途中で打ち切った。これはヒットする。テスト販売で確信を得た。
満を持して2000年2月に全国の量販店、コンビニ、駅売店、一部ドラッグストアなどで一斉に発売を開始。おもしろいように売れた。発売当初のメインユーザーは高校生、大学生の若者だったが、手を汚さす、爪を傷めず、自然の風味の甘栗が気軽に食べられるとしてOLにも広がっていった。
01年に88億円、02年に95億円の売り上げを達成する。ヒット商品の目安は通常、年間売り上げ20億円とされるがが、その5倍近くにも達したのである。
ていねいに手で皮むき
「甘栗むいちゃいました」の原料栗は全量を中国の河北省で調達している。同省産の栗は、中国の中でも最も甘味があっておいしいとされている。
実りの秋、ほどよく熟した栗を収穫して工場に搬入し、さらに熟成させる。男鹿さんによれば「栗の収穫は早すぎても遅すぎてもダメ」だそう。ちょうどうまく熟した栗を工場で焼成(遠赤外線焙煎)し、甘栗の風味を増す。自然のままで、甘味料はまったく使わない。
当初、中国の委託工場は北京郊外だけだったが、その後上海郊外の工場も加えて2拠点体制を敷いている。焼成工程のあと皮をむく。すべてが手作業でいっさい機械は使わない。熟練作業者になると1分間に30個もむくという。
皮むきが終わると果粒の選別。栗の善し悪しと一定の大きさの果粒に選り分ける。そのあと冷凍し、金属検出・検査を経て冷凍したまま日本の加工工場に輸出される。
日本の工場ではまず要求どおりの原料栗かを検査する。次いで解凍し、割れてしまった栗などを選別したうえで計量・充填・レトルト処理し、最後にもう一度入念に検査したうえで出荷している。
1パッケージの容量は35グラム。
「この容量も、十代以上の幅広い年齢層の多くの消費者に食べていただいて決めました。小腹塞ぎというのが『甘栗むいちゃいました』の1つのコンセプトですが、小腹塞ぎっていったいどのくらいの量なのか。大勢に聞いてみないとわかりませんので。ちなみに甘栗1個は約5グラムですが、7個くらい食べると、だいたい小腹が満たされることがわかり、その結果、容量は35グラムに落ち着きました」
秋の味覚も通年楽しめる
「甘栗むいちゃいました」が牽引する形で100億円近くの甘栗菓子市場がつくられると、競合品が相次いで市場に参入し、現在では輸入販売業者も含めると20社の商品がしのぎを削る激戦市場になっている。当然のごとく価格と品質の相克が市場に発生しているが、クラシエフーズは品質に軸足を置きながらも「特選」と「徳用」の2グレードでニーズに対応し、さらにはパッケージ容量も多彩にして年商25億円、31.2%のトップシェアをキープしている。甘栗むいちゃいましたは同社の菓子商品で第2の柱となっている。
均一の甘栗(A級栗)を精選した「特選」のパッケージは35グラム入りと75グラム入りの2種。甘栗の味は特選とほぼ同じながら、一部割れ栗も入った「徳用」は50グラム入りと210グラム(70グラム×3袋)入りの2種。特選の1グラム当たりの価格が約4円であるのに対し、徳用のそれは約2円と割安に設定されている。
コアユーザーは50~60代の女性で、40代女性がそれに続く。比較的年齢層が高いのは、小腹を満たすためだけではなく調理の素材として使う人が多いため。男女別では女性が65%とやや多い。
定番の「甘栗むいちゃいました」のほか、季節限定商品も随時投入している。中でも好評なのが夏限定の「塩甘栗」。「赤穂の塩」や「宮古島の雪塩」を使ったこだわり商品だ。毎年7、8月の不需要期対策として塩甘栗を販売したところ、「塩のアクセントがおいしい」と好評で、すでに3年目を迎えた11年の夏も順調に売り上げを伸ばした。
「定番の『甘栗むいちゃいました』をベースに、季節ごとの商品開発をさらに進め、さらに市場を広げていきたいと考えています。加工度をあげ、スイーツっぽいお菓子を狙っていきたい。楽しみにしていてください」と男鹿さん。12年秋をメドに商品化する方針だという。
秋の味覚の栗だが、甘栗むいちゃいましたは季節を問わず、さらに夏には独自色を加えて進歩をつづけている。
企業データ
- 企業名
- クラシエフーズ株式会社
- Webサイト
- 代表者
- 代表取締役社長 栗本佳信
- 所在地
- 東京都港区海岸3-20-20
- Tel
- 03-5446-3291
掲載日:2011年11月16日