技術者の誇りと情熱をモノづくりに賭ける

永島正嗣(エステック) 第4回「品質管理と人材育成」

永島正嗣社長 永島正嗣社長
永島正嗣社長

クレーム隠すからクレームが増える

ベクトル研磨する装置

エステックの高い技術力を下支えしているのが、永島がかつて農業機械メーカーで5年間学んだ品質管理の大切さだった。

「クレームというのは隠そうとすると、確かにクレーム費は少なくなりますが、クレームが職場に密閉されて外に出てこなくなります。品質管理の責任者がクレームを10%削減する目標を立てれば、現場は目標数字を達成するためクレームが見つかっても隠そうとします。クレームを外に出さないからクレームが増えるんです」

エステックはどのようにこの問題を克服しているのだろうか。

「当社の場合、クレームは会社の良き財産なんだという共通認識があります。クレーム情報を共有化するため、仮にどこかの組立装置にクレームが発生すれば、社内で発表する制度を設けています。そうすればほかの装置の組立現場で2度と同じような間違いが起こることはありません」とキッパリ。

品質管理の国際標準である「ISO9000」。どこの会社でも作成する申請書に、クレームの削減目標を明記するのが常識。しかし、エステックの記入方法はまったく逆。「クレームを出そう」と入記しているのだ。「品質へのこだわり」を示す格好のエピソードだ。

新卒採用避け中途採用に絞る

永島が品質管理とともに、経営で重視しているのが人材育成である。

去る4月24日、2007年版「中小企業白書」が閣議決定された。白書では「中小企業にとって中途採用で実力ある人材をどれだけ獲得できるかが重要だ」と指摘している。図らずもエステックは、この中途採用を有言実行している中小企業なのである。

「ウチは新卒採用を一切していません」というから半端じゃない。

永島の理由はハッキリしている。「大学生の年間の休日は120日から150日です。そんな大学生活を過ごした人間が使いものになるでしょうか。しかも新卒で就職しても3年以内に退職する人間が40%から50%を占める時代です。他社で経験を積んだ即戦力となる人材だけを募集している理由です」。永島の新卒嫌いはまさに筋金入りなのである。

永島がする社内での新年の挨拶は毎年同じ言葉で締めくくられる。

「大きな会社でも倒産する時代だからウチの会社がいつ潰れてもおかしくはない。自分で勉強して、他社からぜひ来て欲しいと言われる技術を身につけて欲しい。中小企業に新人教育している余裕はないし、教育係もいないのだから」

経営には常にリスクがあることを毎年、メッセージで送り続けているのである。

モノづくりの人材育成に対する思いは、こんなボランティア活動にも現れている。

新築して間もない本社ビルの4階に、「サイエンス21」という近所の子供たちが集う「子供クラブ」がある。子供の理科離れが激しいことに危機感を抱いた永島が、東出雲町長に掛け合って町の教育委員会に「場所もお金も提供するから、とにかく、子供を集めて欲しい」と協力を呼びかけたのが始まりだった。

06年9月にスタートした子供クラブの反響は予想外に大きく、町の青年部や若い現役の技術者ら合計10名の講師がボランティアとして駆けつけたのである。

クラブに参加した子供たちは小中学生合わせて23名。毎月1回開かれるクラブ活動で最も人気なのがロボット作り。

「モノを作らせると、子供たちの目の色が違ってきます」

外から目視による観察ができるスパッタリング

そんな永島だが、人材不足についての悩みは大きい。地方に拠点を構えることによる人材確保の難しさである。

「会社をこれ以上、発展させようにも、過疎化しているこの地域で人材を集めるのは至難の業です。やはり東京に進出して優秀な人材を集めることが喫緊の課題なんです」

永島は取引銀行や証券会社などを通じて、事業承継に困っている10人から20人規模の機械メーカーに対するM&Aを、今年の経営目標の一つに掲げているのである。(敬称略)

掲載日:2007年6月4日