中小企業応援士に聞く
「三方よし」の精神で地域、取引先、従業員と共に成長を目指す【アクト中食株式会社(広島市西区)代表取締役社長・平岩由紀雄氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2022年 10月17日
1.事業内容をおしえてください
生鮮食品を含む食材・酒類など約2万アイテムの商品を取り扱い、約7000軒の飲食店に供給するという食品卸業を展開している。1911(明治44)年の創業で、2021年に創業110年を迎えた。もともとは米穀店として創業したが、一般顧客が郊外に移り住む一方で、周辺に飲食店が増えたことから、調味料を頻繁に扱うようになった。そこから飲食店向けの業務用総合食品問屋、さらに業務用食品スーパーを始め、今の業態に至っている。
今年4月には事業再構築補助金を活用して新事業に着手した。世界最高峰の冷凍技術を駆使した業務用冷凍機器の販売・商品開発を行うもので、フードビジネストランスフォーメーション事業部に新設したフードプロテック部が担当している。新たに開発したアルコール急速凍結機「ACT-H」は高性能で省スペース・低価格を実現。急速冷凍によって食品を最も品質の良い状態で長期保存することが可能となり、コロナ禍で仕入れ予測が難しくなった取引先の飲食店からは好評を得ている。さらに、急速凍結機と冷凍自動販売機「ど冷えもん」を組み合わせた新たなビジネスモデルの提案も行っている。私たち卸が新たな価値を創造して需要を創出していきたい。
働き方改革にも本格的に取り組んでいる。「皆が誇りを持てる良い会社を目指す」という基本方針を立て、私が旗振り役となって取り組みを進めている。具体的には、有給休暇の取得促進や業務改善(生産性向上)による残業時間の削減などを推進してきた。こうした取り組みが評価され、2018年には広島県から「働き方改革実践企業」の認定を受けた。県の「働き方改革・女性活躍取組サポートサイト」で事例として紹介されるなど、昨今の働き方改革の普及啓発に貢献している。
当社は、創業以来大切にしている「三方よし」(お得意様の繁栄、仕入先様の発展、全社員の幸福)の精神を守り、地域や取引先、そして従業員と一緒に成長していく会社であり続けている。なお、社名にある「アクト」は「Ambitious(大志)」「Challenge(挑戦)」「Together(一緒に)」の頭文字で、「大きな志に向けてみんなで挑戦する」といった成長への歩みが込められている。
2.強みは何でしょう
強みとしては、「食」のコンテンツ開発から流通・販売までの全てをサポートしていく「JAPANフードターミナル」機能を有している点だ。当社にはメーカーを含め約700社の仕入れ先があり、約7000軒の顧客である飲食店がある。「JAPANフードターミナル」は、仕入れた商品を右から左に流すのではなく、仕入れ先と顧客が一つのチームとして商品開発や販売・流通などの課題解決に取り組んでいこうというものだ。たとえば、ある飲食店の名物料理を仕入れ先のメーカーに量産してもらい、外食チェーンなどで販売してもらう、といったことが挙げられる。当社がフードターミナルのハブ(中心地)となり、飲食業界のあらゆる「困りごと」をサポートしている。
最近では農業にも力を入れている。契約した農家が栽培した全ての無農薬野菜を買い取り、当社が野菜の販売先を見つけて販売したり、単なる仕入れではなく商品の共同開発にも参画したりなど、事業を組み合わせ、地域密着企業として、地域生産者の課題を解決する一助を担っている。
3.課題はありますか
社長に就任して14年が過ぎたが、失敗もずいぶんあった。そのなかでも大きな失敗だったのが、2012年にグループ会社が巧妙な詐欺の被害にあい、多額の不良債権が発生したことだ。数億円もの売掛金が回収できなくなり、月末の支払いにも事欠き、このままでは倒産といった局面に至った。資金をなんとか工面して最悪の事態を免れたが、顧客や従業員の間には「アクトはつぶれる」といううわさが広まっていた。その対応に追われるなか、心身とも疲弊して辞めていった社員もいた。
当社としては、業務グループごとに社員を集めて状況を説明し、動揺の鎮静化に努めた。それと同時に、社員に協力を呼びかけ、「何か言いたいことがあれば全部書いて出すように」と社員の声を集めた。すると次から次へとさまざまな要望が出てきた。当社の経営理念である「三方よし」では「全社員の幸福」を謳っている。しかし、それをどう実現していくのかという方針を明確に示していなかった。そこで私は、社員から上がってきた要望をすべて叶えると約束した。
その約束を果たすため、たとえば「給料を上げてほしい」という要望に対しては2016年度から3期連続で3000万円ずつ原資を増額してきた。また「残業を減らしてほしい」との要望については、中小機構の支援も受けつつ働き方改革に取り組み、残業時間をある程度削減できた。もちろん、これで約束を果たせたわけではない。3年前には「10年以内に平均給与を100万円アップさせる」「4日働いて3日休む労働形態をつくる」と社員に宣言しており、ぜひとも実現させたい。
4.将来をどう展望しますか
2022年度についてはIT化とビジネスモデル革新をさらに進め、より収益性の高い事業を開発していくことで、全体の生産性を底上げしていき、コロナ禍前の2019年に掲げた10年後の長期ビジョンの実現に向かって取り組んでいきたいと考えている。組織運営の方針については、いかなる時もグループがワンチームで協力し合うことを大切にする「共存共栄」を継続するとともに、今年から「成長至上主義」という方針を新たに加えた。自ら成長すること、また、周りの人の成長に協力するということをアクトグループの企業文化にしていきたいと考えている。
それぞれの目標、計画をしっかり共有して取り組んでいき、全員が少しずつでも確実に成長し続け、会社も成長していければと考えている。2022年度は100年に1度のチャンスをつかんだという実感が数字で得られる1年にしたいと願っている。
5. 経営者として大切にしていることは何ですか
中四国を拠点とするアクトグループは、地域の活性化に貢献し、地域とともに成長しつつある。たとえば今年4月に当社近くにオープンした無印良品広島アルパーク店(広島市西区)では、地域の野菜・加工品を調達するにあたり、地域の活性化と成長に向け、当社のフードターミナル事業部や商品開発部、アグリプロデュース部が部署を横断して事業に取り組んでいる。また、飲食店との長年の付き合いで蓄積された店舗経営ノウハウを活用した店舗開業支援も行っており、当社の顧客を新たに創生するだけでなく、地域の発展に対して貢献している点も大きい。
当社は2011年に創業100周年を迎えた。その節目の時期の経営者として私の一番重要な役割は、次の100年、創業200周年に向けて志を立て、そこに向けて舵を切ることだと認識している。具体的には、会社形態を(1)社会課題解決型(2)研究開発型—に近づけていきたい。
6.応援士としての抱負は
これから日本の社会課題が増えていくなかで、経営者の社会的責任はますます大きくなっていくのだろう。そうであるならば、そこに積極的に向かっていく姿勢が大切なのではないかと思っている。さまざまな業界がコロナ禍で大きなダメージを受けている今、中小機構様とともに求められる役割をしっかり果たしていきたいと考えている。
企業データ
- 企業名
- アクト中食(ちゅうしょく)株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1911年
- 代表者
- 平岩由紀雄 氏
- 所在地
- 広島県広島市西区草津港2-6-60
- Tel
- 082-278-0005
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