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京丹後で評判の天然塩を事業承継、地域ブランド化に挑戦「マーケデザイン株式会社」
2024年 10月 28日
京都府の北部、丹後半島にある京丹後市には関西屈指の透明度を誇る美しい海が広がる。その海水を汲み上げ、昔ながらの製法で作られた天然塩がある。まろやかなうま味がある天然塩は地元の料理人たちに重宝されていたが、30年にわたってその塩を作り続けてきた塩職人が引退を決意。京都市伏見区で商品のパッケージデザイン制作などを手掛けるマーケデザイン株式会社の小林弘幸代表取締役が2023年に事業を引き継ぐことになった。
知人から思わぬ依頼 「出会い」のきっかけに
「知人にこの塩のファンがいて、『一度、見にいかないか』と誘いを受けたのがきっかけだった。塩を作っている職人が後継ぎを探しているが、引き継ぐにしてもブランドを見直したほうがいいと言うので、まずは会ってみることにした」
小林氏は2021年にマーケデザインを設立し、主に中小の食品事業者を取引先に食品を中心にしたパッケージのデザイン制作を手掛けている。商品の企画・開発段階から参画。ブランディングやマーケティングを含めたトータルな商品開発支援を展開している。知人の依頼に「話だけでも聞いてみるか」と軽い気持ちで引き受けたという。
小林氏は大学を卒業後、大手電機メーカーに就職。もともとデザインとは縁遠い仕事をしていたが、その後、京都市内の中小企業に転職。その会社が新規に立ち上げたブランディング事業に携わった。その事業は既存事業を上回る成長を果たし、小林氏は取締役に昇進した。だが、現場から離れることに違和感を持っていた小林氏。「もう一度現場に出たい」との思いを強くし、独立を決意した。
マーケデザインでの業務は前職での経験と実績を生かしたものだ。「新型コロナウイルスの感染拡大で働き方が大きく変化し、プロジェクトごとに外部の人材を集めて実行できるようになった。このビジネスモデルを実践したかった」と小林氏。自身のネットワークを駆使し、幅広い分野の人材とチームを組んでビジネスを展開している。
「俺がやるしか…」 事業引き継ぎを決断
知人から天然塩のブランディングの相談を受けたのは独立から2年ほどが経過し、事業が軌道に乗り始めたころだった。2023年2月に知人とともに塩づくりの工房を訪ねた。塩職人の池田龍彦氏は1995年から夕日の名所である夕日ヶ浦の海岸で3000リットルの海水をくみ上げ、平釜で1週間、海水を炊き上げて60~70キロの天然塩を生産してきた。商品名は「太郎塩」。この地に残る浦島太郎伝説からネーミングしたという。
実際に試食してみると確かにおいしかった。そこで、リブランディングの提案をすることにした。「個人で事業をしている方だったのであまり費用はかけられない。いざとなれば、小規模事業者持続化補助金を活用して取り組んでもらえればいい」と考えたそうだ。
後日、池田氏に夕日と海、京丹後の特産品である絹をイメージしたロゴデザインや京都・丹後を前面に出した「丹後絹塩」というネーミングを提案した。しかし、池田氏の反応はいま一つだった。
池田氏から、よくよく話を聞くと、すでに当時76歳と高齢で、ブランドを残すことにこだわりがなかった。「自分の塩の製法だけ残ればいい」とも口にしていた。事業承継の仲立ちをする地域の継業バンクにも登録したが、なかなかいい出会いがなかった。そんな状況に小林氏は知人に「君がやったらどうか」と働きかけると、逆に「小林さんがやらないか」と返された。乗りかかった船。「ならば、俺がやるしかないか…」と事業を引き継ぐことを決めた。
小林氏は提案にあたって、塩の生産量を増やし、地域のブランドとして高める戦略を立てていた。「丹後ちりめんで栄えたように天然塩が広まれば、地域の活性化にもつながる。事業承継する意義は大きいと感じた」と語る。
支援機関を積極活用 手続きもスムーズに
小林氏は事業を引き継ぐにあたって、京都府事業承継・引継ぎセンターのサポートを受けることにした。所属していた京都市商工会議所に補助金の相談にいったところ、「事業承継するなら、事業承継・引継ぎセンターがある」と紹介を受けた。
今回の事業承継は一般的な親族に対してではなく、もともと働いていた社員に対してでもない第三者による承継。M&A(合併・買収)によって事業を譲渡する手続きになる。「具体的にどういった手続きが必要なのかよく分からなかった。センターが無料で相談に乗ってくれるということを知り、利用することにした」と小林氏は語る。
センターに所属する専門家が手続きに必要な契約書の作成を手伝ってくれたり、弁護士を紹介してくれたりと親身に支援してくれた。手続きもスムーズに進めることができた。2023年11月に事業承継の契約を締結。受け皿会社となる「丹後絹塩株式会社」を設立した。
事業戦略を自ら実践 「丹後絹塩」を展開
現在、これまで池田氏と一緒に塩を作っていた従業員1人が池田氏の釜で塩づくりを継続している。さらに補助金を活用し、2024年3月に釜を1つ増設。塩づくりに名乗りを上げた若者が現れ、池田氏から技術指導を受けながら塩の製造を始めた。小林氏のもとには「京丹後に移住して塩づくりを始めたい」という申し出もあり、釜のさらなる増設も視野に入っている。
小林氏は彼らが製造した塩を全量買い取り、「丹後絹塩」のブランドで販売するが、「単なる塩を売る会社ではないと思っている」と力を込めた。菓子や飲料、漬物などの食品…。丹後絹塩を使ったさまざまな商品を提案し、地域ブランドとしての価値を高めていくことを狙っている。
さらに地元の宿泊施設や飲食店などで料理に使ってもらうことで需要が増えれば、塩づくりの工房を増やすことができる。美しい自然に囲まれた京丹後に移住したいと考えている人たちに塩づくりに取り組んでもらえば、収入が安定し、京丹後に定着できる環境を整えることもできる。地域の活性化に貢献する企業に育て上げることが小林氏の大きな目標だ。
小林氏は、丹後絹塩で自身が作成したブランディングやマーケティングの戦略を自ら実践することになる。「ふだんはお客様に提案したプランは、お客様が採用するかどうかを最終決定するが、この会社では自分で最終決定する。いろいろと面白く感じながら事業を行っている」と小林氏は目を輝かせていた。
企業データ
- 企業名
- マーケデザイン株式会社
- Webサイト
- 設立
- 2021年6月
- 資本金
- 300万円
- 従業員数
- 2人
- 代表者
- 小林弘幸 氏
- 所在地
- 京都市伏見区横大路菅本2−19 BOSS BUILDING 4階
- Tel
- 075-585-3220
- 事業内容
- パッケージデザイン・コンサルティング、容器・包装資材製造販売など