中小企業NEWS特集記事
「能戸フーズ」“がごめ昆布”を全国に
この記事の内容
- 地域資源生かすため、一人の主婦が起業
- 専門家から的確なアドバイスを受ける
- 進む方向が見え、積極的な販売に意欲を示す
「会社を設立したものの、何をどうしていいか分からず、闇雲に動いていましたが、よろず支援拠点を知り、コーディネーターに相談したところ、『一緒に頑張りましょう』と言われ、非常に心強かった」
2014年6月に昆布やその加工品販売で「能戸フーズ」(北海道函館市)を創業した能戸圭恵(たまえ)代表取締役(41)はこう振り返る。
函館市東部に広がる亀田半島の太平洋岸に位置する旧南茅部地区(現尾札部町周辺)は、昆布の産地として知られる。北海道で唯一、親潮と黒潮が混ざり、日照時間も長く、近隣の広葉樹の山からミネラル分が川から海に流れ込みむなど昆布の生育条件がそろっており、古くから真昆布、がごめ昆布が獲れた。かつては朝廷や将軍家に献上されたというほどの高品質だ。とくに、がごめ昆布はフコイダン、アルギン酸など健康維持や栄養成分を多く含有し、健康食品として扱われることもある。
能戸氏の義理の父親が経営していた水産加工会社「能戸水産」は、学者からも栄養価が高いと評価され、知名度も上がっていた、がごめ昆布に着目。2004年から昆布だけでなく、とろろ昆布、醤油やポン酢などの加工品や調味料の販売を始めた。だが、水産物の水揚げ減少や燃料費高騰などにより、同社は13年に廃業が決まった。
尾札部町に嫁いできて、がごめ昆布を知り、4人の子供たちもこの昆布を使った料理を楽しんでいた圭恵氏は、全国的に売れ始めていた昆布を「ここでしか獲れない高級品。常連客もついていたし、何とか残したい」と考え、能戸水産から販売権を譲り受け、「自己資金だけで、1人で」新会社を設立した。
義父の会社を半年ばかり手伝っていたとはいえ、会社経営は初めて。創業時に補助金を受けようと奔走しているうちに、できたばかりのよろず支援拠点を知り、相談に行く。「まずマーケティングの基礎から売り上げ分析、ブランディングなどについて、一から教わりました」。商品開発などについては、同拠点からの紹介で地元商工会議所の専門家派遣も受けた。
この間、パッケージを変更したり、ホームページ(「昆布村」)を作成したりした。また、地元新聞社とよろず支援拠点が連携して東京で開催している販売イベントにも参加して市場調査するなど「何でも一人でやっていた」。
獅子奮迅の活躍により、「2年目の決算では計画を達成できた。今年度も2桁の売り上げ増を見込んでいる」という。これまで廃棄していた昆布の根の部分を使ったサプリメントの新商品開発にも乗り出した。
今もよろず支援拠点や商工会議所などの支援を受けているが、現在は2人のパートも雇い、「進む方向が分かってきた気がします」という。
「自信を持って勧められる商品。とくに『天然がごめ昆布醤油』はリピート率が高く、今年の『日本ギフト大賞』で北海道賞を受賞したので、もっとPRしたい」と、今後は地元・函館や札幌などの北海道だけでなく、全国に売っていくために「もっと外回りして攻めていきたい」。
将来の希望を聞いたところ、「高齢化で収穫量も落ちているので、昆布の洗浄、乾燥工程ができる工場をつくり、品質を安定させると同時に、雇用もつくりたい」。販売先も、すでにハワイのスーパーで試験販売しており、「ネット通販などで海外にも売りたい」と夢を膨らませる。
地域資源を生かすために1人の主婦が始めた新会社が、地域活性化に向けて着実に歩み始めた。
中野貴英・北海道よろず支援拠点チーフコーディネーターのコメント
能戸社長は、創業に向け優先的に取り組まなければいけないことに迷い、その相談先として北海道よろず支援拠点を訪れました。創業補助金の申込窓口となる北海道中小企業支援センターでよろず支援拠点の開設を知ったそうです。
話を聞き創業に向けた優先課題として、1)事業計画の策定2)資金調達3)販売手法の確立-の3点をターゲットに設定。一緒になって課題解決に取り組むことにしました。
商品開発では、首都圏に向けたマーケティング事業である「Made in北海道」(主催・北海道新聞社)があり、北海道よろず支援拠点も連携し実施していたので、これを活用することを勧めました。調査データをもとに販売先として有望な顧客の関係性を分析し、PRポイントを明確にした商品開発につなげることができました。
企業データ
- 企業名
- 能戸フーズ
- 資本金
- 100万円
- 代表者
- 能戸圭恵氏
- 所在地
- 函館市尾札部町784
- Tel
- 0138-63-3211
- 事業内容
- がごめ昆布、真昆布の販売、昆布調味料・同加工品の企画販売