冷凍ピザから年商200億円の総合食品会社築く
大河原愛子(ジェーシー・コムサ) 第4回「中小企業の強み」
スピード経営支える決断力
中小企業の強みの1つは、スピード経営にある。経営者自身の判断で決断できることだ。現実に社長の決断が求められる案件が毎日、山積される。即断即決で処理していかなければ会社は動かないし、前に進まないのが中小企業の宿命でもある。中小企業の強みについて大河原はこんな例え話で持論を展開する。
「ダーウインの進化論によく出てくる話ですが、一番大きなもの、一番早いものが生き残るのではなくて、一番環境に順応できるものが生き残るんですね。中小企業の有利な点は環境の変化に合わせて素早く経営を変えていけることです。その点、大企業は進化が遅いと思います」
テキパキと判断し実行するのが中小企業のオーナー経営者の醍醐味である。実行力のある大河原にとって、ビジネスの世界は魅力にあふれているわけだ。そんな大河原がまさに決断を迫られている2つの経営課題がある。「決断には責任も伴います」と大河原が強調するように、判断と決断を誤れば社運を左右するだけに、そう簡単に踏み切れないのも現実だ。
直面する課題の1つは物流システム。「一番どり」など直営の外食店だけで全国に約200店舗を抱え、そのほかに工場から外食チェーン店への商品の納入など多岐にわたる。トラック輸送は同社の生命線でもある。これを直撃したのがガソリンや軽油価格の高騰。大河原が嘆くのは燃料費の問題だけではない。日本の道路事情も経営圧迫の要因になっているという。
「工場から地方の工場、地方のお店まで営業車を使って商品を運ぶのですが、道路が狭いので10t車が使える場所にも限りがあり、どうしても4t車を使うケースが多くなってしまう。これが物流コストを圧迫する要因でもあります」
この問題についても大河原は、持ち前のチャレンジ精神をいかんなく発揮している。
「物流の専門家を交えて、今年こそ、この問題にメスを入れようとしているところです」
今のところ具体的なことは明らかにしていないが、大河原は不退転の決意で課題克服に取り組む覚悟だ。
もう1つの課題は海外進出。中国を中心とする東南アジアへの店舗展開は大河原の悲願でもある。ジェーシー・コムサの強みは、食に関する世界の情報をチェックし、隠れたヒット商品を探し歩いていることだ。今度は海外のグルメ事情のノウハウを生かしながら、日本の消費者に続いて東南アジアの消費者に日本食を提供することが、大河原の新たな事業戦略として位置づけられている。
日本に求められる多くの成功モデル
米国籍の大河原から見た日本のベンチャービジネスはどう映っているのだろうか。このことについて大河原は真っ先に「日本は失敗した人を許さないところがあります」と、社会的な厳しさを指摘する。「米国は2、3度失敗しても、むしろ経験を積んだチャレンジ精神に富んだ経営者として評価される社会ですよ。それに日本の場合、成功すると出る杭は打たれると申しますように、社会から叩かれてしまいます。その意味でもビル・ゲイツのようなモデルとなる成功者がたくさん出ることが望ましいですね」という。
その一方で、日本でビジネスを営むことについてこんな見方をする。
「日本の消費者の要求は世界一高いといっても差し支えないでしょう。だからメーカーもこの要求に応えるため、良い商品をリーズナブルな価格で提供しなければいけない。世界的にもまれに見る競争の激しい市場といえると思います」
そんな厳しい競争市場で勝ち抜くことができれば、経営者として確かな成功を実感できるはず。
女性というハンディを背負いながらも、冷凍ピザを軸に厳しい日本市場を開拓してきた大河原。自身の半生を振り返りながら、「仕事としてビジネスが一番おもしろいと思っているのです。多分、弁護士になっていたら退屈したと思いますね(笑)」という。新たなビジネス課題に突き進む大河原の挑戦が終わることはない。(敬称略)
■ プロフィール
大河原 愛子(おおかわら あいこ)
1941年、米国ハワイ州ホノルル生まれ。
ホノルルの中学校を卒業後、1年間東京のアメリカンスクールで日本語を勉強。
米国に戻りノースウエスタン大学を卒業後、スイスのジュネーブ大学法律学部に留学し国際弁護士資格を取得。1964年に卒業とともに来日。父親が創設したピザの輸入販売会社に入り実質的な経営者として日本のピザ市場のパイオニアとなる。
1991年にニュービジネス協議会の女性起業家大賞、1992年に日刊工業新聞社の婦人経営者賞、1998年に世界女性起業家賞などを受賞。
■ 会社概要
社名 |
(株)ジェーシー・コムサ |
設立 |
1964年11月19日 |
代表者 |
大河原 愛子 |
事業内容 |
ピザを主力とする食料品の製造・販売、外食産業、その他 |
資本金 |
8億2,381万円(2007年6月28日現在) |
売上高 |
19,806百万円(2007年3月期、連結) |
従業員数 |
合計824名(社員216名・パートナー608名、2007年6月28日現在) |
本社 |
東京都渋谷区恵比寿南1-15-1 JT恵比寿南ビル |
掲載日:2007年7月30日