お客様が使ってくれてこそモノづくり
刀原精(アルプスエンジニアリング) 第1回「新連携との出会い」
技術とノウハウの「強み」持ち寄る
「いいモノを作っていますね。一度、私共の展示コーナーも見に来てください」2004年6月に東京ビッグサイトで開かれたFRP(フラットパネルディスプレイ)製造の展示会でアルプスエンジニアリングの社長刀原 精に声をかけてきた人物がいた。レーザー技術で知られる研究開発型ベンチャーの「レミ」(東京・町田市、軽部規夫社長)の幹部である。来場者への対応に忙しく、あまり気の進まなかった刀原だったが、たまたまブースが近かったこともあり、レミのブースに足を運んでみた。展示品を見た途端、刀原は「これはいける」と、技術者の研ぎ澄まされた勘がひらめいた。
アルプスエンジニアリングが中小企業庁の助成制度「新連携」の支援を受けることになったのは、これがキッカケだった。
レミは、当時レーザーによるガラススクライバーを出展していた。
ガラスカット作業は通常、ダイヤモンドカッターで行われるが、切断面が粗いため研磨作業が必要となる。その分、クリーンルームの汚染、加工工程の増加、マイクロクラックによるガラス強度の低下など、数多くの技術的課題に悩まされていた。
これを解決するにはレーザーでのガラスカットがベターだが、ガラスの厚みに対して数分の一の深さでガラスを溶融などの欠損を出さずに切り裂くレーザー(スクライバー)と、その後の物理的に割る(ブレイカー)の技術が必要となる。レミではスクライバーは試作したものの、ブレイカーと併せたガラスカット装置開発に手こずっていた。
一方、アルプスエンジニアリングは、液晶、プラズマパネル、有機ELといった薄型パネル関連分野で真空機器などの装置製造事業を展開しており、またマイクロブラスト(後述)や機械加工分野で精密加工事業を展開する中、レーザーによる精密加工事業を目指していた。刀原が「これはいける」と考えたのも、自社の精密加工に不可欠な技術だったからだ。
両者の目的が一致し、共同開発の話はトントン拍子で進んだ。
早くも1年半後に製品納入
ところが、共同開発するのはよいが、先立つ資金の目途が立たない。とくにアルプスエンジニアリングは研究開発投資を先行させてきたため、あと一押しするための資金が不足していた。民間金融機関からの追加融資にも限界がある。
こうした中で着目したのが国や自治体の助成制度である。「助成制度を利用する方法がないものか」「共同開発に相応しい制度はないか」と、幹部たちが手分けして国や民間の出先機関に問い合わせた。幹部の一人が、日頃から馴染みのあった浜松商工会議所に駆け込んだ。会議所の担当者は事情を聞くなり、「新連携の制度が使えるはずだ」と判断、即座に関東経済産業局と連絡を取ってくれた。関東経済産業局も骨を折ってくれ、最終的に同社が「新連携」の事務局のある中小機構関東と連絡を取るまでに、そう時間は必要としなかった。
アルプスエンジニアリングはレミのほか、静岡大学工学部と浜松工業技術センターを連携協力者に伝えて申請した。2005年4月に「新連携」制度がスタートしてから数ヶ月後のこと。新連携とはどのような制度か中小企業に十分理解されていない時だっただけに、案件を募集していた関係機関の担当者達が「打ってつけのプロジェクト」と喜んだという。その夏には早々と認定された。
刀原の経営者としての手腕と運の強さに、朝の定例役員会に居並ぶ経営幹部も感嘆の声をあげた。そして、僅か1年半後には1足す1が3にも4にもなる画期的なレーザーを用いた粉塵の出ない無欠点ガラスカット装置を完成してしまった。
新連携とは、中小企業同士が「強み」である技術とノウハウを持ち寄って高付加価値の製品やサービスを創出する新たな連携を支援する制度だ。新連携として認定されると、高度化融資・設備投資減税・特許料免税措置など数々の特典が得られる。
刀原は1年半前に認定された際、「2006年度から装置の販売を始めます」と声高に計画を発表した。この言葉どおり、早くも大手ユーザーにプロトタイプ数台の納入にこぎつけた。
「パネルの量産ラインに導入して初めて事業化に成功したと言えます」。
刀原は「新連携」制度を活用した事業に将来への確かな手応えを感じた。(敬称略)
掲載日:2006年12月11日