中小企業応援士に聞く
若手人材の力でステップアップ【株式会社稲沢鐵工(長崎県松浦市)代表取締役・稲沢文員(いなざわ・ふみかず)氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2024年 1月 25日
1.事業内容をおしえてください
住宅用の鉄骨階段の製造販売と、特定の顧客向けに鉄骨加工を行う鉄骨事業の二つの事業を行っている。祖業は父が船舶用の船釘を製作する鍛冶屋として創業したのが始まり。その後鉄工業へと転身したが、1979年に父が亡くなり、バブル経済の崩壊と相まって業績は急速に悪化した。私が勤めていた建築設計事務所を辞めて入社した時には、社員は3人にまで減っていた。「何とか他社と差別化する事業にしなければ」と新工場を建設し、当時まだそう普及してなかったCADを導入した設計を採り入れて生産性を高める努力をした。同時にニッチ分野の軽量形鋼に参入した。1999年にさらに差別化を推し進めようと階段事業に着手した。当初は外部のデザイナーにデザインを依頼していたが、自社でデザインまで行えるように陣容を拡充した。現在は住宅用階段で九州トップクラスであり、国内でも有数の実績を持つところまで成長できた。
2.強みは何でしょう
当社が扱う階段は、デザイン性が高く住宅のインテリアとしての役割も持つデザイナーズ階段というもの。セミオーダー式で、住宅ごとにステップの幅や高さが異なる。また仕上げ塗装工程は3段階あり高度な技術が求められる。製作に必要なプラズマ切断機やプレス機、レーザー加工機などを積極的に導入し、顧客の要望にきめ細かく対応する生産体制を整えてきた。製造した階段をパーツごとにキットにして梱包し全国の施工現場に送るのも独自の取り組みだ。階段は大きな姿のままだと、住宅建築の早い段階で設置しなければならず、どうしても汚れや傷がついてしまう。当社の製品は建築の最終工程で納品し、現場で組み立てるので、きれいな状態で設置できる。
社内には若い人材がたくさんいるのも強みだ。2018年に新工場と新本社を建設するのに合わせて社内環境を一新したことで、若い人材が集まるようになった。社員寮やアパートも用意している。女性も積極的に採用し、設計や製作、営業の最前線で活躍している。また、クレーン作業、フォークリフト操作、有機溶剤の取り扱いなどの専門の資格取得も会社の負担で奨励し、スキルアップを支援している。
3.課題はありますか。それをどのようにして乗り越えましたか。
階段事業は順調に成長してきたが、複雑な生産工程でのミスやロスが発生していた。そこで、中小機構から経営実務支援事業を受けて社内の勉強会を開催するなど対策に取り組んだ。生産工程の見直しとともに、業務全体の見直しにも着手した。中小機構の専門家継続派遣事業を依頼し、業務フローや品質管理体制を構築した。現在は、社内DX化に着手ERP(統合基幹業務システム)導入を計画し、受注から出荷、製品管理の情報を一元管理する体制づくりに取り組んでいる。残業時間の削減や、業務見直しで余剰となった人材を新事業へ振り向けるなど、効果も期待している。
4.将来をどう展望しますか
少子高齢化という構造的な課題に加えて、原材料・エネルギー価格の高騰、人手不足や賃上など多くの課題に直面している。当社が手掛ける鉄骨階段は順調に市場が拡大してきたが、これからは大きな成長は難しいとみている。ただ、鉄を使った仕事は無限にある。階段メーカーとしての立ち位置をさらに磨くとともに、小物家具や家具とコラボした棚や小物製品など、新しい分野にも挑戦していく。販売にはSNSを積極的に活用し、個人客に直接アプローチする販路開拓にも取り組むつもりだ。若い人材をこうした新しい分野に配置して、活躍してもらうことを期待している。
海外事業も視野に入れている。インドネシアから技能実習生を受けており、すでに帰国した人もいるが、現地にはなかなか仕事がないという。インドネシアには、当社が扱うような鉄骨階段の需要はまだまだ少ないので、まずは現地で設計を受託する体制を作ろうと考えている。現地で設計ができる人材を育成し、将来市場が成熟すれば現地での販売にも結び付けていく。
厳しい時代になってきたが、そんな時こそチャンスだと思う。気持ちを引き締めて、自社の価値を見直し、将来に向けた体制づくりをしていきたい。
5.経営者として大切にしていることは何ですか
会社の存在価値を常に考えている。この地域、この社会で当社が受け入れられれば成長していけるだろう。利益より存在価値を重視したい。お客様の満足、社員の満足を高めることが成長につながる。
私自身は2019年から松浦商工会議所の会頭を務めており、地域経済の活性化に取り組んでいる。地域事業社と行政、金融機関等が連携して、地域の衰退を押しとどめていきたい。松浦市には元寇船が発見され、引き上げを期待している状況であり、歴史的価値のある文化遺跡がある。こうした観光資源も有効活用して地域の活性化を計っていきたい。若い世代がこれからも暮らしていけるまちづくりがテーマだ。
6.応援士としての抱負は
当社が中小機構の支援策を利用して改革を進めた体験を話していこうと思っている。機構のアドバイザーからの指摘は、それまで気づかなかった点が多くあり、目からうろこだった。自社を伸ばしたい、やりたいことがあるという会社に、こういう機関がありますよ、絶対利用し、活用していくべきだと伝えたい。
企業データ
- 企業名
- 株式会社稲沢鐵工
- Webサイト
- 設立
- 1955年1月
- 代表者
- 稲沢文員 氏
- 所在地
- 長崎県松浦市御厨町上登木免325-1
- Tel
- 0956-75-1187
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