経営課題別に見る 中小企業グッドカンパニー事例集
「株式会社 DG TAKANO」ベンチャー型事業承継の道
DG TAKANOは、社会課題から製品開発をデザインするITベンチャー企業である。節水市場に着目し、家業で慣れ親しんだ金属加工技術を活かした節水ノズル「Bubble90」を開発した。同製品は"超"モノづくり部品大賞で大賞を受賞。その後、家業を吸収合併してコアな技術を承継し、現在は事業承継で得た問題解決の考え方を体系化したコンサルティングも行う。ベンチャー型事業承継という、後継者不足に悩む日本の中小企業にとっては新しい形の事業承継の成功ポイントに迫る。
この記事のポイント
- ビジョンを明確にして、ぶれない企業運営
- 情報収集・分析を重視した節水市場への新規参入
- デザイン思考を用いた社会的課題を解決するための製品開発
- 家業のコアコンピタンスのみを承継してベンチャー型事業承継
技術力があっても収益性は低い家業
ガス器具の部品を製造する高野精工社の3代目にあたる株式会社 DG TAKANOの高野雅彰さんは、父親の家業を継ぐ気はなかった。なぜなら、技術力が高くても低利益の事業に将来性を感じなかったからである。下請け企業として親会社に納める部品の単価は低く、ガス器具の中で一番重要な部品であっても数百円の価格であった。
「父親の部品がなければ、ガスに火も付けられない。なのに、利益は完成品メーカーがもっていく」(高野さん)。
家業の技術力は世界で認められ海外から視察が来るほどで、1,000分の2mm以下での精密加工ができていたが、利益率は高くなかった。
そのため、高野さんは家業を継ぐ選択をせずに社会課題から製品開発をデザインするITベンチャー企業を創業した。
家業の技術力を活かして開発した現在の主力事業の一つが節水ノズル「Bubble90」である。これは、内部で水道水に空気を効率よく含ませることで水を泡状に変換する。さらに、その放出量に変化を加えながら連続的に放出させることにより高い洗浄力と超節水を実現。内部構造だけで水を振動させるこの技術は、国際特許になっている。「Bubble90」から出るわずか10%の水流は、通常の蛇口から出る100%の水流に匹敵する洗浄力がある。従来の節水コマ内蔵タイプや水圧を落としたタイプに比べて、節水効果と高い洗浄力を両立する課題を、高野さんは解決したのである。
その後、ガス器具の部品製造を続けてきた高野精工社から事業をそのまま受け継ぐのではなく、コアな技術のみを継承してベンチャー型事業承継を行った。
参入市場や製品開発の経営判断には情報が重要
高野さんは、製品開発や経営戦略を練るには「情報が重要だと考える。情報がないと経営判断ができない。日本にいては世界の情報のほんのわずか0.01%くらいしか入ってこない」という。新事業を立ち上げる方法として、家業を捨て新しいベンチャーを立ち上げることもできるが、家業の良いところを継承してベンチャーを立ち上げる選択肢もある。しかし、情報がないとどの道を選ぶべきかの判断は困難である。最初から家業の事業承継にこだわるより、広く情報を集め、どのように新事業を成長させるかに集中した。
「これからの時代は技術力だけで製品開発を考えることは難しい。さらに、売れるものを考えるのはものすごく難しい。社会課題からも考えて、技術と社会的課題の両面から見る。最悪、家業の技術が使えなくても、ほかの企業の力があれば解決できる」と、いろいろな情報を集めて経営判断をしていく重要性を高野さんは指摘する。
高野さんは、実際に商品開発をする際に節水市場の市場規模などを調査し、競合相手に大手がいないことを確認した。さらに海外に出向き、水不足に対する社会問題の深刻さを調査した。製品開発では、当初知人から持ち込まれた節水ノズルと同等の技術水準の製品を、家業で培った精密加工の技術力ですぐにできると判断した。実際父に頼んだところ、1週間もかからない短期間で開発できた。家業を子どもの頃から手伝うことで、養われた技術を見極める目が強みとして発揮された。その結果、「Bubble90」という節水ノズルを誕生させるが、当初は販売面で苦労した。情報がメーカーや商社で止まり、本当に利益を受ける利用者へ伝わっていなかったのではないかと仮説を立てた。そこで、販売先のターゲットを商社から飲食店に変更。展示会で節水ノズルの情報を最終利用者に直接伝えたことがきっかけとなり、販売数を増やすことに成功した。
目標を見つければ課題が見える
節水市場にビジネスチャンスを見出し、節水洗浄ノズルの開発に成功したのは、必然だったと高野さんは言う。世界の水不足を解決するという課題を見つけたが、それだけでは新製品は生まれない。水不足の課題解決から節水ノズルを結び付け、家業の技術力を活用できると気づいたことで、製品開発ができた。このような社会的課題を定義して、さまざまな角度から解決策を考えていく思考方法をデザイン思考と言っている。もし、家業を中心に考えていたとしたら、発想が限定されてしまう。ベンチャー企業として稼業とは違う仕事をしながら、情報収集を重視したおかげで発想が広がり、結果として、家業の技術力が活きたという考え方だ。
中小企業は技術力にこだわり、問題の原因を技術力にしがちである。その結果、技術力ばかりを伸ばそうとして、製品機能を中心に考えてしまい、成長できずにいると高野さんは指摘する。問題の本質は何かを考え、適切な課題を設定することが重要だと高野さんは言う。このような考えから、家業の技術力向上あるいは革新という手段を選ばず、コア技術だけを継承して活用していくベンチャー型事業承継を選んだ。その結果、節水ノズルという新製品を作ることができたのである。そして、反対せず協力を惜しまない先代の応援も技術承継を後押した。
高野さんは、ベンチャー型事業承継を実践する過程で、目標をもつ大切さや、社会課題から製品開発へと結びつけていく思考プロセスを体系化してきた。その知識や思考方法を日本の中小企業の活躍に役立てようとコンサルティングも始めている。日本の中小企業をもっと元気にできる会社として、今後の活躍が期待される。
企業データ
- 企業名
- 株式会社 DG TAKANO
- Webサイト
- 設立
- 2010年
- 資本金
- 1000万円
- 従業員数
- 15名
- 代表者
- 高野 雅彰
- 所在地
- 〒110-0015 東京都台東区東上野2-21-3 成宝ビル7階
中小企業診断士からのコメント
DG TAKANOは、情報収集を重視し、社会課題から製品開発を行うプロセスをデザインする会社である。そして、その課題解決の中で家業の強みである金属加工技術を継承している。技術力を磨くだけではなく、発想を変えることで魅力的な市場を開拓できる。新しい事業や商品開発に挑んでいくことが成功へのプロセスにもなり、事業承継にもつながることがわかった。新しいことをやりたいと考えている若い世代のニーズにも応えられる。ベンチャーとして起業しながら、家業の技術を継承したDG TAKANOの製品開発のプロセスや問題解決の方法を事業承継の一助としていただきたい。事業継承する側も、若い世代のチャレンジを応援してほしい。
加藤 智康