中小企業応援士に聞く
出雲の地で旨い手打ちうどん・そばを提供【有限会社玉木製麺(島根県出雲市)代表取締役社長・玉木暢氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する 全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2021年8月10日
1.事業内容をおしえてください
本家が扱っていた小麦粉を利用し、1948年(昭和23年)に祖父・玉木公平がそば・うどんの製麺業を始めたのが出発点。1977年に手打ちうどんやそばを中心としたレストランを初出店し、1982年の会社設立以降、多店舗展開に乗り出した。現在は島根県の出雲市、松江市、浜田市と鳥取県米子市に9店舗を展開し、年商10億円、従業員160人という規模に成長している。
外食産業に進出したきっかけは、当時の取引先である日清製粉岡山工場の担当者から、現金商売になる外食店をやらないかと提案されたと聞いている。島根県出雲地方は、三段重ねの器で提供される「割子そば」が有名だが、2代目社長の父が岡山のうどん店で修業をしたため、島根県には馴染みのない「うどん」を中心とした麺のレストランという形態でスタートした。
各店ともこだわりのある食材を使用したメニューを提供し、山陰ではうどんレストラン(和風レストラン)のパイオニア的存在として、長年にわたって地元のお客さまに美味しいものを届けてきたと自負している。飾らない接客と、常に良いものを出すよう心掛けてきた。また地元のお客さま向けに通信販売を20年以上手がけており、全社売り上げの1割程度を占める。今後はネットによるオンラインショップを強化していく考えだ。
2.強みは何でしょう
うどん・そばの自社製造にこだわって長年取り組んできたが、他の小売店向けにも製造する「ゆで麺工場」の赤字体質に悩まされていた。納得できるだけの商品を製造できる協力工場を得ることができたこともあって、2020年3月に工場を閉鎖し、土産物を中心としたそば類(生めん)とゆでそばを外注化した。その決断が出来る組織になったと認識できたことが強みとして今につながっている。
現場の社員は自社製造による質の維持にこだわりを持っていたものの、事業の将来に向けた問題意識も持ち、機会ある度に現場改善に向けた提案がなされていた。このため事業の見直しに当たっては、製造に関わる社員の参加も得て、事業の将来を考えることが可能だった。社員一人一人の理解と協力を得て、社員と会社、地域のために最善と言える選択ができたことが、自慢であり強みとなっている。外食部門以外の製造部門を含む営業部門は、それまで赤字体質だったものが黒字化することができた。
現在は女性の店長や副店長を増やしており、店長は1人、副店長は2人、主任は5人になった。女性が管理職になることで、パート従業員とのコミュニケーションも深まり、男性とは異なる視点での店舗運営につながるなど、より良いサービス提供が広がっていると感じる。
3.課題はありますか
5年前の社長就任前からの課題として、需要に波のある製麺事業は従業員の残業によって維持されており、採算面でも赤字体質だった。これを改善し、収益体質を強化するためにはどうしたらよいかが大きな課題だった。また人員体制を効率化して「多能工化」を図りたいと考えても、製造・外食・営業など部門間の壁があり、実現は難しかった。
独自の取り組みに限界を感じたことから、経営面、製造管理、外食事業の三部門それぞれで中小機構の専門家派遣を活用し、あらためて業務の洗い出しから始め、さまざまな対策に着手した。例えば製造管理では、各製造工程の見直しや原価の算出を中心に進めた。また部門の垣根をなくすために、5S活動や従業員による提案制度などを導入し、「多能工化」も進めたいと考えている。
一方、新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年3~4月の売上高は前年同月比で40%程度まで落ち込んだ。このため夜の営業を2時間程度短縮し、無駄な残業が出ないように人員を調整した。人員削減は行わず、雇用調整助成金を申請した。
テイクアウトは以前から行っていたが、20年5月から新聞広告、折込チラシ、ポスティングを開始。価格や原価の見直しを同時に行い、一時は売り上げの5割をテイクアウト商品が占めた。資金繰りについては、日本政策金融公庫とメーン行と協調し、持続化給付金を申請した。今後は事業再構築補助金の活用を進めていこうとしている。
4.将来をどう展望しますか
事業の見直し、効率化によって生まれた製麺工場跡地などの余剰資源を活用し、賃貸事業など新事業に取り組んでいる。20年1月に出雲市平田町の木綿街道にオープンした木造2階建ての旧酒蔵施設を改修した店舗「文吉たまき」では、うどんの創作料理を提供しながら、カルチャースクールやコワーキングスペースなどを併設することも計画している。地域のにぎわいにつながる事業として、地域振興に取り組む先輩の方々と連携したいと考えている。
人材確保面では新たな取り組みも始めた。東京の兼業・副業人材マッチング会社のサービスを活用し、首都圏の副業人材3人を採用した。それぞれ当社の「ブランディング」「DX化」「マーケティング」という専門領域について、リモートで働いてもらい、それぞれの方と相談の上で決めた時給分を支払うという仕組みだ。
首都圏の副業人材を採用したのは、山陰地方ではこうした高度な専門領域の人材が不足しているためだ。例えばコンサルティング会社に依頼するとかなりの金額になってしまう。これに対し、費用を抑えながら、部分的に必要な能力や成果物を提供してもらい、先端技術を導入することが可能になる。俗人化しない仕組みづくりのためにも、しばらくはこうした副業人材の登用により、業務改善を進めようと考えている。
5. 経営者として大切にしていることは何ですか
ご縁の地、出雲の国から、いつまでも皆さまから御支持いただける会社であり続けるよう、従業員と共に研鑽を重ね、お客さまに満足していただける環境を提供していきたい。
6.応援士としての抱負は
青年会議所の関係で築いてきた中四国地方にまたがる交流や、島根県、鳥取県の中小企業家同友会、金融機関を通じた広域の異業種交流の機会を捉え、困っている方、悩みのある方に対して、中小機構の支援を紹介するなど、これまでの経験を活かした支援・協力を行っていきたい。
企業データ
- 企業名
- 有限会社玉木製麺
- Webサイト
- 設立
- 1982年10月(創業 1948年1月)
- 代表者
- 玉木暢氏
- 所在地
- 島根県出雲市斐川町沖洲1620
- Tel
- 0853-72-0653
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