時代の趨勢を独自の感覚でつかむ

上野保(東成エレクトロビーム) 第4回「連携の賜物の自社ブランド製品」

上野保社長 上野保社長
上野保社長

予兆をつかめ

上野の中小企業戦略、経営戦略の底流にあるのは、産業や国内外の政治・経済の変化の予兆をつかみ、迅速に先手を打つ才能にある。

今や参加者が200社を超えた「コーディネート企業群」の原点もそこにあった。大企業の抱える問題点を熟知していた上野に、大企業から得意の部品加工だけでなく、「全部やって欲しい」と、一括受注を懇請される。そこで中小企業のコーディネート役を買って出た上野は、東京・多摩地域の機械加工、ウオータージェット、プレスや材料メーカーを1社ずつ訪ね、参加を口説いて回ったのである。

コーディネート企業群の誕生は、この地域の中小企業に一大変革をもたらした。これまでの下請的な立場から大企業と対等な立場を獲得したのである。試作品の設計、開発、材料の選定、加工方法の開発といった付加価値を生み出す力を発揮しはじめたためだ。グローバル化に伴う熾烈な国際競争は、大企業に納期の短縮を求めていることもコーディネート企業群の存在価値を高めた。

これと並行して、多摩地域には上野が推進役の一人として参加する「TAMA産業活性化協会」が連携の実績を着実に積み上げていた。官民一体となった中小企業の連携が大きなうねりとなって動き始めているのである。

「連携なくして中小企業の存在はない」というのが上野の口癖であり、信念である。だから上野の「連携戦略」はこれだけに留まらない。2001年、栃木県のスズキプレシオン、滋賀県のクリスタル光学、大阪府の中村超硬、福岡県のピ−エムティ−の5社で広域的な「強者連合」(ファイブテックネット)を結成したのもその1つ。「アウトソーシング受託という事業モデルを成功させるには、技術力も意欲もある企業と組む必要がある。それにはトップ同士にイコールパートナーとしての信頼関係が欠かせない。それが実現すれば将来の可能性は無限に広がる」と、上野は熱っぽく語る。

強者連合の仕事は毎年、東京・有明の「東京ビッグサイト」で開かれる「中小企業総合展」に共同出展して経費を大幅にカットしたり、中小企業らしいきめ細かな工夫を施している。直接の仕事面では大企業から仕事を請け負った企業が窓口となる。上野によると「5社の技術力に裏打ちされているため、価格交渉に大きな効果を発揮している」と、胸を張る。

そして、この一連の「連携戦略」は創業以来の悲願だった自社ブランド製品の誕生となって結実する。どんな複雑な形状であっても表面洗浄が可能なレーザーによる自動表面洗浄装置「イレーザ」の開発である。この新製品開発を支え、原動力となったのが中小企業庁の2005年度の重点政策となった「新連携」だ。東成エレクトロビームはその年の6月に公表された認定第1号に選ばれたのである。しかも連携を構成するメンバーには「強者連合」のクリスタル光学も参加している。

まさに時代の予兆を的確につかんだ成果といえよう。

楽観できる中小企業の将来

電子ビームを操作するスタッフ

上野は多くの人からの推薦を受け、産業構造審議会新成長政策部会の臨時委員をはじめ、内閣府・総合科学技術会議のものづくり技術分野推進戦略プロジェクトチーム委員、中小企業基盤整備機構の外部人材制度委員会委員など、枚挙に暇がないほどの委員歴をもつ。委員になることに労を惜しまない理由について、上野はこう述べている。

「委員に指名されるとういのは必ず私を推薦する人がいるわけですから、その人の付託に応じなければいけないという思いと、国のために貢献するということですから現場から建設的な提言をするんだという気持ですね。しかし、参加する以上、猛烈な勉強が必要になります。高校時代の苦い思い出がありますから、一生懸命勉強させていただいております」

そんな上野から見た国の中小企業政策は「活用できる政策をたくさん打ち出しているので、たいへん評判がいい。中小企業に重要なR&Dの機能が移ってきた。一括受注も増えてきた。新連携しかりで国の支援を求めている予備軍も多いので、より積極的に政策を推進していただければと思っています」とエールを送る。

ただ最近、「気になるたいへんなことが起きている」と上野は指摘する。いわゆる「2007年問題」である。団塊シニアの大量退職に政策面でどう応えていくかという問題意識だ。上野によると「中小企業が大手企業の退職者を受け入れようとしても、退職者側に中小企業で働く心構えが不足している場合もあり、経営者とうまくマッチングできない可能性も否定できない」と懸念する。この解決策として「中小企業大学校」などの施設を活用して、「中小企業を理解していただくための研修を実施しては」というのが上野の提案である。

また、上野は中小企業の将来について、「私は楽観している」と、答えは明快だ。ただ、条件として、高付加価値創出への意識をもつこと、投資採算を考えた設備投資と人材育成をきちっと行うこと、さらには国が推進する研究開発の重点分野であるIT、バイオ、ナノテク、燃料電池、ライフサイエンス、ロボットなどの分野に沿った形で事業展開することの3点をあげる。「そうすることで国際競争に勝ち残れるからだ」と上野は強調するのである。(敬称略)

掲載日:2007年7月2日