BreakThrough 発想を学ぶ
スピード感のある中小企業はイノベーションとの相性がいい【千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長・古田貴之氏】<連載第4回>(全4回)
2020年 8月20日
企業の有力な競争力強化の手段であると政府や産業界が見なすロボット。このロボットと中小企業の付き合い方について、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長の古田貴之氏にお話を伺いながら考えていく本連載も最終回を迎えました。最終回は、外部連携(共創)によるロボット事業参入について伺うとともに、ロボット分野における中小企業への期待について教えていただきました。
連携先を決める際のポイントとは
中小企業がロボット事業へ参入しようとする時、「ロボットの知識を持つ他者と組む」のは有効な方法と言えるでしょう。ただし連携を成功させるには、注意すべきポイントがあります。
「連携が失敗する大きな原因の一つに目的の不一致があります。まずは、連携における自社の目的を明らかにし、それが相手先と一致しているかを確かめましょう。私は『人の役に立ってこそロボットの価値がある』と考えていますが、あくまで研究開発を追求しているところも少なくありません。この研究開発のための連携になってしまうと、中小企業にとっての目的達成は厳しいかもしれません」
また、できるだけ決裁権を持つ経営者を直接相手にすることも連携のポイントです。相手が大企業で経営陣との接触が難しい場合は、研究開発部門より製品化を見据えている各事業部門と組んだ方が、成果に繋がりやすいのではないかと指摘します。
製品化・量産化では緊密な連携が必要
古田氏はこれまでfuRo所長として多くの企業との連携を行い、多彩な製品を世に送り出してきました。なかでも「パナソニック株式会社」とは、2017年末に共同で「パナソニック・千葉工業大学産学連携センター」を設立し、さまざまな家電を知能化するプロジェクトを推進中。fuRoの高度な空間認識技術を搭載した次世代ロボット掃除機を発売するなどして注目を集めています。
「ここは国内でも珍しい、研究ではなく製品開発を目的とした産学連携拠点です。開発が製品化・量産化のフェーズに入ると、メーカーの方とのすり合わせが欠かせません。そこで秘密保持契約を交わし、拠点内に強固なセキュリティ体制を敷いて先方に常駐してもらい、常時共同で進めています。連携ではこうしたチームづくりが非常に重要ですね」
一方、構想や設計のフェーズでは、世の常識を超える専門家の自由な発想が必要。その場面でfuRo側に大きな裁量を与えてくれたことが、新価値の創出にあたって大きなプラスになったと古田氏は分析します。
中小企業のイノベーションに期待
「ロボット技術には大きな可能性があります。ただ、失敗を嫌って定番製品の製造にこだわりがちな大企業は、イノベーション創出との相性があまり良くない。その点、経営者が自分の決断で物事をスピーディーに進めていける中小企業には大いに期待しています」
後継者不足や人材難といった多くの課題がすでに顕在化している中小企業にこそ、ロボットの活躍の場は多いと言えます。古田氏は、そんな中小企業には国の補助金などを活用しながら、無理のない範囲でロボットを活用した生産性向上や付加価値アップに取り組み、競争力を高めていってほしいと考えています。
「それにはお金もかかりますが、今までと同じことを続けていては新しい価値は生み出せません。ですからまずは少額でロボット技術について学びつつ、課題の発見に取り組むところから手をつけてみてほしい。すると、また新しい景色が見えてきます。そうして少しずつロボットの活用・開発を進めながら、飛躍のチャンスを掴んでくれたら嬉しいですね」
連載「中小企業は「ロボット」にどのように関わっていくべきか」
- 第一回 企業の競争力強化の鍵を握る「ロボット」とどうつきあうか
- 第二回 現場を知り、使う側の視点を大切にし、そして技術を理解する
- 第三回 中小企業は、ロボット技術で自社製品の高付加価値化を
- 第四回 スピード感のある中小企業はイノベーションとの相性がいい
古田 貴之(ふるた・たかゆき)
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長
1996年、青山学院大学大学院 理工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程中途退学後、同大理工学部 機械工学科 助手。2000年、博士(工学)取得。同年、科学技術振興機構のロボット開発グループリーダーとして、ヒューマノイドロボット開発に従事。2003年6月より、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo(Future Robotics Technology Center)」所長。気鋭のロボットクリエーターとして世界的な注目を集め、政府系ロボット関連プロジェクトにも多数参画。企業連携も推進し、新産業のシーズ育成やニーズ開拓に取り組む。
取材日:2020年 5月22日
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