Be a Great Small

若き3代目がけん引する無借金経営企業「GOKO映像機器株式会社」

2020年 10月 1日

「カメラハンドグリップ」を取り付けた「GOKO Bscan-Z」
「カメラハンドグリップ」を取り付けた「GOKO Bscan-Z」

GOKO映像機器株式会社は、毛細血管観察スコープをはじめとする各種の特殊映像機器の独自開発・製造・販売で、国内外の医療、美容、健康市場のシェアを拡大している中小企業だ。

創業者で今年94歳になる後藤正代表取締役会長が、同社の前身となる三星光機株式会社を立ち上げた1953年は、終戦からほどない経済の混乱期。倒産していく多数の企業を目の当たりにした正社長(当時)は、絶対に倒産しない中小企業を目指して(1)一切の見栄を排す(2)自ら考案した製品のみを作り、下請け仕事はしない(3)無借金経営を貫く——を3大原則に掲げた。この3大原則は、設立して60年以上経った今もなお堅持している。

時流捉えた事業転換で成長

後藤友子社長
後藤友子社長

同社には、社会情勢の変化に対応するため、技術革新によって主力事業を転換してきた歴史がある。8ミリ交換レンズの製造などからスタートし、70年代後半には8ミリフィルム編集機の開発・製造で世界のトップシェアを獲得。90年代に入ると、フィルムタイプのコンパクトカメラのほぼすべての大手メーカーからOEMを受託したことにより、生産台数で世界一になった実績がある。

以降は、カメラのデジタル化に伴い、主力事業を医療・美容・工業など様々な分野向けの特殊スコープの開発・製造・販売に移し、現在の体制を確立した。

今では映像機器部に、自社製品の海外展開を推進する貿易部と、コンパクトカメラの工場跡地に建設した自社所有のマンション、ショッピングセンターなどを賃貸・仲介・管理する不動産部を加えた3部体制に拡張して経営している。

カメラ生産で培った合理化技術と品質管理体制を導入し、大規模栽培施設で年間800トンのトマトを生産・販売する別会社GOKOカメラ株式会社を加えたGOKOグループは、創業以来、無借金のまま自己資本比率98%を維持しているという。

現在の代表取締役社長は、2015年12月に就任した正代表取締役会長の孫娘 後藤友子氏で3代目だ。2代目を務めた母 佳子氏(現・GOKOカメラ代表取締役社長)の跡を継いだ。低迷したことのない企業の経営を引き継いだ理由と心境をこう語る。

「03年に慶應大学を卒業してすぐ入社した。祖父を見て育ち、その仕事をサポートする母の様子も間近で見ていたため、私もGOKO映像機器に貢献したいと思っていた。経営者がすべての意思決定と実行に深く関与する中小企業の経営は簡単ではないと知っていたが、祖父が築いてきた会社を継ぐ者として、社の内外に恥ずかしくない社長になると心に決めた」

自らも商談や市場調査の最前線に立って顧客のニーズを深耕し、新たな製品開発に反映することで顧客の課題を解決する方針だ。近年は、皮膚の上から皮下毛細血管を傷つけずに赤血球や白血球の動きを鮮明に観察できる手のひらサイズの超高倍率スコープ「GOKO Bscan-Z」を主力機器の1つに据えている。

すべて自社開発したオプションも多品種におよぶ。中でも「GOKO Bscan-Z」が捉えた毛細血管の流れを高精細に分析できる流速計測ソフト「GOKO-VIP」および「GOKO Bscan-Z」を片手でも操作しやすくする「カメラハンドグリップ」という2種類のオプションは、多くの医療従事者の好評を得ている。特に流速計測ソフト「GOKO-VIP」は、元々ハードウエアメーカーである同社がアルゴリズムから開発した力作だ。

ドイツ視察に支援事業活用

本社外観
本社外観

同社は、公的機関の支援事業を効果的に活用している。とりわけ中小機構を多用し、マッチングシステム「ジェグテック」の登録を手始めに、ジェグテック商談会、海外CEO商談会、ビジネスミッション事業に参加している。

海外CEO商談会には、「当社の英文サイトには海外の有名大学をはじめ多種多様な顧客からアクセスがあるが、商談会という場で専門家の助言を得られる仕組みはとても有効だ。海外企業とは普段から英語で商談しているから英語による商談には慣れているが、同席した通訳が商談相手の自国語も話せる人材だったため、3カ国語が飛び交う活発な商談になったこともあった」と謝意を示している。

19年11月のビジネスミッション事業では、ドイツのデュッセルドルフで開かれた医療機器の国際展示会「Medica」を視察し、出展各社と商談。興味を示してきた美容関係企業の代理店を務めるイタリア企業と代理店契約を結んだ。スペイン、ポルトガル、台湾の研究機関と情報を交換する関係も構築するなど大きな収穫を得て帰国した。

他方、川崎市産業振興財団の専門家派遣事業を活用し、最新の知財や規制関連の情報を収集。JETROからは、貿易投資相談で、製品を輸出することの少ない国の顧客から購入希望を受けた際に、輸出法令関係情報を取得している。

コロナ禍ならではのコマ撮り動画

新型コロナウイルス感染症の影響は、同社にもおよんでいる。飛沫感染の恐れから、顧客に対面で映像機器の使い方を説明できない。ウェブ会議システムでも機器の細部までは見せにくいうえ、1回限りのデモになってしまう。

この営業上の不利を跳ね返すため、主力製品「GOKO Bscan-Z」の使い方を説明する7分間の動画を5月に制作。医療従事者の院内利用を想定し、敢えて「無音動画」にしてアップロードした。

撮影と編集は、後藤社長の慶大同期生石川将也氏に依頼した。同氏は子供向けテレビ番組の制作に長年携わってきたグラフィックデザイナーで、コマ撮りも得意としている。

この動画は、単なる販促材料の拡充にはとどまらなかった。「『本当に分かりやすい』『7分間つい見入ってしまう』との反響を呼んで好評を得た」ことが揚力となって、営業マンに、これまで以上の積極姿勢が表れるなど精神的な効果までもたらした。「GOKO Bscan-Z」は、新型コロナウイルスの重症化と血栓症との関連性を研究するツールにも活用されているという。

後藤社長は、祖父が築き、母が堅固にした自社の強み——社会情勢の変化に応じて事業転換できる柔軟な企業体質と安定した財務基盤——を新たな機器開発に活かし、医療・美容・健康関係産業の発展に貢献していく。

企業データ

企業名
GOKO映像機器株式会社
Webサイト
設立
1960年2月
資本金
グループ連結8400万円
代表者
後藤 友子氏
所在地
神奈川県川崎市幸区塚越3-380 GOKOビル
Tel
044-544-1313
事業内容
映像関連機器の製造・販売および自社所有の賃貸マンション、テナントビルなどの管理業務。