中小企業応援士に聞く
魚を食べる日本の文化を多くの人に【株式会社安岐水産(香川県さぬき市)代表取締役社長・安岐麗子氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2022年 7月11日
1.事業内容をおしえてください
イカフィーレ(切り身)やイカそうめんといったイカの加工・販売を事業の柱に香川ブランドであるさぬき蛸(たこ)、讃岐でんぶく(ナシフグ)などの生鮮品や水産総菜の加工・販売を展開している。私の父である安岐豊会長が1965年に創業したころは、乾燥エビやちりめんじゃこなど地元の水産物の加工が中心だったが、国内の資源不足を受けて海外にも調達先を広げている。現在は、主力のアオリイカのほとんどは海外から輸入し、アオリイカ加工品の取扱量は国内トップクラスを誇っている。
海外では、紋甲イカの加工が中心だったが、紋甲イカの中に一部にアオリイカがよく混じっていた。そこで、アオリイカの商品化を進め、むき身を細長くさばいた糸づくり(いかそうめん)を業界に先駆けて販売するようになった。糸づくり、いかそうめんを製造するカットマシーンは当社がいち早く導入した。アオリイカは取扱量だけでなく、品質も最高ランクと自負している。
魚食という文化は、日本人が長い間、培ってきた文化。魚を生で食べるというのもそうで、魚の本当のおいしさをもっとたくさんの人に知ってもらいたい。「食べものづくりを通じて、関わる人々の生活の豊かさと、生きる喜びを追求する」ことを会社の使命に掲げて事業を展開している。
2.強みは何でしょう
当社の一番の強みは、水産物の鮮度と味を長時間にわたって保持できるノウハウや技術を持っているところ。魚やイカは捌き方一つで鮮度も大きく変わってくる。長年の経験から細胞を壊さずに加工し、鮮度を保つ技術を培ってきた。インドやスリランカなど海外に調達先を広げる中で、現地の漁師や加工する職人たちに、私たちが持つ水産加工のノウハウ・技術を指導している。
私たちが開拓した海外の漁場では、良質のアオリイカが収穫される。そのなかから厳選したイカを鮮度がいいうちにむき身にし、氷を使って低温状態を保ちながら冷凍にして日本に輸出。日本に届いたイカは時間をかけて低温解凍し加工している。素材が持つうまみ、味や鮮度、食感をそのまま保つ独自の技術は取引先から高い評価をいただている。
一方、経営面では、早くから女性の雇用拡大に積極的に取り組んでいる。社員は男性12人に対して女性が29人と女性のほうが多い職場になった。女性の活躍を推進する企業に贈られる「かがわ女性キラサポ大賞知事賞」を2015年に受賞した。
従業員とのコミュニケーションがいい点も当社の強みの一つ。社員にとって職場で働く時間は人生の中で大きな割合を占めている。「良い職場づくり」を常に意識して経営にあたっている。毎日の朝礼や社風づくりを目的に複数の社内委員会の中で、社員同士の交流を深めている。
外国人実習生も積極的に受け入れ、現在はインドネシアの技能実習生3人のほか、特定技能実習生3人が技術を学んでいる。今年はさらに受け入れを増やし、外国人の社員も1人採用した。先代の時代からインドネシアやタイの現地漁師たちに鮮度を保つノウハウ・技術を指導してきた経験が生きている。
その意味では、SDGs(持続可能な開発目標)につながる取り組みを今のように注目される以前から、ごく自然に取り組んできたといえる。海の恵みを糧(かて)にする会社なので、「海の豊かさを守る」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「ジェンター平等の実現」といった活動にもつながっている。
3.課題はありますか
沿岸の漁獲量が減り、漁業を営む人が減っている。若者の魚離れも進んでいる。将来の人口減少を考えると、市場全体は今後も縮小が見込まれる。事業環境は厳しさが増すばかり。その中で、成長を目指すには新たなビジネスにも積極的にチャレンジする必要がある。当社だけでなく、水産業界全体の課題でもあり、これまで競争関係にあったライバル企業との連携も欠かせない。魚食を通じて、地域を盛り上げるような取り組みが今後、求められている。
厳しい環境を乗り越えるには、経営の改革を急がなくてはならない。2020年には、中小機構から派遣された専門家からさまざまなアドバイスを受けながら中期的な成長戦略を策定している。無駄な業務や経費の削減、収益構造を改善といった経営課題を解決するうえでデジタル技術をもっと活用する必要がある。
4.将来をどう展望しますか
水産物の加工品を市場の仲卸業者などに販売するBtoB(企業間取引)が売り上げのほとんどを占めているが、消費者向けに直接販売するBtoC事業を今後伸ばしていきたい。
2003年から関連会社を通じてインターネットの通信販売にも取り組んでいる。また、本社工場に隣接して「Cumi Umi(ちゅみうみ)」というアンテナショップを2019年10月に開設した。この店では、地元のとれたての水産物を調理した総菜を提供し、その魅力をアピールしている。
地元の漁師たちが獲った水産物を買い付け、安岐水産が総菜として付加価値をつけて販売する。そのような1次、2次、3次の産業が連携した6次産業化の取り組みをこれから積極的に推進していきたい。それが漁師の所得向上につながり、漁業の就労者を増やすきっかけになる。持続可能な漁業の実現に貢献していきたい。
5. 地域や業界とのつながりで、御社が大切にしていることは何ですか
地域とのつながりは私たちの会社にとって非常に大切なもの。「Cumi Umi」を拠点に地域活性化に貢献できるようなさまざまなイベントを開催している。讃岐でんぶくや、さぬき蛸といった、この地域でしか食べられなかった食材にもスポットを当て、ネット販売を通じて全国に送り届けている。こうした食材を通じて、日本各地から香川・さぬきに足を運ぶきっかけになれば、地域の活性化につながる。
海外の国々との関係も大切にしていきたい。インドネシアでは、アオリイカを中心とした水産物の加工に関して当社が持つ鮮度保持、低温解凍の技術を活用した事業展開を進めている。この事業では、JICA(国際協力機構)の中小企業・SDGsビジネス支援事業での支援が検討されている。私たちが長年にわたって培ってきた技術が、現地の水産分野の雇用の拡大や食品のバリューチェーンの改善に貢献する。こうした活動を通じて、人や地域、国同士の架け橋になっていきたい。
6.応援士としての抱負は
四国経済産業局を通じて中小機構と出会ったのは2019年、ちょうど仕入・販売・在庫を管理する基幹システムの更新をするタイミングだった。約20年前に導入したシステムだが、機能が古くなり、生産管理やメンテナンスに不安が出てきた。
ベンダーとシステム更新の仮契約まで進んでいたが、中小機構から会社の経営について、いろいろなアドバイスを受ける中、いったん白紙に戻す決断をした。会社全体の課題整理、あるべき姿の設定、情報化のロードマップや推進構想の策定など中小機構から受けたアドバイスは、当時、私自身も「もっと優先してやらないといけないのではないか」と薄々感じていたことだった。まさに的を射たアドバイスで、現在は中小機構のサポートを受けながら、経営に最適な機能を持ったシステム導入をすべく見直しを進めている。あの時、アドバイスを受けていなかったら、どうなっていたか。投資を無駄にせずに済んだとありがたく感じている。
「いろいろ相談したいが、どこに相談したらいいかわからない」「民間のコンサルタントに相談すると、費用は高いのではないか」ということを考えている中小企業経営者は少なくないと思われる。こうした経営者に自身の経験に踏まえたサポートとともに「まずは中小機構に相談してみたら?」とお声がけをしたい。
企業データ
- 企業名
- 株式会社安岐水産
- Webサイト
- 設立
- 1987年4月1日
- 代表者
- 安岐 麗子 氏
- 所在地
- 香川県さぬき市津田町津田1402-23
- Tel
- 0879-42-3037
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