中小企業応援士に聞く
「素人」の自由な発想を「玄人」の技術で形に【株式会社ナダヨシ(福岡県古賀市)代表取締役・植木剛彦氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する 全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2022年 3月 7日
1.事業内容をおしえてください
創業者であり現相談役である植木次義は、福岡県内の厨房設備会社で修業した後、1981年、34歳の時に同県糟屋郡新宮町に「灘吉厨房設備有限会社」を設立。「灘吉」とは、次義の父親が長崎県南高来郡吾妻町(現雲仙市)で操業していた砂利運搬船「灘吉丸」からとったもので、故郷への思いが込められている。その後、1991年に社名をカタカナの「有限会社ナダヨシ」へと変更し、2003年には株式会社化した。次義の長男である私は、事業承継するため福岡市内のステンレス研磨会社で修業した後、2004年に入社し、2016年に代表取締役に就任した。
「素人発想 玄人実行の精神」(素人のように制約に縛られない自由な発想を、玄人の技術で形にしていく)をモットーに、ステンレスの板金溶接加工を得意として、3次元CADによる設計からバラシ、展開・プログラム、切断・穴あけ・曲げ、溶接・研磨・組立までを一貫で行う。トラックの艤装部品や、手術室で使われる空気清浄機・医療設備、シンクなどの厨房機器、機械装置、神社のポールや賽銭箱などの特殊品を受注生産している。
2.強みは何でしょう
まずは技術の高さが強み。工作機械のリーディングカンパニーである(株)アマダが、板金業界で最も権威のある加工技術・技能のコンテストとして開催している「優秀板金製品技能フェア」では、2006年の第18回大会から出品し続けており、厚生労働大臣賞や中央職業能力開発協会会長賞など、複数作品合計25個の賞の受賞を達成している。
また、自社の高い技術力を活かした提案型のものづくりを行っていることも強みである。当社と同規模の会社の場合、大手企業からの発注が中心になるが、当社は、先方の規模の大小に関わらず注文を受け、その際には可能な限り顧客からの要望に応じている。中小機構が運営しているビジネスマッチングサイト「J-GoodTech(ジェグテック)」も活用して、こうした提案型のものづくりをアピールした結果、関東・甲信越圏の企業と成約することができた。輸送コストがかかるにもかかわらず、当社の技術を評価してもらえたことは非常にうれしかった。
さらに、経営理念である「素人発想・玄人実行」も強み。たとえば、2020年に新型コロナウイルスの感染が始まったとき、市場からマスクがなくなり入手が困難になった。そこで多くの人が自分でマスクを作ろうとしたが、裁縫時に使うマスクの型がうまくとれないという話を耳にした。よれたり曲がったりせず適度な重みのあるステンレス板ならどうかと試作を繰り返し、完成したものを「世の中のためになるなら」と、希望者に無料で配布を開始した。みるみるうちに希望が殺到し、2500枚を超える事態となり通常業務が滞るほどになったが、この「素人発想」を「玄人実行」した反響が整備途中だったBtoCの販路開拓を一気に推し進める「オンラインショップ開設」という好結果にもつながった。
このほか、業界全体では人材確保が難しいなか、新卒採用が毎年できている。小・中学生や高校生の職場体験を受け入れており、その職場体験に参加した生徒が工業高校を卒業後に入社するという好循環になっている。
3.課題はありますか
昔のように繁忙期がなくなっており、安定した受注が少なく、毎月の業務計画が立てづらくなっていることが喫緊の課題である。このままでは従業員の定着率やモチベーションにも影響が出てくるので、給与のベースアップを図れるようにしたり、マッチングイベントや展示会、中小機構の「ジェグテック」を活用したりして、取引先を増やす努力をしている。
また、技術の承継も課題である。若い世代はデジタルも含めて、複数の工程を遂行できる多能工として育て、キャリアのある技術者はその道を究める方向で発展させたい。しかしながら、製作の現場でしか学べない人の「技」の部分や、臨機応変な対応、創意工夫、デジタル化に頼った図面では描けないような細部の具現化も承継が必要である。
4.将来をどう展望しますか
顧客を増やしていきたい。現在は半導体業界の需要が高まっているが、逆に今だからこそ他分野に参入したい。期待しているのは病院の手術室で使われる空気清浄機の仕事。機器本体に高品質で精密な加工が求められる。院内の換気やウイルスを除去するレベルの空気清浄機の導入が高まっており、今後の受注に期待したい。一方、厨房関係はコロナ禍で大きな影響を受けているが、テイクアウトなど新たなトレンドが生まれており、当社が受注する特殊な厨房機器への需要も復活することを期待している。
オンラインショップ事業では、何年後かには売上構成比10%程度を目標に、自社開発製品の製造・販売にも力を入れていきたい。このほか、社員の負担を減らすため、工程管理や納期の把握などの面でIT化を進めたり、ロボットを導入したりしていきたい。
5. 地域や業界とのつながりで、御社が大切にしていることは何ですか
業界団体である九州シートメタル工業会で企画推進委員会の副委員長をつとめており、会員企業の社員を対象にしたセミナーを数多く企画している。こうしたセミナーなどを通じて、とくに基礎技術(切断・曲げ・溶接・研磨など)を重んじる人材育成をしていきたい。
また、地域を盛り上げる活動にも積極的に取り組んでいる。2020年8月に行われたサッカーJリーグ・アビスパ福岡のイベント「古賀市民DAY」では贈呈品としてステンレス製花束をチームに贈った。また、ハート型のオブジェを製作し、2020年からJR古賀駅前で年末に行われているクリスマスマーケットでイルミネーション用に貸し出している。古賀市内の神社にはハートの絵馬掛けを製作し、おみくじ結び処を寄贈した。このような取り組みを行うことで、地域の人々とのつながりができ、仕事にも繋がっている。
6.応援士としての抱負は
業界の集まりや異業種交流会などの場で「中小企業応援士」の名刺を参加者に配りながら、「ジェグテック」をはじめとした中小機構の支援策などを紹介している。当社もこれまで様々な支援を受けてきたので、今後は中小企業応援士として支援策について、いっそうPRしていきたい。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ナダヨシ
- Webサイト
- 設立
- 1981年6月5日
- 代表者
- 植木剛彦氏
- 所在地
- 福岡県古賀市青柳194
- Tel
- 092-944-4755
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