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看護師常駐の保育園で女性の活躍を応援「株式会社リリフル」
2023年 7月 24日
上場企業8社をはじめ多くの企業が本社・本店を置く岐阜県大垣市で企業主導型保育園を運営しているのが株式会社リリフルだ。大きな特色は看護師の常駐。自身も看護師である金森律子代表取締役が「赤ちゃんを預かる保育園にこそ看護師が必要」との考えから打ち出し、6年前に起業した。以来、女性の活躍を応援したいとの想いから、母親の再就職支援や訪問保育を手掛けるほか、SDGs活動や高齢者自立支援と、事業の幅を大きく広げている。
ワンオペ育児からママ友づくりへ、ボランティア活動も
松尾芭蕉が東北・北陸地方をめぐった「奥の細道」。およそ5カ月におよんだ旅の終焉の地が大垣である。市の中心部には「奥の細道むすびの地記念館」(同市船町)があり、芭蕉が詠んだ俳句などを紹介している。その芭蕉ゆかりの地そばに本社を構えるのがリリフルである。
金森氏は出身地の愛知県豊橋市内や結婚後に名古屋市内で看護師として勤務したのち、家庭の事情で大垣市に移住。まもなく長女を出産し、育児に専念した。親類も知人もいない初めての土地で、しかもワンオペ育児。当初は家にこもりがちだったが、「とにかくママ友をつくろう」と気持ちを切り替え、赤ちゃん関係の講座を受講した。そこで学んだベビーサイン(手話による赤ちゃんとのコミュニケーション方法)などに興味を抱いたのをきっかけに、様々な講師の資格を取得し、数多くの子育て中のママたちのサポーターとして活躍してきた。こうした前向きな行動が多くの仲間を引き寄せることになり、東日本大震災の際にはボランティア団体を立ち上げ、市内でフリーマーケットを開催し、売上金を募金として被災地に送ったほか、不要なものを交換しあうようなイベントを開催した。次女が保育園に入園したのを機に、市内の個人病院で看護師の仕事に復帰したが、その傍ら、ボランティア活動などを続けているうちに「社会へ貢献したいという気持ちが次第に強まっていった」という。
「最高に充実した人生を送る」との想いを社名に込め
起業のきっかけは2017年、知人から企業主導型保育園の開園に向けて手伝いを求められたこと。これは内閣府が待機児童ゼロを目標に掲げた企業向けの助成制度で、当初は手伝いのつもりだったが、個人でも申請できると知った金森氏は、ボランティア仲間らと一緒に保育園を運営したいと思い、設立を申請。その際、「小学校や中学校には保健室があるのに、もっと幼い子どもを預かる保育園にはない」との疑問を以前から抱いていた金森氏は、保育園に看護師がいることで保護者もスタッフもより安心できると考え、看護師常駐を打ち出したのだ。
設立の申請時には、半ば無理であろうと諦めていたが、2件の申請をして許可が下りたため、大垣市内で2つの保育園を開園することになった。その際、法人化が必要であったため、急遽、起業することとなった。「経営者になる準備も心構えもないうちに気づいたら起業していた」(金森氏)という。
こうして2017年12月に創業。社名(Lilifull)は英語の慣用句「Live life to the full(最高に充実した人生を送る)」から付けた。金森氏は「母親や働く女性スタッフが社会でもっと活躍できるように、との想いを込めた」と話す。
集まらない利用者、そこに“救世主”現れる
2つの保育園は2018年4月にオープン。本社所在地にあるドリームタッチ保育所(対象・生後4カ月~2歳児)は土曜日も利用可能。JR大垣駅近くにあるタッチテラス保育所(対象・生後2カ月~2歳児)は電車通勤する母親たちにとって便利だ。どちらも、金森氏を含め看護師資格を持つスタッフの常駐はもちろんのこと、子どもたちの発育を考えて施設内で食事を調理。さらにデジタル技術を活用し、保護者との各種の連絡をスマホでやり取りできるシステムを導入している。
ところが、利用する企業はなかなか集まらなかった。そんなとき“救世主”が現れた。調理のための食材仕入れを通じて知り合った印刷会社の営業マンだ。自分が入会している岐阜県中小企業家同友会の支部会合に金森氏を連れて行き、その場で保育園をPRし、提携する企業を募ってくれたという。これが奏効し、同友会の会員企業からの申し込みが相次いだ。金森氏も当然ながら同友会に入会した。その後、大垣商工会議所や大垣ビジネスサポートセンターの支援もあって提携企業は現在約60社。うち10社ほどは岐阜同友会の会員である。
コロナ禍に始めた訪問保育、大好評で事業化
女性の活躍を応援したいとして同社はユニークな取り組みを行っている。そのひとつが仕事を求める女性と企業とのマッチングイベント「ママビズ」だ。出産・育児で離職した母親の社会復帰を後押ししようと、地元企業の協力を得て2019年5月に開催した。その後はコロナ禍で中断しているが、年内に再開したいという。
そのコロナ禍で始めたのが訪問保育だ。外出が規制され、保育園も一時閉鎖となった際、「子どもを預けないと仕事ができない」という母親たちの声に応え、スタッフが各家庭を訪問することとした。利用者からは大好評で、「通園の準備や送迎をせずにすむ」などと喜ばれた。子どもたちも保育園のスタッフの顔を見るなり満面の笑顔を見せてくれたという。
訪問保育ではこんなこともあった。障害を持つ子どもの家庭を訪問した際のことだ。その子の母親は保育園では表情が硬く、スタッフに対してあまり心を開いている様子ではなかった。ところが、訪問保育の際には表情はやさしく、家庭内の雰囲気も明るかった。「通園時には、子どものことでスタッフに迷惑をかけているだろうとの負い目があったのかもしれない。でも、なごやかな家庭の様子を目の当たりにして、私たちもほっとした」(金森氏)。これを機に、母親は心を開いたのか、それまで以上にスタッフを頼りにするようになったという。
訪問保育は、コロナ禍に通常の保育事業の代わりに行ったものだが、利用者の評判がよく、現在は事業として続けている。
不要クレヨンの再生、高齢者の買い物支援も
SDGsの取り組みも2021年から始めている。折れたり短くなったりしたクレヨンを再生する「マーブルクレヨンプロジェクト」だ。自分たちにもSDGs活動ができないかと考えたスタッフが再生クレヨンに着目したのが始まり。作り方は簡単で、使わなくなったクレヨンを集めてフクロウ型の容器に詰め、いったん電子レンジで溶かしてから固めるだけ。異なる色を詰めるとマーブル柄のカラフルなクレヨンに。1個のクレヨンで違った色が描け、子どもたちも大喜びだという。
地元企業2社と協力し、市内の商業施設や小学校などを中心に県内外約50カ所に回収ボックスを設置。家庭や学校で不要になったクレヨンを集めて再生し、市内の小学校に贈呈している。また小中学生らが自分たちで再生クレヨンを作るというワークショップも開催。集客力があるイベントとして人気が高く、現在は企業や商業施設からの依頼を受けて事業として行っている。また、いろいろな企業からSDGsのノベルティとしての注文が多く殺到しているという。
さらに今年4月からは、大垣市から委託を受け、高齢者に看護師が付き添って買い物を支援する「買い物deリハビリフレイル予防事業」をスタートした。赤ちゃんから高齢者へと“振り幅”の大きい事業展開に見えるが、問題意識は同じ。金森氏は「昨今の晩婚化や出産年齢の高齢化で、女性が育児と同時に、高齢になった親の介護というダブルケアを行うケースが増えてきた。女性が社会で活躍するためには、保育事業だけでなく、高齢者の健康維持につながる支援も必要だ」と話す。
具体的には、自力で買い物に出かけるのが難しい市内在住の高齢者を対象に、金森氏ら同社の看護師が商業施設での買い物に付き添う。店内を歩くという運動でフレイル(加齢によって心身が衰えること)を予防するのが狙いだ。さらに、食料品購入の際には栄養バランスや栄養価を考慮してアドバイスを行い、健康維持・増進につなげたいとしている。「食料品の購入が基本だが、衣料品など欲しかったけれど買いに行く機会がなかったものも購入する。そのときは皆さん、本当にうれしそうな表情を見せている」という。
少子高齢化に負けないまちづくりに貢献したい
思いがけず起業したのが6年前。以来、多くの人たちとの出会いを重ね、「毎日、新鮮な日々を送っている」という金森氏。保育事業に始まり、新たに高齢者自立支援事業にも着手と、事業の幅を広げてきているが、「やりたいことが次々に浮かんでくる」という。とくに、大垣市内の企業や行政などと連携して、少子高齢化に負けないまちづくりに貢献したいと考えている。
「縁あって大垣で暮らすことになったが、とても住みやすい場所。上場企業をはじめ魅力ある企業も多い。今の子どもたちが大都市に行かずに、ここに暮らし続け、将来、家庭を持ってのびのびと子育てをしていけば、少子化問題解決の一助ともなる」と金森氏は話している。
企業データ
- 企業名
- 株式会社リリフル
- Webサイト
- 設立
- 2017年12月
- 資本金
- 10万円
- 従業員数
- 34人
- 代表者
- 金森律子 氏
- 所在地
- 岐阜県大垣市船町5-18 リバーファイブ201
- Tel
- 0584-84-2325
- 事業内容
- 保育事業・訪問保育事業・SDGs事業・子ども向けイベント事業・男女共同参画事業