新規事業にチャレンジする後継者

“日本一のブランド卵革命”で「安くて当たり前」を打破【株式会社半澤鶏卵(山形県天童市)半澤清哉氏】

2024年 7月 23日

「日本一のブランド卵革命」に取り組む半澤鶏卵3代目の半澤清哉氏
「日本一のブランド卵革命」に取り組む半澤鶏卵3代目の半澤清哉氏

1. 事業概要を教えてください

看板商品の半熟燻製たまご「スモッち」(写真上)のほか、純国産鶏種の卵やプリン(写真下)などを販売
看板商品の半熟燻製たまご「スモッち」(写真上)のほか、純国産鶏種の卵やプリン(写真下)などを販売

鶏卵の生産から加工、販売のほか、養鶏、親鶏肉の販売を手掛ける。山形県内に養鶏場を4カ所、事業所3拠点で展開し、6次産業化を実現している。創業は1960年で、祖父(半澤清助氏、現会長)が個人で養鶏業と卵の販売を始めた。1992年に有限会社として法人化した(2016年に株式会社化)。2005年に父(半澤清彦氏)が代表取締役に就任した。

創業から一貫して鶏卵の生産から販売までに携わり、国内で4%しかいない純国産鶏種が産む卵にこだわることを基本方針としている。こうした高級卵を産業規模で生産している点が強みだ。生卵では、5種類のブランド卵を年間700万個生産している。このうち、たまごかけご飯に合うお米卵(米を含んだ飼料を食べた鶏が産んだ卵)は日本で初めて海外へ輸出した。また加工卵では、当社の看板商品となっている半熟燻製たまご「スモッち」を年間150万個製造している。「スモッち」は2006年発売のロングセラー商品で、累計1500万個以上を販売。半熟燻製たまごでは国内トップシェアとなっている。直近の年商は15億円(2024年2月期)。

2020年には経済産業省が選定する地域未来牽引企業になり、2021年には第42回食品産業優良企業等表彰で農林水産大臣賞(食品産業部門・農商工連携推進タイプ)を受賞した。

2. どんな新規事業に取り組んでいますか

「卵は安いもの」という固定概念を覆す
「卵は安いもの」という固定概念を覆す

1個2000円という高価でも売れる卵を生産・販売し、それを世界に売る「日本一のブランド卵革命」を展開していく。

卵は「物価の優等生」や「スーパー特売の目玉商品」と言われるように、安くて当たり前、と思われている。2023年には鳥インフルエンザの大流行の影響で価格が上昇したが、現在は元に戻っている。その一方で、飼料価格や電気・ガス、資材費などは大幅に上昇し、養鶏農家の経営を圧迫している。廃業も相次ぎ、1989年に1万戸以上あった養鶏農家が現在は1500戸ほどに減少し、さらに4年後の2028年には1000戸を割り込む見込みだ。こうした流れを私の代で止めたい。その戦略が「日本一のブランド卵革命」だ。

「日本一のブランド卵」の価格は1個2000円と極めて高価だが、旨味とコクは通常の5倍(外部の食味検査による)。また、国内で0.17%しかない純国産鶏種の平飼い(ケージではなく平らな地面の上で放し飼いの状態で飼育する方法)で生産したという希少性がある。通常の卵だと2%ほどの利益率は約50%となり、養鶏農家の経営を助けることになる。

販路はまず海外から広げている。世界的な日本食ブームを追い風にして、日本料理レストランや高級ホテルなどをターゲットにしている。すでに香港やハワイには輸出し、非常に高い評価を受けている。続いてシンガポールや台湾、韓国にも輸出し、2027年には中東のドバイに輸出することが決まっている。

世界の卵の市場規模(2021年実績)は約16兆円と言われ、日本の市場規模(約5000億円)に比べてはるかに大きい。この市場を「半澤メソッド」で制圧したいと考えている。「半澤メソッド」は、60年を超える歴史を持った当社だからこそ可能となる方法で、具体的には(1)日々の体調などを正確に把握できる養鶏の分析力(2)複数の養鶏場をM&Aで再生した経験(3)高級卵へのリブランディング(4)国内外への直接的な販売力—のこと。このメソッドで「日本一のブランド卵」を世界に広め、さらに日本に逆輸入する形で日本でも高価な卵を販売していきたい。「卵は安いもの」という固定概念を覆すことで、当社のみならず、日本全国の養鶏農家の助けとなりたい。

3. 事業承継をどのように決心しましたか

今年3月の第4回アトツギ甲子園で優秀賞を受賞
今年3月の第4回アトツギ甲子園で優秀賞を受賞

幼い頃から祖父母、両親が近くで一生懸命仕事をしている姿を見てきた。朝は早く、夜は遅く、子どもながらに大変そうだなと感じていたが、私も少しずつ事業内容や社会へ与えている大きさ、地域への貢献、人から感謝されている姿や、楽しそうに仕事をしている姿を見て、私もこの仕事を守りたい、継承していきたいという気持ちになった。

おそらく私の代で半澤鶏卵は創業100周年を迎えるだろう。そんな記念すべき代を誇りに思う一方で、迷いもあった。本当の意味で経営者としてのスキルを身に着けてから受け継ぎたいし、継承した際には自分の代でもっと会社を大きくし、さらに200年、300年と続く道標になりたい。

自分の力をつけたいという考えもあって、2021年4月には私が代表取締役となり、「スモッち」をはじめ半澤鶏卵で生産するこだわり卵などの販売やSNSのコンサルティング等を手掛ける株式会社RISE(横浜市、現在はRICEに社名変更)を設立した。2022年には、日本卵業協会が認定するタマリエ(たまごのソムリエ)検定で最高峰となる「五ツ星タマリエ」の資格を当時で7人目、史上最年少で取得した。

4. 後継者の「魅力」や「やりがい」は何ですか

創業者の祖父・半澤清助氏(左)、代表取締役の父・清彦氏(中央)とともに
創業者の祖父・半澤清助氏(左)、代表取締役の父・清彦氏(中央)とともに

祖父と父の2代にわたって築き上げてつないできた歴史や重み、人、地域、想い、経営資源などを背負い、次につなげていく役割として、様々な重責を感じるが、生まれ持った使命であると同時に、そのおかげで自分自身がここまで成長して大きくなれたことに誇りを持っている。時代の変化が大きい昨今の情勢であっても、必ず次の代へバトンをつなげるために、人生を賭けてやり遂げる。

5. 今後の展望を聞かせてください

直売所「いではCOCCO」(写真上)と昨年11月オープンのカフェ「高擶(たかだま)テラス」(写真下)
直売所「いではCOCCO」(写真上)と昨年11月オープンのカフェ「高擶(たかだま)テラス」(写真下)

大変ありがたいことに卵業界ではだんだん私を認知してもらえることが増え、業界No.1のインフルエンサーと言われることも多くなった。それくらい一つ一つの発言や行動が常に見られているということを頭に入れなければならない。業界人として、まだまだ私も力不足ではあるが、日本の卵の素晴らしさを世界に広めることを目標に、今私にできること、そしてこれからさらに成長しながら業界や人の食文化のためにできることに取り組んでいく。

また、地元・山形県からも様々なアンバサダーの依頼や講演の仕事もいただいている。山形の魅力を世界へ認知してもらえるよう、発信はもちろん、世界から多くの人が訪れてくれるような観光地として魅力のある街づくりにも力を入れていく。その一つとして、卵のテーマパークのような、世界にない、かつ卵の魅力を広げられる場所を山形に造りたいと思っている。

創業した祖父も、現社長である父も年齢を重ねているが、とても元気にやっている。少しでも元気なうちに、これまでやってきた経営方針や理念はもちろんのこと、その想いを吸収していきたい。そして、山形県をはじめ東北地方はこれからさらに人口減少が加速していくなかで、外から人を呼び込める観光の部分や、海外への販路が今後のテーマになってくると思っている。これまでの経営資源や想いを大切にし、半澤鶏卵のメソッドを最大限に生かしていきたい。

企業データ

企業名
株式会社半澤鶏卵
Webサイト
設立
1992年(創業は1960年)
資本金
2000万円
従業員数
75人
代表者
半澤清彦 氏
所在地
山形県天童市大字高擶北2050
Tel
023-655-2556
事業内容
鶏卵の生産・卸・加工・販売、直売所「いではCOCCO」と「高擶テラス」の運営