中小企業応援士に聞く
社員の成長こそが会社成長の原動力【株式会社トーコン(横浜市戸塚区)代表取締役・櫻井誠健氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2022年 12月 5日
1.事業内容をおしえてください
神奈川県横浜市を拠点に千葉や埼玉、静岡の各県に10カ所の事業所を設け、物流業務の請負や出荷代行などの事業を展開している。事業所があるのはお客様の工場や倉庫などで、当社の社員・スタッフがお客様に代わって商品などの物品を受け入れ、保管・管理し、出庫などの作業を引き受けている。
創業は1963年(昭和38年)。大手企業の営業マンだった父が知人から休眠会社を譲り受け、東京都大田区で事業を開始した。当初は自動車メーカーのタイヤチェーンなどの部品の保管と出荷用の梱包を請け負っていたが、その後、プラント関係の輸出が盛んになり、工作機械や製造機器、精密機械など輸出用の梱包なども手掛けるようになった。プラスチックダンボールの設計加工なども手掛け、お客様のニーズに合わせて、オーダーメードで加工するサービスも提供している。
父から経営を引き継いだのは1999年。大学を卒業してすぐに入社し、20年が経過したタイミングだった。その後、これまでの物流分野での経験やノウハウを活かし、物流請負業務の事業を拡大。建設現場事務所やイベント会場のレンタル品や美容サロン向けのスキンケア商品などの幅広い業種の物流業務を請け負うようになった。
物流は企業が作り出した価値をエンドユーザーに届ける重要な役割を果たしている。その半面、人手を要し、そのうえ業務が煩雑で専門性が求められるところがある。物流業務を重荷に感じ、課題に頭を悩ます会社は少なくない。われわれのような専門的なノウハウを活用することで、負担を軽減し、コアとなる主力業務に注力していただける。「モノの動きの観点」からお客様の競争力アップに貢献している。
2.強みは何でしょう
当社の大きな強みは「人財」だと考えている。経営理念は「幸せづくり」。「仲間、お客様、社会のため」に行動することを宣言している。人財の育成には特に力を入れており、中小企業大学校東京校をはじめ外部機関の研修も積極的に利用しているほか、社内でも若手・中堅・管理職の3段階のレベルで「人財化勉強会」を実施している。新卒採用については2009年以降、継続して実施。経営理念や企業風土に共感し、自主的に考え、動ける社員へと成長している。
入社5~10年程度の社員がメンバーとなる「拓未会(たくみかい)」という組織がある。明るく風通しのいい組織風土創りを目指すプロジェクトで、社内イベントなどを企画している。彼らの提案で面白かったのは、「AIS(アイス)カード」という取り組み。ふだん社員がお互いに思っている「ありがとう」「いいね」「すごいね」という内容を紙に書いて、その人に渡す。社内のコミュニケーションや連携、思いやりの気持ちを深める結果になった。事業をスタートしてから50年以上が経過したが、これまで顧客から解約を受けた経験はなく、「トーコンさんに任せてから、自社の雰囲気もよくなった」など高い評価をいただいている。これも、プロジェクトを通じ、「風通しのいい組織風土創り」を経験してきた社員たちだからこそできたことと考え、『風土改善型物流』として、トーコンサービスの大きな特徴として押し出している。
お客様の側から見れば、物流はコストであり、本来は、安ければ安いほど喜ばれる。だが、当社は品質にこだわったサービスを守りつづけている。品質を認めていただけることで、適正な料金で継続的な取引ができていると考えている。
3.課題はありますか
当社が得意とする物流請負の業務では、社員・スタッフ一人ひとりの知的、人間的成長がサービスの品質・生産性の向上につながる。しかし、人には体力、集中力、精神力にも限界があるため、過度の負荷がかかることは望ましくない。また、お客様から与えられた環境下での業務であるため、作業を省力化するためのパッケージシステムや自動化機器の導入が難しい。その中で、人の努力だけに頼らない仕組みづくりが大きな課題となっていた。
そんな最中、あるセミナーで聴講した大学教授の話に大きな刺激を受けた。生産工程の合理化や効率化について研究する生産工学(IE) を専門とする先生で、「IoT(モノのインターネット)やロボット化は、その前に業務の流れや作業の内容を改善しないと成功しない」ということを指摘されていた。
その先生に直接の指導をお願いし、社内勉強会を開いて、全社員にIEの知識を習得してもらっている。先生の教えから社員・スタッフの改善意識と改善レベルを高め、作業しやすい現場をつくっていきたいと考えている。同時に現場リーダー以上の社員には、さらなるIE知識の浸透を図り、無理・ムラ・むだのない作業設計ができるように育成している。いずれは社内での省人化設備の設計ができるようになってもらうことを目指している。
IEの指導を継続しているうちにデータ処理の改善も課題となった。そこで、別の大学からデータ処理の知識が豊富な先生をもう一人紹介してもらった。この先生からは「ローコード」を教わっている。少ないコード作成量でアプリケーションやシステムを開発する手法のことで、高いプログラミングの技術がなくてもスピーディーにシステム開発ができる。先生からの指導を通じて、実作業を一番熟知している担当者がプログラムを学び、自ら開発。作業に一番適した小規模システムを数多くつくることができるようになってきた。
4.将来をどう展望しますか
少子高齢化を背景に労働力人口は今後、さらに減少が進んでいく。人手不足が慢性化する中で、企業は収益の柱となるコアビジネスに人材を集中させる必要が出てくるだろう。物流のようなコアの業務から離れた業務については、外部にアウトソーシングする企業が今後も増えてくる傾向が加速するのではないかと考えている。
ここ5年くらいの間に当社のホームページに問い合わせが増えている。実際、この4年で新たに4つの事業所を開設した。昨年新たにスタートした会社からは別の物流拠点での請負の相談が来ているほか、もう1件、契約に向けた交渉が進んでいる。当社のスタンスとして、「当社が請け負うと、物流コストが安くなる」ということは打ち出していないのだが、逆に「そういう考えの会社がいい」という反応をいただくこともある。コスト優先ではなく、安全で安心な信頼性の高いサービスを求めているお客様はしっかりと当社のことを評価してくださり、「今までやってきた路線は間違っていなかった」と改めて自信を深めている。
5.経営者として大切にしていることは何ですか
個人的に大切にしているのは、「お天道様に恥じない仕事をする」ということだ。社員にもウソは絶対につかないことにしており、会社の透明性や風通しのいい組織づくりをいつも意識して経営に当たっている。売り上げデータは毎月、幹部会の後、幹部を通じて社内に公開している。
当社のサービスの基盤は人にある。経済産業省中小企業庁から「はばたく中小企業300社」の「人材育成部門」に選出されたが、社員一丸となった「人財育成」への姿勢や、社員マナー・安全管理などが高い評価をいただいた。「社員が成長しなければ、会社は成長しない」という考えのもと、社員へ成長の機会を常に提供している。もちろん、自分自身でも常に新しいことを学ぶように心がけており、その内容は幹部会で発表している。
6.応援士としての抱負は
大学を1979年に卒業してすぐに入社したのだが、大学では海洋学を学んでいて経営の知識がなかった。父の勧めで翌年、中小企業大学校の経営後継者研修を受講した。40年以上続く経営後継者研修の第一期生だった。中小企業大学校との付き合いはそこからで、その後、社員たちを研修に派遣し、2人の息子も経営後継者研修を受講し、親子2代でお世話になっている。
自分の息子や社員を積極的に大学校に通わせているのは、日本の産業を支えている中小企業のあるべき経営の在り方を示してくれているからだ。多くの社員が同じように大学校で学ぶことで、社内の経営に対する言語、意思疎通が統一され、理想的な経営の方向性をみつけることができると思っている。東京校の経営後継者研修や経営管理者研修の良さは、中小企業応援士として、いろいろなタイミングでPRしていきたいと考えている。
企業データ
- 企業名
- 株式会社トーコン
- Webサイト
- 設立
- 1963年10月
- 代表者
- 櫻井誠健 氏
- 所在地
- 横浜市戸塚区品濃町549-2 三宅ビル502-1
- Tel
- 045-443-8801
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