中小企業NEWS特集記事

「吉左右(愛媛県八幡浜市)」「八幡浜の味」商品化へ

この記事の内容

  • 八幡浜市周辺で唯一の本格的な日本料理店、企業関係者の来客など減少傾向に
  • 「店の味を商品にできないか」地元商工会を経由してよろず支援拠点に相談
  • 地元企業の協力、よろず支援拠点のアドバイスを経て商品化、売れ行きは好調
地元産の鯛を使った日本料理店の味が自慢。「鯛めしの素の販売は出足好調」という廉田氏(店舗内で)

愛媛県の西岸に位置する八幡浜市は、鯛の養殖が盛んな地域。豊後水道の流れが赤潮の発生を防ぎ、品質の良い養殖鯛が生産されている。ここで生まれたブランド真鯛として知られている「八幡鯛=はちまんだい」は、八幡浜の自慢の逸品であり、すべての人を唸らせる高級魚だ。

この切り身を炙り、旨味を身に閉じ込め、鯛の出汁と鰹と昆布の出汁とを合わせて袋詰めしたのが、日本料理・吉左右の「鯛めしの素」。研いだお米とともに炊飯器で炊くだけで日本料理店の鯛めしが味わえる。八幡浜市周辺で唯一の本格的な日本料理店である吉左右では、これまで、お客の要望に応え自家製の「鯛めしの素」を土産用として扱っていた。

経営者である廉田(かどた)勝夫氏(48)は地元出身。高校卒業後に調理師学校に通い、神戸市で料理人としての腕を磨いた。独立を計画していた1995年、阪神・淡路大震災に遭い、2年後に帰郷し地元で料理店を開く。それから20年になる。

企業関係者の接待用として安定的な顧客がつき、地域イベント向けの仕出し弁当なども数が出て経営は安定していたという。だが、地域施設の減少に伴いイベントが減り、さらにリーマン・ショックの影響で企業関係の客足までが細る。「時代の流れに身を置いていたらじり貧になるだけ。何とか対策を講じなくてはと思い3年ぐらい前から商工会で相談していた」と廉田さんは語る。

保内町商工会経営指導員の浜田和夫氏は廉田さんと旧知の仲。「アイデアはあったが、なかなか妥協しない職人気質が壁になり具体化へ進展しなかった。そんな時、鯛めしの素の案が出て、よろず支援拠点に持ち込んでプロの目でみてもらおうと思った」と浜田さんは愛媛県よろず支援拠点への依頼経緯を説明する。昨年3月のことだ。

コーディネーターの関原雅人氏との面談では、「鯛めしの素」を本格的に販売するため他の商品と差別化する工夫、価格設定や加工にあたる必要な営業許可などを確認することが話し合われた。「店舗内の製造は許可されないことが分かり加工場が必要になったが、加工設備を持つ八幡浜漁業協同組合が運営するシーフードセンター八幡浜が引き受けることになり問題は解決した」という。

同センター加工部次長の清原健氏は「地元の会社が何社も関わるだけに応援する気持ちが強くあった。最終商品化は当センターが行うので製造者となり、商品の幅を広げることにもなる」と話す。

こうして6月には試作品が完成。製造許可を保健所に申請し、賞味期限などの検査を依頼するなど、商品化はスムーズに進んだ。密閉容器を包むのは高級感を出すため黒の巾着袋とし、それに貼る商品シールは地元の印刷会社に依頼。デザインはよろず支援拠点がチェックした。

11月末に商品が完成。2合用1080円、3つ入った木箱入り3780円として、八幡浜のフェリー乗り場に隣接した店舗で販売を開始。木箱入りは、ふるさと納税の返礼品にも採用された。シーフードセンター八幡浜の販路開拓を担う八幡浜市地域おこし協力隊の橋本歩氏は「12月に大阪で開かれた販売会では、試食品が絶賛された。用意した30袋は完売した」と人気の高さを語る。

吉左右は廉田氏が1人で切り盛りしており、ホームページ対応までは手が回らない。通販は近所で愛媛みかんのネット販売を手掛ける青果会社が行う。商品化は8機関・社が関わった。その中心に愛媛県よろず支援拠点があった。「鯛めしの素」に続き「鯛の南蛮漬け」「鯛の旨だし」も商品化し12月中旬に販売を始めた。

「切れ目なく売れている。夏にはそうめん用の鯛汁を出したい。アイデアが次々に浮かぶ」と廉田氏は意欲的に語る。

関原雅人・愛媛県よろず支援拠点コーディネーターの話

フードコーディネーターの立場で地域の特産品を商品化する取り組みを支援しました。商品の発想段階から加工、資材の選定、デザイン、販促、販路支援まで地元の関係者の皆さんと一体化し進めた試みです。

初めての相談から商品化まで、わずか8カ月の速さ。地域に食品加工の設備があったこと、商工会をはじめ市役所や漁協などの迅速な連携体制が構築できたことが要因だと思います。それぞれが担う役割をきちんと果たしたことも大きい。もちろん廉田さんの熱意が原動力です。

よろず支援拠点としては、地元での資材調達を基本として、デザイン面や法的な対応などステップごとのアドバイスを行いました。販促に関わることはデザイナー層が厚い愛媛県よろず支援拠点の強みを十分に発揮できたと自負しています。

八幡浜市の特産品を使った商品化が、地域活性化に資する展開となりました。〝支援冥利〟に尽きる取り組みでした。

企業データ

企業名
吉左右
設立
1996(平成8)
代表者
廉田勝夫氏
所在地
愛媛県八幡浜市保内町川之石1-56-3
Tel
0894・36・0988
事業内容
日本料理店経営、八幡鯛を活用したレトルト食品の製造