売れない時代に売れる理由。販売低迷期の成功事例
「西松屋チェーン」逆転発想の“ガラガラ店舗”と製造小売業
「顧客が少なくても利益の出る店」。国産のベビー子供用品チェーンでトップ企業になった西松屋の大村禎史社長は理想のチェーン像についてこう語る。目指すのは顧客であふれる店ではなく、広い通路に少ない人数でゆったり買い物できる環境だ。もちろん駅周辺や繁華街に出店すれば、顧客が集まりやすく売上高もあがるが、家賃は高く、販促費もかかる。売り上げを上げるために人件費などの固定費がかかり、店単位の損益分岐点は高くなる。同社は徹底してこの逆を実践し、今や年間売上高は1200億円、17期連続の増収だ。そしてガラガラ店舗の次に目指すのは、電機メーカーなどから転身した優秀な技術者が商品開発を手がけるベビー子供用品の製造小売業(SPA)の姿だ。
駅前の大型店より郊外に複数出店
同社の店舗展開の戦略はシンプルだ。1店あたりの平均年商は1億6000万円—1億8000万円。それが2億5000万円を超えたら、同じように標準化された店舗を隣接地域に店を出す。つまり店に顧客が少ない状態をあえて作り出しているのだ。店舗は660平方メートルの売り場面積がありながら都市部のコンビニ並みの年商。1日あたりの平均客数は175人、店舗の通路幅は広くとられていることから、常に顧客のカゲはまばらだ。
しかし大村社長は話す。「店に顧客がいない方がゆったり、ゆっくり買い物ができるし、従業員も陳列など作業がしやすい。その結果生産性が上がる」。これがガラガラ経営の本質だ。同社の設定する1店あたりの商圏人口は10万人。駅前などに商圏人口100万人を想定した大型の店舗を1店作るよりも、家賃の安い郊外に作業がしやすく、ローコスト運営ができるワンフロアの店舗を10店作った方が、固定費も少なくて済む。顧客もゆっくり、ゆったりと買い物ができる。費用対効果が高いというわけだ。
次の狙いは商品数の絞り込み
今後、同社ではさらなるローコスト運営に磨きをかける方針だ。その具体策として商品と商品政策の質的向上を目指し、商品数の絞り込みを行う計画。現在約2万品目(色、柄を含め6、7万品目)ある商品数を将来、究極的には「6000品目程度まで絞り込みたい」(大村社長)という。商品数が多いと陳列など店内作業が増えるし、コンピュータの容量も大きくしなければならないなど、コストを押し上げる要因をいくつも包含しているからだ。
その商品の絞り込みの手法も京都大学の工学修士を持つ大村社長らしく「売れ筋商品を作り出すことで死に筋商品を排除していく」という小売業の玄人には考えつかない方法だ。そして“売れ筋商品の創造”の方法が、メーカーや問屋からの仕入れではなく売れるPB商品の独自開発だ。
「プライベートブランド(PB)のベビーカーの設計は、大手電機メーカー系列で産業用ロボットを作っていた技術者、バウンサー(ベビーチェア)は他の電機メーカーで炊飯器や生ゴミ処理機を作っていた技術者です」。大村社長はこう話す。同社には、小売業のPB開発とは一見、無縁な経歴の人材が30人ほど入社し、ベビー子供用のPB商品の開発に日夜取り組んでいる。
「今までもPB作りはいろんなカテゴリーでしていました。しかし、西松屋の商標を付けるだけのメーカー、問屋に依存型だった」(大村社長)。本格的にスペック(仕様)を決めて、メーカーや問屋に委託するような同社が主導した商品開発になっていなかったのだ。
元大手電機の技術者が活躍
売れ筋のPB商品を開発するために着目したのが、地デジへの切り替えや、エコポイントの終了でドル箱の薄型テレビの需要が減少し、苦境にあえぐ電機メーカーの技術者達だった。現在、パナソニックやシャープなど大手電機メーカーでは、販売低迷などでリストラを余儀なくされている。数千人、数万人単位で人員削減策する中には優秀な技術者もいる。「(電機メーカーの技術者ならば)モノを作った経験がある。大量生産のノウハウを持っている。うちに来てもらったらどうだろうか」(同)。
PB開発の本格化を志向していた同社にとってピッタリというわけだ。3年ほど前から、電機メーカーなどの技術者の採用を始めているが、最近はメーカー側のリストラの加速で、技術者の採用も弾みがついているようで、すでに約30人の元技術者を採用した。
元技術者が開発したPBの第1弾は「ベビーバギー」。三洋電機(現パナソニック)系メーカーで産業機械やロボットアームの開発に携わっていた技術者が手がけた。バギーは日よけを大きくし紫外線遮断効果を高め、車輪を大きくし安定感を強化、さらに指はさみ防止フレームを付け、5点式のシートベルトを採用した。随所に安全や快適性の要素が付加されたにもかかわらず、2999円という低価格を実現した。同社では「本来なら1万円近くで売れる商品」と話す。発売から昨年11月までの約2年間の累計で6万5000台を販売、同社が扱うバギーの売れ筋商品となった。
バギー以外でも乗用玩具、バウンサー、歩行器、ベビーチェアなどを開発している。これらはすべて、電機メーカーなどでファクスや炊飯器、生ゴミ処理機などの開発に携わっていた技術者が手がけた。最近では「モノづくりの考え方は同じ」(大村社長)として、雑貨ばかりでなくベビー・子供用のアパレルや布団といったPBの繊維製品の開発にも着手した。
大村社長は「(元技術者が手がける)PBは年間30品目程度は作りたい」と話す。同社は今後、売れるPBを多数投入することで、競合と差別化を図るとともに、カテゴリーごとの死に筋商品を排除し、商品数の絞り込みを進めていく考えだ。そのためにも電機メーカーなどの企画、品質・生産管理などのノウハウを持った「優秀な元技術者はどんどん採用したい」と大村社長は話す。
まだまだシェア拡大へ
しかし時代はまさに少子高齢化時代。少子化で市場の先細りの懸念はないのだろうか。大村社長は「ベビー子供用品の繊維商品だけでも1兆円、雑貨まで含めると計2兆円の規模になる。しかし、この市場は毎年1割も減っていない」という。1人あたりに支出する金額が増えているからだ。この2兆円市場で同社の売上高は1200億円、シェアは5、6%。「まだまだシェアは拡大できる」とみる。
商品開発でメーカー出身の技術者達が売れ筋商品を創造し、商品の絞り込みなど店舗ローコスト化を進め、その原資でまた売れ筋商品を作る。製造小売業のサイクルを完成させる考えだ。同社の異業種の血を入れるモノづくりは製造小売業への脱皮の第一歩だ。
企業データ
- 企業名
- 株式会社西松屋チェーン
- Webサイト
- 代表者
- 大村禎史社長
- 所在地
- 兵庫県姫路市飾東町庄266-1
掲載日:2013年2月21日