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「ウィンドレンズ」九大の技術に魅せられ起業

この記事の内容

  • コスト見合いで大型化する風力発電機は騒音など環境被害で設置場所が限定的
  • 課題をクリアするコンパクトで高効率な九州大発の小型発電機「風レンズ風車」を実用化
  • 販売量を増やし設置コストを低減させ、環境に優しい小型風力発電の普及を目指す
特徴あるブレードの前に立つ高田社長

2012年度に導入された再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)により、太陽光発電、風力発電への取り組みが活発化した。再生可能エネルギーは、発電に伴う温室効果ガスの排出量を抑えられるメリットがある半面、太陽光は日中だけ。昼夜を問わない風力発電も年間を通し風が吹く地域に限定される。しかも風力発電は、効率化を狙いブレード(回転羽根)の長さ35メートル、地上からの高さは100メートルにも達する大型化が主流となっている。

「コストで見れば太陽光が圧倒的に有利。大型化した風力は、騒音と低周波など人体への影響があり設置場所は山間部か海岸沿いだけ。もはや国か大手企業のプロジェクトでなければ風力発電は成り立たない」とウィンドレンズ代表取締役社長の高田佐太一氏(66)は語る。

高田氏は大手メーカーの役員として大型風力発電事業を担当していた。そのメーカーは蓄積した技術を応用できる風力発電事業に乗り出したものの、設置の難しさなどから事業縮小が決まった。だが、高田氏は風力発電への思いを断ち切ることはできず、そこに九州大学が開発した小型風車が目に止まったという。

九州大学の大屋裕二教授(当時)らのグループが開発し04年に特許を取得したのは、フードを搭載した小型風車。メーカー時代から大屋教授との交流があり、その流れで共同研究を開始。08年に起業して実用化を目指した。

開発した風レンズ風車は、どこにでも設置できるコンパクトさと高効率な発電ができる次世代小型風力発電機。ローター(羽根の回転直径)周りに特殊なダクトを取り付け、風車の後方へ強い渦を発生。この渦が風車後方の圧力を低下させダクト内へ流入する風速を1.4倍に増速させる。発電量はダクトがない場合に比べ3倍の出力が出せる。

「風レンズ風車」の名称は、太陽光を一点に集めるレンズに似ていることから名付け、社名にも使用した。風見鶏のように風向きに合わせ追随し、騒音の音源になるブレードの回転面積が小さく静寂性がある。集風レンズがブレードを囲むため、視覚的安心感が得られるほか、鳥が認識しやすくなりバードストライクの防止にも役立つ効果がある。

ローター直径は2.5メートルの小型ながら出力は5キロワットで、年平均風速が毎秒4メートルあれば年間発電量は約3000キロワット時が得られる。4人家族の平均年間電力使用量は約3500キロワット時といわれており、使用電力のかなりを賄うことができる計算だ。

「環境への優しさをアピールしている。都市部にも設置できるので09年の販売からこれまで自治体や民間企業向けに110台を販売、設置した。海外へも中国を中心に30台を輸出している」と着実に実績を積み重ねている。ただ設置にかかる費用が400万円程度と家庭向けには高額なのがネック。販売数を増やすことで低価格化を目指す方針だ。

一方、ポール部分に太陽光発電の設備を組み込み、発電容量を7キロワットに増やす風光ハイブリッド型も開発し、公園など公共施設向けに販売を開始した。災害時の電源供給や無電源地帯への電力供給などの用途を訴求していく考えだ。

クリエイション・コア福岡について高田氏は「創業時に九州大学の施設で見たパンフレットで知り応募した。納入された部品の機能試験ができる機能性と、何といってもIM(インキュベーションマネージャー)からの情報提供や経営相談、展示会出展などの支援を受けられるのが助かる」と語る。

画期的な〝風レンズ風車〟は総合的な技術、ノウハウがなければ作れず、海外メーカーが簡単にはコピーできない。このため当分の間、競合先は少ないが、市場拡大も時間がかかる。「だからこそ市場を開拓するのがベンチャーの使命だ。社会貢献の一役を担う仕事と自負している。今後も普及促進に全力投入していく」と力強く語る。

企業データ

企業名
ウィンドレンズ
Webサイト
設立
2008年4月
従業員数
4人
代表者
高田佐太一氏
所在地
福岡県筑紫野市上古賀3-2-16 クリエイション・コア福岡内
Tel
092-555-2500
事業内容
風レンズ風車(風力発電機)の製造・販売・設置工事・メンテナンス、自然エネルギー機器の販売