備えあれば憂いなし、BCPのススメ

納入危機を救ったBCP策定「株式会社丸十」

2020年 2月12日

東日本大震災の被災企業がBCP(事業継続計画)のおかげで早期に事業再開ができたというニュース等から同様の取組を導入した鳥取県の企業がある。BCP策定後、生産ラインでトラブルが発生したが、代替生産協定を結んでいた企業への緊急発注で事なきを得た。

東日本大震災の関連報道を機に

丸十(鳥取県倉吉市)は割箸を海外から輸入し、封入・名入れなどの包装加工を施したうえで、「完封箸」として全国に出荷している。同社工場の生産能力は日に20万本と国内有数の規模だ。岡野稔社長(現会長)は、テレビ報道で2011年3月に発生した東日本大震災の被災企業がBCPを策定していたおかげで早期に事業再開ができたことを知り、強い危機感を抱いた。「自分の会社が同じように被災したらどうなる。今のままでは事業復旧に時間がかかり多くの顧客を失ってしまうかもしれない」。

タイミング良く地元銀行が主催するBCPセミナーがあった。セミナー終了後に鳥取県がBCP策定企業を募集していることを知り、その場で手を挙げた。コンサルティング会社の指導を受けながら丸1年かけてBCPを作成した。策定メンバーは、現社長も含めた役員3名に総務担当の計4名。顧客の視点から業務の流れを見直し、自社の強みや弱みを棚卸したうえで重要業務を位置づけた。震度6弱以上の地震や水害、火災被害を想定し、そのために何が必要なのかを明らかにした。12年8月にBCP冊子を発行して全従業員に配布した。

協定企業の協力で乗り切る

完封箸自動包装機
完封箸自動包装機

BCP策定後間もなく、同社で完封箸自動包装機が故障した。メーカーの中国・大連から技術者を呼んで修理することになったが、4日間ほどラインが止まり、ある製品群の納期が間に合わない。その時、威力を発揮したのが「非常時は協定企業に発注する」というBCPに盛り込まれた対策だった。

完封箸は、割箸を楊枝等と一緒に紙やOPPフィルムで包装した製品だ。ロシアの原木を中国に輸入して、中国の工場が製造した割箸を日本に輸入。同社工場では箸袋に顧客からの指定のデザインを印刷し割箸を包装して出荷している。日本国内での主工程は印刷と包装で、同じ印刷機や包装機を使っている国内工場は稀な存在であるため、競合でありながら非常時には協力工場にもなる。丸十は以前から付き合いのある九州の企業とBCPにおける非常時の代替生産等の協定を取り交わしていた。同社が協力を打診すると、快い返事があり納期を守ることができた。

従業員に浸透するBCP意識

本社外観
本社外観

2016年10月の金曜日、最大震度6弱を記録した鳥取県中部地震が発生する。県内外で負傷者32人、住家等は1.5万戸超もの被害が出た。同社では幸い人的被害はなく、業務に支障のある建物・設備の被害も無かったが、倉庫では商品在庫が大きく荷崩れており、週末は従業員総出での現場復旧となった。「日頃の訓練で従業員の意識が高く、全員が適切な行動を取れた。今後は飲料水や食料品の備蓄にも積極的に取り組みたい」と岡野会長。BCP策定後、防災訓練を年2回行い従業員の意識を高める努力を続けてきたことが奏功したのだ。

同社は毎年決算期に全従業員と取引先2銀行の支店長を前に経営計画の発表会を開催している。経営計画書には顧客別の販売実績や計画をはじめ、資産や負債状況の記載がある。経営計画書を従業員にしっかりと理解してもらうため、経営を疑似体験するマネジメントゲーム研修も毎年実施し、従業員の参加を促している。BCPも同社が標榜するガラス張りの経営が下地となり、従業員へスムーズに浸透が進んでいるようだ。

企業データ

企業名
株式会社丸十
Webサイト
資本金
1000万円
従業員数
24人
代表者
岡野 太一 氏
所在地
鳥取県倉吉市秋喜350-23
創業
1952年
業種
割箸の製造・卸売、包装資材・食品容器・厨房機器・衛生用品、酒類販売

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