BreakThrough 企業インタビュー
株式会社井口一世がものづくりの常識を変える【株式会社井口一世】
2017年 3月 27日
独自の加工技術で業界の常識を覆し、急成長を続けている異色企業が目指す、革新的な日本のものづくり。
独自の板金加工技術で、金型も切削も不要なものづくりを提案
2001年設立の株式会社井口一世は、独自のアプローチで業界の常識に挑戦することで、急成長を続けているものづくり企業である。社名は創業者で代表取締役の井口一世氏の本名から来ている。「第一印象で記憶に残る社名が良いと思ったのです」と井口氏は語る。
同社では独自の板金加工技術によって、金型レス、切削レスの精密加工を行っている。高精度で大量生産を安価で行うには金型が不可欠というのが業界の常識であるが、金型を製作するには大きな初期投資が必要となり、メーカーにとっては負担となっている。またミクロン単位の精密さが要求される場合、マシニングセンターによる切削加工が常識となっている。ところが(株)井口一世では、精密加工には向かないとされる板金加工によって金型や切削と同等の精度・品質を可能とする加工技術を開発したのである。
ものづくりの常識ではありえない手法だけに、設立当初はなかなか技術を信じてもらえない状態だった。そこで無償で試作品をいくつも提供し、その信頼性を顧客に確認してもらうことから始めたという。
他社にはできない独自技術を追求
そしてあるOA機器メーカーが(株)井口一世の技術を認め、ついに採用に至った。2006年には埼玉県が主催する「第1回渋沢栄一ベンチャードリーム賞」で奨励賞を受賞したことで、メディアにも取り上げられ、採用企業数はどんどん増えていった。「ひとつの製品をつくるための数千個もの金型が不要になることで大幅コストダウンが可能となり、切削加工で生じる削りクズも出ないので、エコロジーにもつながります」と井口氏は言う。同社が主張する金型レス、切削レスという手法は次第に業界に受け入れられていった。
同社が工場で使っているのは汎用のレーザー加工機だが、高精度で加工するためのノウハウは長年の研究と失敗を積み重ねてきたことで得られたもの。「仮に他社が同じ機械を導入したとしても、当社と同じことはできないと思います」と井口氏は言う。
さらに(株)井口一世では工程の徹底したICT化を進めている。人間の仕事は「どうやってつくればいいか」を考えることであり、機械ができることは機械に任せればいい。井口氏は「社員に求められているのはデータサイエンティストの素養であり、これからは科学的なアプローチでものづくりを行うことが重要になる」という。
日本のものづくりの未来のために
大手企業が海外に生産拠点を移していく中、日本のものづくり産業が生き残っていくためには、日本でしかできない高付加価値を見つけ出すしかない。井口氏は「例えば日本の人件費がアジア圏の50倍とするなら、日本が50分の1の時間でつくればいい」と語る。
2015年からは経済産業省の中小企業支援プロジェクトであるワンストップサービス「なんとかなる」の窓口企業となっている。様々な業種から厳選された先端的かつ独創的な技術を持つ中小企業群のリーダーとして、国内外からの受注案件に対し、打ち合わせ、製造、納期・品質管理、出荷までの業務を(株)井口一世が一括管理している。当初は11社だった参加企業も20社に増え、日本の中小企業が持つ高い技術力を世界に向けて発信するプロジェクトとなっている。
また女性社員の方が多いというのも他社にはない特長である。しかもほとんどが文系で、逆に理系の男性社員は少数派という。工場では女性社員が中心となり、機械を操作している。「専門家は知識が邪魔をしてしまいがちで、素人の方が当社のやり方を受け入れやすいのかもしれませんね」と、井口氏は語っていた。
企業データ
- 企業名
- 株式会社井口一世
品質は世界一を自負。従来「機械加工」で製造していた部品も、「板金加工」で製造できます。金型などの製作を最小限にできるため、資産管理が大変楽になります。すべてのロットに対して高精度(Cpk 3.26)です。