中小企業応援士に聞く
耐圧防水樹脂「ジェラフィン」で地元貢献めざす【エスイーシー・シープレックス株式会社(北海道函館市)営業顧問・小野雅晴氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する 全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2021年11月22日
1.事業内容をおしえてください
当社は株式会社エスイーシー(北海道函館市)の水産海洋プロジェクト部門から派生した耐圧防水樹脂「ジェラフィン(Jellafin)」の製造と卸販売を行っている。
親会社のエスイーシーは1969年に株式会社南北海道電子計算センターとして設立され、情報処理事業や情報通信事業などに携わり、従業員約520名、売上高約100億円の総合情報企業に成長した。海中での情報通信を進めるため2003年ごろから海洋センサーを開発していたが、防水対策が必要で、当時、同社の水産海洋プロジェクトの研究員だった鉄村光太郎と毛内也之が2010年ごろ、耐圧防水樹脂「ジェラフィン」を開発した。
2017年6月に特許を取得、潜水設備の設計を手掛けるシープレックス株式会社(神奈川県横須賀市)から出資を受け、鉄村が代表取締役になり2021年4月に創業した。当社社員は鉄村、毛内、そしてエスイーシーの役員を務めたのち退職した私・小野の3人である。
2.強みは何でしょう
技術力の高さだ。「ジェラフィン」は、圧力の変化や塩水に強く、長期間安定した電気絶縁性と光・磁気・電磁波への高い透過性を持つ無色透明の高弾性ポリマーだ。海中ロボット・海底地震計などの耐圧防水素材として開発された。
2013年に国研海洋研究開発機構が行った加圧試験では、100MPa(水深1万m相当)の水圧で電子回路の安定動作に成功している。水深1万mの高水圧下でも浸水せず、光や電波を通すので、電子部品の安定動作が可能だ。水中だけでなく、陸上でも防湿、防水、電気絶縁などの効果は変わらず、屋外の悪環境下でIoT機器を安全に動かすことができる。2019年度に北海道地方発明表彰・文部科学大臣賞を、2020年度には全国発明表彰・未来創造発明奨励賞を受賞した。
「ジェラフィン」の使い方は簡単だ。主材と硬化剤の2つの液体を重量比1:1で混ぜ、対象部品に塗布または充填する。常温24時間で完全硬化するが、バッテリー交換などで中の部品を取り出したい場合は、カッターなどの刃物で切り開き、樹脂を再充填すればいい。
近年、用途が急拡大しているデータ通信アンテナを多用する航空宇宙機器や次世代自動車をはじめ、腐食やさびなど経年劣化が不可避の橋梁や鉄道、道路など社会インフラ向け需要も期待できる。ジェラフィンで保護すれば、塩害が懸念される海岸沿いにも太陽光パネルが設置できるので、再生可能エネルギー普及によるカーボンニュートラルの削減にも役立ちそうだ。
3.課題はありますか
なんといっても人員不足だ。鉄村代表、毛内、小野のわずか3人で業務を遂行している。鉄村と毛内はエンジニアなので、渉外業務は小野がメインになる。出資先のシープレックスから営業支援は受けているものの、創業以来、品質保証体制の整備や、大口の顧客を掴むための準備に追われ、時間がいくらあっても足りない。ジェラフィンの売上高はいま数千万円程度だが、陣容が拡充できれば、さらに増やすことができるはずだ。
4.将来をどう展望しますか
創業時に3年計画を立案している。遅くとも2024年春までに自前のジェラフィン生産工場を地元の函館に建設したい。生産目標は年に数トン。自社生産が可能になれば、現在の価格(主剤100g、硬化剤100g、1組1万円)をもっと引き下げることができる。販路もおのずと拡大していくだろう。
5. 地域や業界とのつながりで、御社が大切にしていることは何ですか
函館は第一次産業の水産業と第三次産業の観光業で成り立っている街だ。この函館に製造業など第二次産業の基盤をつくり、地元経済の活性化に役立ちたい。この想いは、親会社である株式会社エスイーシーの創業者で、函館商工会議所副会頭などを務めて函館の産業振興に貢献した故沼崎弥太郎氏の志を継ぐものだ。将来は地元に「ジェラフィン」生産工場をつくり、多くの地元の若者たちに働いてもらいたいと思っている。
6.応援士としての抱負は
当社は中小機構が運営するビジネスマッチングサイト「J-GoodTech(ジェグテック)」を2019年ごろから活用している。機構北海道本部から紹介してもらったのだが、このサイトに登録したおかげで複数社と商談を実現できた。これから中小企業応援士として他社から顧客開拓についての相談を受けることがあれば、J-GoodTechを紹介してサポートしていきたい。
企業データ
- 企業名
- エスイーシー・シープレックス株式会社
- Webサイト
- 設立
- 2021年4月
- 代表者
- 鉄村光太郎氏
- 所在地
- 北海道函館市大町13番1号 函館市臨海研究所
- Tel
- 0138-27-7519
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