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「ナノミストテクノロジーズ(徳島県鳴門市)」資金調達に成功

この記事の内容

  • 中小機構のインキュベーション施設を足場に東京進出が奏功
  • 液体を超音波で霧状にし、成分ごとに分離する技術で飛躍へ
  • 産業革新機構などが出資、2019年東証マザーズ上場目指す

超音波霧(ミスト)化分離技術の実用化に取り組むベンチャー企業、ナノミストテクノロジーズは今年7月、官民ファンドの産業革新機構などから総額5億5,000万円を上限に出資を受けることになった。多くの成分を含む混合液を超音波で揺らして霧化し、成分ごとに分離・回収する同技術は幅広い分野での応用が期待できるが、今回の出資受け入れに伴い、当面、(1)工場廃液などを対象とした排水処理(2)船舶の排ガス処理─の2つにピタリと照準を合わせ、開発を急ぐ。代表取締役社長の松浦一雄氏(52歳)は「2019年に東証マザーズ上場という計画は必ず達成する」と自信を見せる。

創業者で開発者の松浦氏がここに至るまでには、「多くの紆余曲折があった」。

徳島県最古の酒蔵である本家松浦酒造(鳴門市)の長男として生まれた松浦氏は、山梨大学の大学院を出て大手酒造会社の研究所に入所。1993年に超音波霧化分離現象を発見し、日本生物工学会技術賞を受賞する。超音波で水を霧にする原理は加湿器などに応用されているが、混合液を分離できることを証明したのは初めてだった。

1997年に後継者として実家に戻ると、同技術を酒造りに応用。純米清酒を霧状にし、水より軽いアルコールや香り成分などの旨みだけを集める「霧造り製法」を開発し、2000年にその名も「純米酒 霧造り」として発売した。アルコール分が25度と高いにもかかわらず香りもよく立つので評判を呼び、年商数千万円のヒット商品となった。

しかし、2006年の酒税法改正で、清酒はアルコール分22度未満と定義されてしまった。「霧造り」は蒸留酒ではないのに、税率が高い焼酎と同じ扱いになる。このため、松浦氏は「酒造業という閉鎖的な世界でやっていくには限界がある。もっと広い世界へ出よう」と考えた。

すでに2004年から2年間、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助事業に採択されて、バイオエタノール製造への応用技術を開発していたのに続き、2009年に経済産業省の「ものづくり日本大賞四国経済産業局長賞」を受賞するなど、さまざまな分野で応用できる技術として定評を獲得。商談も舞い込むようになっていた。そこで、家業を兄弟にまかせて、2011年1月に同社を発足、この技術の事業化に専念することにした。

その直後の同年3月、東日本大震災が発生。そのあおりで、電力会社からの受注が白紙になり、大手ベンチャーキャピタル(VC)の出資話も波にのまれた。資金繰りに窮していた時に、技術士仲間から紹介されたのが、同じ技術士で、中小機構が運営する農工大・多摩小金井ベンチャーポートでインキュベーションマネージャー(IM)を務めている佐々木久美氏だった。

佐々木氏の勧めで、2013年春に同施設に資金調達拠点として「東京営業所」を開設。常石造船系VCのツネイシパートナーズ(広島県福山市)も紹介してもらい、翌2014年3月に初めてのVC資金の導入が実現した。同時に、多摩信用金庫(東京都立川市)が貸し出しに応じてくれ、それが新たな与信を生むなど、「四国では難しかった資金調達が順調にできるようになった」(松浦氏)という。

同VCの出資に伴い、常石造船向けの船舶用排ガス処理装置開発という新たなターゲットも生まれた。IMO(国際海事機関)が来年から第3次規制に乗り出すなど、船舶の排ガス規制はいよいよ本格化する。加圧・加熱が不要で低エネルギー、省スペースでの処理が見込める超音波霧化分離技術が実用化されれば、グローバルな需要も期待できる。

大企業の問題解決に役立つ技術ということで、さらに産業革新機構などの出資にもつながった。同機構とツネイシパートナーズのファンド、それにフューチャーベンチャーキャピタル(京都市)の3者が共同出資する。

「この技術で世界に貢献したい」。松浦氏は“技術者魂”の火を静かに燃やしている。