中小企業とDX
工場の「見える化」が第一歩 DXへの挑戦が生んだ新たなビジネス【山本金属製作所(大阪市平野区)】
2023年 6月 19日
製造現場でのデータ活用の重要性が増している。品質やコスト、生産性…。課題を解決するために何が必要なのか。データを収集し、分析することでその方向性を見出すことができる。大阪市平野区で金属部品の切削加工を手掛ける株式会社山本金属製作所は自社でセンシングやデータ分析、AIなどの技術開発を積極的に取り組んだ。その成果をソリューションとして他の企業に提供する新たなビジネスを展開する。その取り組みが高い評価を受け、中小企業のDX優良事例として経済産業省が昨年選定した「DXセレクション2022」で最高賞のグランプリを獲得した。
きっかけはリーマンショック、改革に取り組む
「なぜ加工が難しいのか。なぜ品質が安定しないのか。解決するには職人の経験や勘、コツでは分かりにくい。論理的な手法が必要になる。そこでセンサーやデジタル機器を使ってデータを取り、加工の良し悪しを評価していこうと考えた」。山本金属製作所社長の山本憲吾氏がDXに取り組んだきっかけをこう振り返った。2007年、まだ「DX」という言葉も生まれていないころのことだ。
山本金属製作所は、山本氏の父が1965年に創業した。山本氏は大学を卒業し、数年が経過した1996年に父の会社に入社した。自転車の変速機器やブレーキ、油圧関連の金具、ホース接手などの部品加工を取引先から請け負っていたが、そこにリーマンショックの直撃を受けた。
「一生懸命技術を磨いて、いいサプライヤーになるための努力をしてきた。売り上げや利益が出始めて、軌道に乗ってきたという矢先だった。自分たちでマーケットを作れないと自立した企業活動はできない。そう強く感じた」と山本氏は振り返る。
加工現象と製造データ収集、センサー技術を開発
「よそにはできないことをできる会社にする」。そう誓った山本氏がチャレンジしたのが、加工現象を見える化するための技術の研究・開発だった。
創業者である父から2009年に社長の座を承継すると、2011年には岡山市北区に研究開発の拠点となる「岡山研究開発センター」を設立した。
金属の切削加工の際に生まれる熱や振動、負荷などを計測するためのセンサーを搭載した計測機器を独自に開発。加工現象をモニタリングしながら加工時の課題や問題点をリアルタイムでチェック。その場で見直しや調整を行うので、スピーディーに課題に対応できる。加工の精度が上がり、生産性も向上。取引先からの信頼を高めていった。近年では、摩擦攪拌接合(FSW)分野にも技術を展開している。
「われわれが苦しんできたこと、疑問に思ったこと、ものづくりの現場で感じたことは、取引先のお客様も同じように感じているはず。このチャレンジは、そういうフィールドにある」。そう考えた山本氏は、自社で築いたセンシングやモニタリングのノウハウを他社に提供するサービス事業をスタートさせた。
自社で開発したさまざまな計測評価機器を製造・販売。また、評価試験のサービスなどさまざまなソリューションを提供する。さらにAI(人工知能)も積極的に活用し、これまで培ってきた精密加工・計測評価技術を進化させていった。
「この事業の根幹を機械加工最適化支援サービス、LAS(Learning Advanced Support)と呼んでいる。単に計測機器を開発・販売するのではなく、機械加工事業者の課題を解決する総合的なサービスを展開している」と山本氏は胸を張った。
新たな事業展開で取引先数が10倍に
山本氏は、LASによって生産性・効率性を大幅に向上させた事例をこう紹介する。
24時間体制で工場を稼働させている部品加工メーカーの設備や加工現象をモニタリングし、データをとると、部品の一部分の削り込みの時に切削工具に大きな負荷がかかっていることが分かった。
工具にかかっている負荷の状況はコンピューターでグラフィック化され、わかりやすく表示。工具に負荷がかからない稼働条件をAIで分析し、夜間に工具に負担がかからないよう機械のプログラミングを変更した。
「日中の人がいる間に工具の負荷の状態をみて、夜間は折損しない条件で加工するようプログラミングする。夜間に工具が折損するのが怖いので人を張り付けていたが、変更したことで、無人で稼働できるようになった」と山本氏は解説する。
このような調整を行うと、生産効率は落ちるが、夜間要員が不要になった分の人件費は削減される。「機械が生む1時間当たりの付加価値もデータ化できるので、機械が生む付加価値をどういう形にするべきか、経営者と生産現場が考える大きな材料になる」という。
こうしたサービスを提供したことで、顧客の数は大幅に増えたそうだ。「2006~07年のころの取引先の数は50~60社だったが、今は600社を超えている。請負の製造業はリソースに限界があるので、なかなか規模を追求できない。だが、デジタルのビジネスは規模を追求できる。そこが面白い」と山本氏は話す。
ロボットにも応用、製造現場の省力化を可能に
山本金属製作所では、センシングやAIの技術をロボットに応用したロボットシステムインテグレーション(SI)事業にもチャレンジしている。製造や計測・梱包などこれまで人がこなしていたさまざまな作業を1台のロボットが自動で行う。ロボットには、さまざまなセンサーが取り付けられ、データを収集。AIで解析してプログラムを作り、熟練工と変わらないクオリティーの製品を作りあげる。そのシステムをパッケージで提供する。人手がほとんどいらない工場だ。
「未来の製造業は、機械とAIとロボットが行い、それをうまく回すために人がエンジニアリングでサポートする。日本人は繊細なものづくりをするDNAを持っているので、すごくいいシステムをつくることができる」。山本社長はそんな未来像を描いている。
中小製造業のデジタル化へのチャレンジについて、山本氏は「『DXをしなくてはならない』ではなくて、経営課題を明らかにすることが大事。ものづくりの現場で一番人手がかかっているところはどこか。個人に頼り切りになっているところはどこか。そういう切り口から考えていくと、具体的なテーマがみえてくる」と語っている。
山本氏によると、取引先のほとんどは大手製造業で、中小企業への広がりはこれからだという。一方で、中小企業のものづくりの現場では、人手不足が深刻化している。若い働き手に技術の継承ができず、会社の経営を引き継ぐ後継者も見つからないという課題に直面し、事業の継続をあきらめ、廃業に追い込まれるケースも少なくない。
これに対し、山本氏は、「われわれは最小限の人で高度なものづくりを提供することができる。ロボットやAIを活用することで、事業継続の可能性が広がる」と語る。人材の獲得が難しい中小企業こそ活用のメリットが大きいとみている。少子高齢化が進行する中、人材不足はますます深刻になることが懸念される。それだけに山本金属製作所が取り組むロボットSIなどの事業は中小企業が直面する課題解決の重要な道筋を示しているようにも感じられる。
企業データ
- 企業名
- 株式会社山本金属製作所
- Webサイト
- 設立
- 1989年1月12日
- 資本金
- 2億1500万円(グループ総資本金)
- 従業員数
- 300名(2023年5月1日現在)(グループ総従業員数)
- 代表者
- 山本憲吾 氏
- 所在地
- 大阪市平野区背戸口2-4-7
- Tel
- 06-6704-1800
- 事業内容
- 機械加工事業、ソリューション事業、ロボットSIer事業、技術教育支援事業