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最先端の設備で大断面集成材を一貫生産 万博で震災からの林業復活をアピールへ「株式会社ウッドコア」
2024年 9月 30日
「浜通り」と呼ばれる福島県東部の太平洋沿岸地域。東日本大震災と福島第一原発事故で未曽有の被害を受けた同地域でいくつものビッグプロジェクトが進行中だ。その一つが国内最先端の工場「福島高度集成材製造センター(FLAM=エフラム)」。大規模な木造建築物用の大断面集成材などを製造しており、来年4月に開幕する大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」用としても納入された。FLAMを運営する株式会社ウッドコア(福島県浪江町)の朝田英洋取締役は、木造建築物が国内外で見直されるなか、「福島の木材の良さと安全性を広く認知してもらいたい」として林業の復活と故郷の復興を目指している。
100周年目前に被災・避難、単身で福島に戻った老舗製材業4代目
FLAMは、浜通り地域などに新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」の一環で、太平洋を望む棚塩産業団地内に整備された。福島県産を中心とした国産の原木から集成材を製造する一貫生産や、国内初となる高出力高周波プレス機などによる量産体制が特徴だ。
運営主体となるウッドコアは、大正時代から浪江町で製材業を営む朝田木材産業と、郡山市所在で県内では集成材の第一人者といえる藤寿産業の2社が共同で2018年に設立した。社長は、大断面集成材について経験豊かな藤寿産業会長の蔭山寿一氏がつとめるが、生まれ育った浪江町の復興に向けて会社設立の中心となったのは、ウッドコア取締役で朝田木材産業代表取締役の朝田氏だ。
同社4代目の朝田氏は、創業100周年を翌年に控えた2011年3月の大震災と原発事故により、家族とともに避難。最終的に東京都内で暮らすことになった。当時30人近くいた社員も「みんな全国各地にバラバラになった」(朝田氏)という。当時代表取締役だった父・宗弘氏(現会長)から「自分が生きていける生き方をしろ」と言われた朝田氏は「浪江に戻れないのなら別の場所で製材業を続けよう」と考え、福島県や茨城県で再建する場所を探し求めた。しかし、適当な場所は見いだせなかった。
一方、浪江町では帰還困難区域を除いて日中の立ち入りが可能になった。久々に故郷に戻った朝田氏は荒れ果てた会社の悲惨さに愕然としたが、「ここに戻ってやるしかない」と決意。妻子を残して福島市内のアパートに移った朝田氏は浪江町に通い、「戻れるなら戻ってきて」という呼びかけに応じた社員と5人ほどで片付け作業を続けた。その後、建設業の許可を取得し、除染の仕事も手掛けながら会社経営を続けてきた。
林業が盛んだった浪江 木材を生かして雇用の場を
やがて帰還困難区域以外での避難指示解除に向けた動きが活発化するなか、朝田氏が必要性を感じたのが雇用の場だった。「浪江に仕事がなければ、避難した住民も戻ってこない」。浪江町では元々林業が盛んだったが、林業関係の業者の多くは震災を機に廃業していた。「ウチは製材業なので、木材を生かして復興のためになにかできないか」と考えをめぐらした。
そんな折、国から木材関係の製造拠点建設の話が持ち上がった。福島県内各地から「ぜひやりたい」という申し出が相次いだが、補助金などの関係から最終的に浪江町で決着。最先端の設備を導入して短期間で高度な集成材を量産できるFLAMが建設されることになった。建設地となる棚塩産業団地は、東北電力が原発予定地として所有していた広大な土地を浪江町に無償提供して整備されたものだ。
FLAMは2019年に着工。海外から最新鋭の設備を導入したが、コロナ禍による移動制限で海外からの技術者が来日できないなどの影響を受け、稼働は予定より遅れた。社員の採用も始めていたが、「仕事がなかったので、ウチの会社や藤寿さんに出向させて仕事を覚えてもらった」(朝田氏)という。工場は2021年5月に完成。そして翌年6月にJAS認証を取得し、集成材の製造が可能になった。
カーボンニュートラルに貢献 国内外で見直される木造建築物
9.4ヘクタールの敷地に製材棟や集成材棟などが建ち並ぶFLAMでは、長さが最大12mとなる大断面集成材などを製造している。原木からラミナ(集成材を構成する板物)を製造し、それらを選別・加工したうえで貼り合わせて集成材を生産する。「貼り合わせることで大きな部材を製造でき、強度も増す」と朝田氏。また、仕入れている原木のうちスギはすべて福島県産だ。浪江町内の森林のほとんどが帰還困難区域になっているため、県中、県南地域などから調達。安全性を確保するため、原木を仕入れたときと製造工程が終わったときの2回、放射線を測定している。
折しも木造建築物は、地球環境問題の観点などから国内外で見直されている。木材の需要が増して林業が盛んになれば植林が進み、CO2の固定化が促進される。「街の建築物にCO2を貯蔵・固定化しながら、伐採後の山では植林により新たなCO2の吸収源ができる」(朝田氏)こととなり、カーボンニュートラルの達成に貢献できる。SDGsへの関心も高まるなか、とくに大企業は木造建築物に前向きで、昨今は地上10階建て以上のホテルやマンション、オフィスビルなどが国内各地で建設されている。ウッドコアでも地元の「ふれあいセンターなみえ」のほか、東邦銀行と第一生命保険が共同で建設した「TDテラス宇都宮」(栃木県宇都宮市)や、「市原ゴルフクラブ市原コースクラブハウス」(千葉県市原市)など、県外の建築物に集成材を納入している。
初仕事は大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」
このように納入事例を積み上げている同社が本格稼働後の初仕事として手掛けたのが、来年4月に開幕する大阪・関西万博向けの集成材だった。万博のシンボル、大屋根リングなどに使用されるもので、大屋根リングの一部の工区を担当する大手ゼネコンから注文を受けた。大屋根リングは1周約2km、高さ20mという、完成すれば世界最大級の木造建築物になる。大きさはもちろんのこと、高いレベルの強度も求められる。このため、ゼネコン各社では早い段階からウッドコアが製造する大断面集成材に関心を寄せており、「FLAMが完成する前からゼネコン担当者が工場見学に訪れていた」(朝田氏)という。
JAS認証を取得すると、早速、大屋根リング用の集成材の製造がスタート。今年3月までに生産を終えた。「福島県産の木を使い浪江で製造した集成材が万博会場に使われることは大変うれしい。万博に訪れる大勢の人たちに見てもらえれば、いいPRにもなる。福島の木材の良さ、そして安全性を認知してもらい、日本全国で使ってもらえれば」と朝田氏。万博を契機にして福島県の林業復活に弾みをつけたいとの期待を寄せている。
目指すは「震災前よりすばらしい、住みやすい浪江」
朝田氏は浪江町の復興にも思いを馳せる。町は2020年3月、FLAMと同じ棚塩産業団地内に世界有数の水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」が開所するのを機に、環境省が推奨する「ゼロカーボンシティ」を宣言した。朝田氏は「CO2を排出しない水素エネルギーとともに、カーボンニュートラルの木材を生かしたまちづくりを進めてほしい。現在進行中のJR浪江駅前の再開発でも木材をふんだんに使ってもらいたい」として地元の復興に貢献していきたい考えだ。
棚塩産業団地内には、FLAMやFH2Rのほかにも、陸・海・空のフィールドロボットに対応する一大開発実証拠点となる「福島ロボットテストフィールド」など、最先端の研究開発を手掛け、将来の産業基盤を構築していく施設が次々と誕生している。朝田氏は「こうした新しいものを取り入れた近代的なまちづくりが進んでいる。まだまだ時間はかかるが、震災前よりすばらしい、住みやすい浪江にしていきたい」と話す。
震災から13年を経った今も浪江町の大部分は帰還困難区域のままで、かつて約2万1000人あった住民も現在は2200人余と、震災前の1割ほどにとどまっている。こうした現状を踏まえ、朝田氏は「浪江に戻ろうか悩んでいる元住民だけでなく、浪江に移住したいと考える人たちも含め、ひとりでも多くの人たちに、生まれ変わりつつある新しい浪江にぜひ来ていただきたい」と呼びかけている。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ウッドコア
- Webサイト
- 設立
- 2018年1月
- 資本金
- 2000万円
- 従業員数
- 50人
- 代表者
- 蔭山寿一 氏
- 所在地
- 福島県浪江町大字棚塩字赤坂1-1
- Tel
- 0240-25-8400
- 事業内容
- 原木製材(ラミナ、角材、板材)、木材乾燥、低ホルムアルデヒド構造用集成材製造など