中小企業応援士に聞く
「よそ者」の視点を大切に 地域の観光ビジネスを牽引【株式会社オズリンクス(富山県富山市)代表取締役女将・原井紗友里氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2023年 11月 9日
1.事業内容をおしえてください
富山市八尾(やつお)町で明治時代の蔵を改装した「越中八尾ベースOYATSU(おやつ)」という宿泊施設を2016年に開業した。現在は3つの宿を運営している。いずれの宿も一棟貸しで、お客様は一つの宿に1泊1組だけ。限られたお客様に対して、私たちがコンシェルジュとなって、滞在計画をプロデュースさせていただいている。
食事も宿で出さず、お客様のご要望を聞いて、要望に合った飲食店をご紹介する。宿を拠点に食事に出かけたり、お酒を買いに行ったりして町を回遊してもらう。宿に泊まるというのではなく、八尾町全体に滞在するイメージで運営している。
八尾町で事業を始めたのは、県が主催する観光人材の育成セミナーに参加したのがきっかけだった。もともと富山県の出身で東京の大学を卒業後、中国・青島の日本人学校で4年間教員をしていた。海外生活でいろいろな文化圏の人たちと出会う中で、富山の良さを再認識し、戻ることにした。八尾町は富山の伝統行事「おわら風の盆」で知られている町だが、初めて来た時は「何で?」と思うほど人の姿がなかった。いい町並みなのに残念だった。この町で通年観光に取り組みたいと起業を決意した。
宿泊を中心とした観光業のほか、アパレルとコンサルティングの事業もしている。アパレル事業では着物を洋服などにアップサイクルして新しい価値を生み出す「tadas(タダス)」というブランドを2018年に立ち上げた。中国での経験を生かし、海外への販路開拓のコンサルティングの仕事をしているのだが、母が着物で仕立て直した服を着て海外で商談をしていたところ、現地の方々にその服が注目された。帰りの飛行機で「これはいけるかも」と思いついて事業をスタートさせた。
2.強みは何でしょう
最高の八尾滞在、富山滞在ひいては日本滞在になるよう、私たちがお客様の要望を聞いて滞在計画をプロデュースするところが好評を得ている。一般的にホテルなどのチェックインは記帳して終わりだが、「OYATSU」では、言葉を選ばずに言うと「おせっかい」するくらいのお構いをする。「この後、夜はどこでお食事をしますか」「明日のチェックアウト後は何をされますか」とかなり突っ込んだ形でご要望を聞いて、滞在をプロデュースする。チェックインには30分くらいの時間をかけている。
外国のお客様もいらっしゃるが、例えば、食事処を紹介する際、「肉や生魚が食べられない」という要望を聴いたら、その要望を事前に店に伝えておく。すると、店の大将がその要望通りのメニューを出してくれる。言葉が通じなくてもスムーズに進む。いろいろな事業者と連携してお客様のおもてなしをしており、利用されたお客様からは大変喜んでいただいている。
食事以外でも、「近くでホタルがみることができる」という情報があれば、その場所を案内する。タケノコの季節ならタケノコとりができる場所を紹介する。季節にあった、その時にしかできないサービスを提供しているところも強みだと思っている。
アパレルやコンサルティングを含め、会社としての強みもある。世の中のニーズをキャッチしてそれをビジネスに変える力がある。大きな会社ではないので機動力もある。
3.課題はありますか
町にもっとプレーヤーが増えてほしい。八尾町全体でもてなそうというとき、宿からちょっと歩いて食べられる団子屋さんがあったり、買い物をするところがあったりと回遊するところが増えると町全体に活気が出てくる。八尾町に来るきっかけにもなる。こうした環境をつくるのは、私たちだけではできない。いろいろな人がチャレンジして、この町で商売をやってくれたらいいと思う。
町が365日賑わう「通年観光」を考えると、2つのキーワードがある。一つは「回遊性が高い」こと。もう一つは「滞在型」。1秒でも長く滞在してもらう。宿はそのためにある。この宿に泊まることによって、夜ご飯を食べに行ったり、酒蔵でお酒を買ってもらったり。そういう形で地域にお金が落ち、域内消費を上げることができる。
4.将来をどう展望しますか
「地域資源をいかに生かすか」「ニーズをしっかりキャッチしているか」「地域課題を解決する」—。この3つがしっかりミックスされていれば、持続可能なビジネスになる。
例えば、「tadas」のビジネスも「着物がタンスの中にいっぱい眠っているから、この資源を生かして服を作ろう」だけではうまくはいかない。その中で地域課題として空き家があるので、その空き家を活用する。担い手が不足しているから、地元の和裁や洋裁ができる方を活用して雇用を創出する。さらに、ここ数年注目が集まっている「サステナブル」「SDGs」のニーズをとらえる。着物など「和」の文化にもニーズがある。資源を活用しながら課題を解決し、ニーズをキャッチできる商品を開発することで成長につなげることができる。
「tadas」は、お客様のニーズがあるだけでなく地域課題や社会的な課題も解決している。ここが大事なポイントだ。八尾町の店舗を拠点に事業をしているが、私たちの取り組みに共感する全国の方々から着物が集まってくる。寄付という形もあれば、「この着物で、これを作ってほしい」というオーダーもある。祖母の形見を孫夫婦が着る。母の着物を息子がアロハシャツとして着る。そんな家族の歴史をつなぐお手伝いもさせてもらっている。
今は国内のみだが、もっと海外に売りたい。もっと世界の人に着てもらいたいと思う。「tadas」を世界に発信し、将来はパリコレを目指したい。また、宿泊施設3棟も世界中からゲストを呼びこみ稼働率を上げていきたい。
5.経営者として大切にしていることは何ですか
八尾町で生きるという覚悟をしたこと。八尾町の生まれではないので、地元の方々からすると、よそ者だが、「よそ者として八尾町にできることは何か」という視点を大切にしている。ずっと同じところに住んでいる人から見れば、「大したことない」と思っているものが、実は素晴らしい価値を持っていることがある。
マレーシア人のお客様が冬に宿に泊まったとき、「『おわら』の時期でもないのに何しにきたの?」と地元の方々は不思議がった。そのお客様が楽しみにしていたのは雪だった。地元の人とっては、当たり前のことで、どちらかといえば雪は厄介者。しかし、外から来た人には宝物であり、資源になっている。私自身、いい意味でよそ者としての視点をしっかりと持ち続けてビジネスをしていきたいと思っている。
また、経営者としてスタッフとの交流や情報発信を大事にしている。「tadas」を始めるとき採用募集はしなかったが、いろいろな人に事業構想を話すと「友人の友人に和裁ができる人がいる」といった具合に紹介してくれた。アウトプットすることによって、いろいろなご縁が生まれ、ここまでやってきた。
やればやるほど、自分一人の力がたいしたことないことが分かるので、「こんなことをやりたい、あんなことをやりたい」と発信して助けてもらっている。個人的には、こんなアウトプット思考も経営者として大事と思っている。
6.応援士としての抱負は
八尾町で事業を始めるとき、中小機構北陸本部の方々にサポートをしていただいた。補助金の活用や派遣してもらった専門家からのアドバイスなどを活用して事業が広がった。中小企業応援士に委嘱され、八尾町のようなローカルで事業にチャレンジしている方をサポートしたいという気持ちを強く持っている。すでにビジネスをされている中小企業や個人事業主のみなさんと連携することも大事だが、創業支援に関心を持っている。「ゼロからビジネスを始めたい」と考えている方々のサポートができればとも思っている。
「おわら風の盆」で踊り手になれるのは、地元出身の26歳以下の未婚者に限られている。私は「おわら」を踊ることができないが、ここで結婚をして娘が2人いる。2人が「おわら」を継いでいくと思うと誇らしい気持ちになる。若者が減り、踊りの担い手は年々少なくなっている。この町を守り、担い手をつないでいくため事業を通じて、地域の雇用の創出や交流人口、関係人口、ひいては定住人口にも貢献したいと常に思っている。
企業データ
- 企業名
- 株式会社オズリンクス
- Webサイト
- 設立
- 2016年1月
- 代表者
- 原井紗友里 氏
- 所在地
- 富山市八尾町上新町2696-1
- Tel
- 076-482-6955
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