パリのアスリートを支える
“飲むあんこ”でアスリートが栄養補給、味は「和菓子クオリティ」【株式会社UNDERWATER(東京都台東区)】
2024年 4月 8日
昔から日本人になじみの深いあんこをパウチで飲むというユニークな商品がアスリートの間で人気だ。この“飲むあんこ”「theANko(ジ・アンコ)」を販売するのは、学生時代に水球選手として活躍した平子勝之進代表取締役が設立した株式会社UNDERWATER(アンダーウオーター)。パリ五輪出場を決めた女子ホッケーの主力メンバーら数多くのアスリートが練習や競技の際に栄養補給として“飲むあんこ”を愛用。味は「和菓子クオリティ」で、スポーツ界だけでなく医療機関や介護施設などにも人気は広がり、今後は海外展開も目指していく。
水球選手として活躍、医療と飲食の分野で起業
創業者の平子氏は福岡市出身。3歳から水泳を始め、高校時代からは水球選手として活躍。進学した早稲田大学では水泳部水球部門の主将をつとめ、日本選手権優勝など数々の実績を残した。卒業後、エフエム東京に入社したが、わずか1年で退職し、郷里に戻った。「母親ががんだとわかり、家業の水産問屋を手伝うことにした」。母親はその後、50代の若さで亡くなった。
これをきっかけに健康への関心を高めた平子氏は再び郷里を離れ、まず2009年、レントゲン写真などを医師が精査して病気の有無や程度を診断する読影サービスを行うドクタールーペ株式会社を埼玉県川口市内に設立。その後、都内に拠点を移し、2013年にUNDERWATERを立ち上げた。同社は、果物や野菜を粉砕して加熱することなく搾汁したジュース(コールドプレスジュース)を手掛け、2017年には東京都中央区の築地場外市場に店舗「築地果汁創作所」をオープンした。コールドプレスジュースは栄養価が非常に高く、スムージーよりも栄養の吸収がいいと言われる。「読影もジュースも健康というテーマが共通している」と平子氏。ジュースの店舗はコロナ禍の2020年に閉店したが、「築地果汁創作所」とのブランド名で駅ナカ催事やネット販売を続けている。
ボディビルダーの「パンプアップ」でアイデアひらめく
医療と飲食の分野で起業した平子氏があんこに着目したのは2019年のこと。ボディビルダーが本番直前に大量の糖質を摂取することで筋肉を張らせる「パンプアップ」の際に、プラスチック容器に入れたあんこをスプーンで食べている光景を目にした。「アスリートが栄養補給するためのあんこ」という切り口で考えをめぐらし、「飲めるようにしたら便利ではないか」とのアイデアがひらめいた。その後、知人を介して出会ったのがキノアン(木下製餡・東京都板橋区)の木下公章社長だ。チャレンジ精神旺盛な木下氏は“飲むあんこ”という今までになかった商品に興味を示し、2019年秋に商品作りがスタートした。
開発に際して平子氏がとくに重視した点は「“マイナスのサプリメント”と味の追求」。このうち“マイナスのサプリメント”とは、通常のサプリメントのようにプロテインやアミノ酸など添加物をプラスするのとは真逆で、添加物をすべて取り除くこと。「塩さえも入れず、小豆と砂糖だけ」と平子氏。味については、自身のアスリート時代の苦い思い出に基づくものだった。「自分が選手だった頃、体にいいからといってサプリメントを口にしたが、当時のものはおいしくなかった。それを我慢して摂取するということを今のアスリートにしてほしくはない。せっかく飲むなら、おいしいものにしたい」。
さらに糖度については、「高くすると羊羹のように固くなり飲みにくい。低すぎると日持ちが悪くなる」というあんこの特徴を考慮して調整。こうして、余計なものを加えず、「和菓子クオリティ」の味を実現した“飲むあんこ”が出来上がった。
「想像していたよりもずっとおいしかった」
アスリート時代の先輩や同僚らを通じて現役のアスリートに試飲してもらったうえで、2020年1月に“飲むあんこ”「theANko」を発売。種類はつぶあん、こしあん、しろあん(今年2月に抹茶あんを追加)。また「アスリートに勧めるにはエビデンスが必要」と考えた平子氏は、大学時代の先輩である至学館大学健康科学部スポーツ科学科の髙橋淳一郎教授と共同で調査を実施。その結果、集中力や疲労回復に関係する血糖値を維持する力は「theANko」の方が市販のスポーツドリンクよりも長時間続くことなどがわかった。
こうした科学的な裏付けもあり、“飲むあんこ”には多くのプロアスリートや大学の運動部などからの問い合わせが相次いだ。そして実際に飲んでみると、「パウチ入りで手が汚れない」「キャップ付きで少しずつ飲める」など好意的な感想が寄せられた。なかでも一番多かったのは「想像していたよりもずっとおいしかった」という声。「和菓子クオリティ」の味を追求した平子氏や木下氏らの思いが通じた格好だ。
さらに、海外で活躍する選手からは「日本で慣れ親しんだあんこの味にほっとして気持ちを持ち直した。パッケージに書かれた日本語の文字を見るだけでも安心した」と言われ、平子氏は日本人のあんこに対する愛着を再認識したという。
「さくらジャパン」主力メンバーらが愛用、ドーピング違反の恐れなし
アスリートのニーズに見事合致したともいえる“飲むあんこ”はスポーツ界を中心に広がり、今や競泳、水球、卓球、バドミントン、サッカー、トライアスロン、ボクシング、バスケットボールなど数多くの競技のトップ選手が飲用するほどの定番アイテムとなった。このうち、ホッケー女子日本代表「さくらジャパン」の主力メンバーで、元々あんこ好きという永井葉月選手はSNSで「theANko」を発見。あんこを飲むという点に興味を覚え、早速購入したという。「試合前などにぱっと飲める。アスリートに必要なタンパク質と糖質をいっぺんに摂取できる」と大いに気に入り、その後UNDERWATERの「商品提供サポートアスリート」となった。今年1月にインドで行われたパリ五輪最終予選でも持参し、この予選でチームは3位になり、6大会連続の五輪出場を決めている。
永井選手以外にも「theANko」を飲用する五輪代表選手がいるほか、自転車ロードレースのプロチーム「宇都宮ブリッツェン」は公式パワーフード(エネルギー補給食品)として採用している。
平子氏は「アスリートには限りある時間を有効に使ってほしい。その手助けができれば本望。あんこは食品なのでドーピング違反の恐れがない。スポーツの世界ではドーピング検査の厳格化が進んでいるので、普段から張り詰めた生活をしているトップアスリートに安心して飲んでほしい」と話している。
医療・介護施設などで重宝、アニメとともに海外進出も
アスリート以外からの需要も高い。コロナ禍では看護師ら医療従事者に重宝された。多忙を極めるなか、手軽に摂取できる点などが好評で、各地の病院やクリニックで活用され、東京医科歯科大学病院(東京都文京区)からは感謝状を受け取った。今年1月の能登半島地震では、被災地で支援活動を行うボランティア向けに提供している。「断水が続く被災地で、手を洗うこともなく飲むことができ、トイレの回数も抑えられる」と平子氏。
シニア層からも人気だ。シニア層は元々あんこになじみがあり、特に登山やスポーツに持っていくというアクティブシニアの購入が目立つという。さらに、介護老人保健施設では飲み薬をあんこに混ぜて高齢者に服用させているほか、「流動食しか食べられない親に和菓子を食べさせたい」として、介護する家族が購入するケースもあるという。一方で、発育途中にある子どもたちの食育にも役立てたい考えだ。「体が出来上がる前の子どもたちへの食育は欠かせない。食事の重要さを子どもたちに伝えていく活動もしていきたい」。“飲むあんこ”は子どもから高齢者まで幅広い世代で飲用される商品になりそうだ。
世界進出も目指している。しろあんのあっさりとしたまろやかな甘さと上品さをイメージしたアニメキャラクター「shiroAN(しろあん)」を起用した「shiroANプロジェクト」を展開。shiroANのイラストが描かれた商品を販売するほか、YouTubeなどのSNSを中心にVTuber(バーチャルYouTuber)としての活動を行っている。昨年、東京ビッグサイトで開催されたコミックマーケット(コミケ)に出展したところ、グッズの売れ行きは好調。今年夏にシンガポールで開催されるイベントにも出展する予定だ。「日本を代表する文化であるアニメという切り口で、あんこの認知度を高めていきたい。和食や日本酒など日本の食文化が世界的に注目されるなか、“飲むあんこ”という新しい文化を世界に届けていければ」と平子氏は話している。
企業データ
- 企業名
- 株式会社UNDERWATER
- Webサイト
- 設立
- 2013年12月
- 資本金
- 600万円
- 代表者
- 平子勝之進 氏
- 所在地
- 東京都台東区根岸 4-4-9
- 事業内容
- 「theANko」あんこエナジードリンクのネット販売、「築地果汁創作所」フルーツデザートの駅ナカ催事、アスリートのマネージメント事業