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「太盛工業(大阪市)」世界一の研究開発型「町工場」へ
この記事の内容
- 最先端技術を追求する4人の博士号を持つ「町工場」
- 金属加工では対応できない超精密部品の製造を得意とする
- 産学連携で研究開発を強化し世界一を目指す
正社員は23人。このうち4人が博士号を持つという「町工場」が、太盛工業の特徴のひとつ。「町工場としてはかなりの比率だと思う」と話す代表取締役の田中茂雄氏(64)も工学博士。ただ、博士の多さが自慢ではない。世界中どのメーカーも対応できない金属部品を作り出そうという最先端技術の追求と、その取り組みによる結果が博士の多さに表れたと見るべきだろう。
同社は、プラスチック樹脂による射出成形部品を製造し、組み立てまでを主要事業とする、いわゆる町工場として1974年、東大阪市で創業した。92年、2代目に就任した田中社長は、従来の製造技術をベースとして新たに粉末冶金による金属粉末射出成形(MIM)の事業化に着手。自ら持つ樹脂成形の知見と大学で培った金属技術をもとに、金属加工では容易に作れない、複雑な歯車などの部品製造を始めた。
「MIMは60年前に米国で開発された技術。複雑な3次元の形状やミクロレベルの形成が可能で、金属材料も粉末であれば対応できるなど、多くのメリットがある」と研究開発室の鹿子泰宏研究員は説明する。より小さく精度の高い製品を作り上げていくためには研究開発が欠かせない。この展開が、研究開発型「町工場」と言わせる理由だ。
現在の研究開発テーマは「超精密MIM」のさらなる高精度化。すでに技術は確立しており「3μmの構造体も作れる」と鹿子氏はいう。展示会などでは米粒の上に3つの歯車を置いて技術力を示す。同社の強みは極小化と高精度が伴っていること。これが海外メーカーや金属加工業者の追随を許さない。現状に満足することなく、世界一を目指すためには「さらに研究開発に軸足を置く」と田中社長は強調する。
その一方、生産現場には最先端の生産設備を備え、研究開発の成果を製品に具現化。高精度の測定機器による検査体制も拡充させ高い信頼性を誇る。超精密MIMの用途は電気・電子部品をはじめ幅広い業界に需要がある。とくに医療機器分野への伸びが大きく、大手メーカー向けに腹腔鏡手術で使用される鉗子の部品として使われている。
次の実用化に向け研究開発に取り組んでいるのがポーラス(多孔質)金属の活用。ハニカム構造のような気孔があり、延性に優れ高い導電性と熱伝導性がある。しかも軽い。「エネルギー、燃料電池分野での実用化を目指し顧客と共に研究開発に力を入れている」という。
その拠点となるのが、クリエイション・コア東大阪で、入居は2010年。「独自の展開は難しく、大学や研究機関との連携を重視している。ここには大学だけでなく行政や支援機関などが集結しオープンな環境で情報交換、収集ができ利便性が高い。お客さまに見せるラボとしても活用している」と田中社長は入居メリットを話す。創業の地、東大阪という親近感もあったようだ。
中小機構、IM室は入居後、開発助成としてサポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)の認定支援のほか産学連携、販路開拓、マッチングサイトJ-GoodTech(ジェグテック)による情報提供などを実施してきた。
これらを含め太盛工業は、インキュベーション施設を新規事業創出の場として活用し、超精密MIMの技術を確立し、本社の生産工程に移管した。現在の売上高の7割は新規事業関連が占めるまでに伸びている。今後の展開について田中社長は「隠れた技術とせず、積極的に使い方を提案していきたい。そのためにも情報発信力が重要だと感じている」と語る。
企業データ
- 企業名
- 太盛工業
- Webサイト
- 設立
- 1974年6月(創業72年1月)
- 従業員数
- 45人
- 代表者
- 田中茂雄氏
- 所在地
- 大阪府寝屋川市池田北町26-1
- Tel
- 072・829・3588
- 事業内容
- 超精密MIM、ポーラス金属、樹脂を材料とする射出成形品の部品製造と組み立て