BreakThrough 企業インタビュー

半導体レーザで網膜に画像を描く、従来にない視力支援・VR表示の技術を開発【株式会社QDレーザ】<連載第1回(全2回)>

2020年 12月 10日

「株式会社QDレーザ」は、多彩な半導体レーザの開発を手がけるベンチャー企業です。同社は産学連携により世界で初めて「量子ドットレーザ」の実用化に成功し、またレーザ光で網膜に映像を描いて視覚支援やAR表示を行う独自技術「VISIRIUM(ビジリウム) Technology」を開発するなど数々のイノベーションを生み出し、社会課題の解決に役立てています。さまざまな応用可能性をもつ同社の技術や、製品開発、企業連携に対する考え方について社長の菅原充氏にお話を伺い、2回の連載で紹介します。

レーザを使った新しい仕組みの視力支援ツール

八方に広がる通常光と異なり、一定方向に向かう強いエネルギーを持ったレーザ光は、通信、医療、加工など幅広い分野に活用されてきました。なかでも小型・軽量で変換効率が高い半導体レーザは、各種センサ、データの記録・再生、光通信など次代のデジタル革新を担う技術に欠かせない要素となっています。

この半導体レーザによる光を使った顔認証やバイオ検査、精密レーザ加工、集積回路の高効率化など、多彩な技術を開発しているのが株式会社QDレーザです。従来にない仕組みで「ものを見る」ことを可能にした「VISIRIUM Technology」もその一つです。

「瞳孔を通して網膜に直接、レーザ光を投影することにより、眼鏡などでは視力補正が難しかった方でも、0.8程度の視力が得られるようになります。眼球のピント位置の影響も受けません。また、実際の光景に文字や映像を重ねて映すことができるためARなどさまざまな用途への応用も可能です」

三原色のレーザ光を重ねて網膜に画像を描く

なぜ、レーザ光を使うことで物が見えるようになるのでしょうか。人間は物の形や色を光の情報としてとらえています。瞳孔から取り込まれた光が、レンズに近い働きをする角膜や水晶体でピント調整され、網膜で像を結ぶことで形や色を認識する仕組みです。

光の三原色である赤・青・緑の弱いレーザ光を使って網膜に画像を描く。そんな技術を使った眼鏡型ディスプレイを作れば、角膜や水晶体に疾病のある人でも、そのピント調節機能に頼らずクリアに物が見えるのではないか。そんなアイデアをもとに、菅原氏はディスプレイ分野に初挑戦します。

「試作品を展示会に出したところ、盲学校の先生などから高い評価をいただき、本格的な開発を始めました。レーザ光を目に入れるには安全性の確認が欠かせません。また、誰もが解像度の高い映像を見られるレーザ光の太さを突き止めなければいけない。3色のレーザ光をつくり、束ねて明確な像をつくることにも苦労しました」

視力支援やAR表示ツールとしての多彩な可能性

HDMIで入力した情報を網膜に投影する「RETISSAシリーズ」の最新機種「RETISSA DisplayⅡ」
HDMIで入力した情報を網膜に投影する「RETISSAシリーズ」の最新機種「RETISSA DisplayⅡ」

こうして試行錯誤を重ねながら磨いた「VISIRIUM Technology」の技術を製品化したのが、網膜走査型ディスプレイの「RETISSA(レティッサ)シリーズ」です。医療機器として販売承認を得た「RETISSA メディカル」は、眼鏡型ディスプレイの中央に設置されたカメラで撮影した画像を網膜に投影する、視覚支援に特化した製品。一般向けの「RETISSA Display」はカメラではなく、HDMI端子で接続したスマートフォンなどのデバイスから入力した情報を網膜に投影する仕組みになります。

「デバイスのカメラで撮影した画像を投影すれば視覚支援ツールとして利用できますし、オペラ公演などの上演中に、インターネットなどを経由してデバイスに送られた字幕情報を演者が歌う姿に重ねて投影するなどAR表示ツールとして使うことも可能。製造業などで、使用機器の上に操作手順の指示などを重ねて表示するといった活用法もあるでしょう」

第2回では、同社が世界で初めて実用化に成功した「量子ドットレーザ」の話や、技術開発で留意すべき点、有意義な連携を行う秘訣などについて伺います。

連載「多彩な半導体レーザの技術を活かし、社会の課題を解決」

企業データ

企業名
株式会社QDレーザ
設立
2006年創業
代表者
代表取締役社長・菅原 充(すがわら・みつる)

2006年、株式会社富士通研究所のスピンオフベンチャーとして創業。各種半導体レーザの開発、製造、社会実装を手がけ、通信、レーザ加工、センシング、ディスプレイなど幅広い分野での事業を展開。世界で初めて実用化、量産化に成功した量子ドットレーザや、網膜にレーザー光で直接画像を投影する「VISIRIUM Technology」など多数の独自技術を保有している。

取材日:2020年11月5日