中小企業応援士に聞く
おしぼり業界の変革に挑戦【FSX株式会社(東京都国立市)代表取締役・藤波克之氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する 全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2022年 3月22日
1.事業内容をおしえてください
1967年に東京都国立市で、貸しおしぼり業の「藤波タオルサービス」として創業した。タオル地の心地よいおしぼりを自社で開発・生産し、東京都内の大半の地域と、神奈川・埼玉県の一部地域を対象に、配送サービスまで自社で手掛けている。
この間、おしぼりの素材や加工機の開発に始まり、香り(アロマ)をつける特許技術、抗ウイルス・抗菌を安全に叶える衛生技術「VB(ブイビー=ウイルスブロック)」、おしぼりを最適な温度で提供する冷温庫「REION」などを次々と開発。日本最大級のおしぼりEC(電子商取引)サイト「e-SHIZAIマーケット」を2009年に立ち上げたほか、同業者向けに当社の商品・資材や管理システム、販売データ分析支援などを提供するなど、ソフトとハードの両面からおしぼりの価値を創造する取り組みを進めている。
2016年には創業50年を契機に、社名を「FSX株式会社」に一新した。次の50年に向けて、おしぼりの新たな可能性を引き出し、国内外へ広くOSHIBORI文化を広めるための革新的なサービスを創造する事業を展開している。
新型コロナウイルス感染症の影響については、最も落ち込んだ2020年5月に前年同月比で売上高が4割近く減少した。ただ、抗ウイルス・抗菌が強みのVBを配合した使い切りタイプのおしぼりが注目され、20年8月期の年間売上高はコロナ前の前期に比べて6%減に留まった。
コロナ対策としては、おしぼりの配送ルートを2つから1つにまとめ、生産日数を減らし、生産や発送部署で雇用調整助成金を活用した。また時間を有効活用するため、開発していたアプリのデータ収集に充てたほか、リモートワークや時差出勤を実施した。資本性劣後ローンやテレワーク助成金も活用した。
2.強みは何でしょう
おしぼり業界のイメージを変革させたことだ。おしぼりは日本人のおもてなし文化が詰まったものだが、一方でおしぼり業界に対してはネガティブなイメージしか持たれていない。非常に悔しい思いをした反骨精神から、祖業であるレンタルおしぼりを主軸に、新たな価値を創造するとともに、時代に即した新しいおしぼり文化を再定義し、おしぼりの可能性を広げてきた。
具体的な強みは3つある。まず1つ目は当社が持つ顧客基盤である。今まで会社が大切に守ってきた定期配送ネットワークは、飲食店やホテル、理美容室、オフィスなど約3000件に上る。これまでのさまざまな挑戦と事業拡大は、顧客基盤なくしては語れない源泉といえる。
二つ目は技術力と商品開発力だ。東京工業大学・慶応義塾大学発の合同ベンチャーとの共同研究によって生まれた特許技術「VB」は、おしぼりにVB水溶液を浸み込ませることでウイルスや菌を抑え、おしぼりの衛生力を高める。またグッドデザイン賞を受賞した「REION」は、独自技術「エア・サーキュレーションテクノロジー」により、これまでの冷温庫よりも2倍以上のスピードで冷却と加熱ができる。
ほかにも、香料メーカーと開発した使い切りタイプ香りつきおしぼり「AROMA Premium」は、女性目線による大ヒット商品となった。最近では業界で初めてAI(人工知能)技術を活かし、スマートフォンで撮影した画像から回収ボックスに入っているおしぼりの枚数をカウントする映像解析技術を開発した。
三つ目は通販サイトの「e-SHIZAIマーケット」。元々はFAXでの受注が主流だった2005年に開設したネット通販サイト「藤波スクエア」で、当初は月5000円から1万円の売り上げがあれば良い方だった。通販に対応できる人材が不足するなど苦労したが、現在はパートナー企業が40社ほど加盟し、月5000万円ほどの売上規模に成長した。
3.課題はありますか
依然として、世間のおしぼり業界に対するイメージと、自社のブランド・ビジョンとのギャップが大きい点だ。実際にコスト主義的な取引先からは、他社とほんの少しだけ値段が高いということだけで取引を打ち切られた。
指名され続ける会社になるためには、ブランド力が必要。その土台となるのは、ホスピタリティーはもちろん、VBなどの衛生・特許技術や、女性ならではの視点を取り入れたデザイン、他社にはまねできないアプローチで商品・サービスを生み出すノウハウである。それらを日本固有のおしぼり文化に掛け合わせることで、FSXブランドが生まれ、日々成長する。
変わったことをやっていくつもりはなく、おしぼりの本質・魅力を理解し、それをお客様に理解していただくことに注力していく。今後もFSXブランドに磨きをかけながら、発信し続けていきたい。
4.将来をどう展望しますか
これからも「おしぼり」という軸はぶれない。ただ既存事業とのシナジーを生み出しながら、新たな領域に事業展開し、既存事業と新規事業の二刀流に取り組みたい。例えばヘルスサイエンスの領域で、VBの抗老化を中心とした人皮膚肌細胞の研究や製品開発により、国内外の販売チャネルをさらに拡げていきたい。特に、おしぼりの化粧品申請化を進め、新しい化粧品ブランドを構築し、製品販売だけでなく、原材料販売やライセンス収入など化学メーカーとしての立ち位置を確立したいと考えている。
また、おしぼりの文化の価値をさらに高めていくため、グローバル展開を進める。2018年に米国の日系飲食店向けにおしぼりを輸出したが、コロナの影響でいったん中止となった。とはいえ、日系流通業者や越境ECを利用したテストマーケティングは進めており、高単価のオリジナルおしぼり製品のリピート販売につながっている。米国市場は米食品医薬品局(FDA)による衛生用品の許認可もあるため、それに対応した製造ラインの準備も進めている。
直近の2021年8月期の売上高は20億1900万円。5年後は年商30億円を目指しており、このうち海外売上比率は3%程度を目標としている。
5. 地域や業界とのつながりで、御社が大切にしていることは何ですか
おしぼり業界のイメージアップ、産業基盤の向上に貢献していくことだ。世間のおしぼり業界に対する偏見により、入社当初は非常に悔しい思いをし、同業他社も同じような悔しさを感じているはず。日本のおしぼり文化は素晴らしく、その魅力を自社だけではなく、同業他社と連携しながらこれからも発信し続けていきたい。
また当社の所在地である国立市の地域活性化に貢献していきたい。FSXを一言で表すと「国立×おしぼり」と言っても過言ではない。今後も地元の中学校・高校と連携し、学生のインターンシップを積極的に受け入れ、若い世代におしぼりの魅力を伝えていきたい。
毎年7月に開催されている「国立まと火」では、当社のおしぼり洗浄時に抜け落ちてできる繊維(リント)をダンボ(球状にした木綿。まと火ではダンボに火を灯して先祖の霊を弔い、豊年満作と家内安全を祈る)の材料にして提供し、地域貢献活動の一環としている。今後も大好きな国立市とともに、当社も成長・発展をしていきたい。
6.応援士としての抱負は
中小企業応援士として、自身の経験を活かして情報を発信していきたいと考えている。当社ではこれまでに、ブランド戦略、知財戦略、研究開発、ECなど、さまざまなことを実践し経験してきた。自社の成長も当然必要だが、これからも業界全体の底上げに寄与したい。
企業データ
- 企業名
- FSX株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1976年12月
- 代表者
- 藤波克之氏
- 所在地
- 東京都国立市泉1-12-3
- Tel
- 042-576-9131
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