経営支援の現場から

“異業種”の食品会社5社が新商品開発・販路開拓にチャレンジ:伊予西条“発”食の物語チーム(愛媛県西条市)

2024年 5月 27日

プロジェクト最終日に行われた商談会
プロジェクト最終日に行われた商談会

愛媛県西条市は自然環境に恵まれた都市だ。南に西日本最高峰の石鎚山を擁し、北は瀬戸内海と接する。地下にパイプを打ち込むだけで水があふれ出てくるほど地下水が豊富で、「うちぬき」と呼ばれる自噴井は名水百選にも選ばれている。温暖な気候と豊かな水資源をもとに四国有数の農業地帯として発展。瀬戸内ののりや魚介類などの水産業も盛んだ。

恵まれた食資源をいかに地域の経済活性化に生かすか。西条市内で食品会社を経営する5人の経営者が2022年から中小機構四国本部の支援を受けながら、新商品の開発や販路開拓にチャレンジした。「伊予西条“発”食の物語チーム」と名付けられた2年間のプロジェクトを通じて地元の食材を活用した新商品を生み出し、全国発信している。プロジェクトは24年2月に終了し、5人のチャレンジは次のステップに向けて歩みだした。

プロジェクト最終日「これからがスタート」

プロジェクトのリーダー、かんこめ代表取締役の菅圭一郎氏
プロジェクトのリーダー、かんこめ代表取締役の菅圭一郎氏

「みな西条を代表する商売人、企業経営者として一人ひとりが、このプロジェクトに真摯に向き合ってくれた。商品を開発し、結果が出せたことは、ありがたいとともに頼もしいと感じた。こういう機会を得たことを本当に感謝している」。このプロジェクトのリーダーである有限会社かんこめ代表取締役、菅圭一郎氏は2月24日、西条市食の創造館で行われたプロジェクトの最後の会議で、参加したメンバーたちに感謝の言葉を投げかけた。

この日は大阪と東京からバイヤーを招き、プロジェクトとして最後の商談会を開催。5人のメンバーが新たに開発した新商品を提案した。玄米入りのおはぎや肉団子など、いずれも今までにない新しい食感・味わいを感じる食品に仕上がった。バイヤーの評価も高く、商品化に向けてさらなる取り組みが進められることになった。

アドバイザーの松原氏の話に耳を傾けるプロジェクトのメンバーら
アドバイザーの松原氏の話に耳を傾けるプロジェクトのメンバーら

プロジェクトに参加したのは、それぞれが異なる分野の食品を扱う会社だ。リーダーの菅氏が経営する「かんこめ」は老舗米穀店。2004年から市内の契約栽培米を「うちぬき」で炊き上げた玄米おむすびを販売している。ネット通販で販売し、全国から注文が寄せられるほどの人気を集めている。

マルノー物産株式会社は養豚と地域ブランドポーク「ひうちべっぴんポーク」の販売を手掛ける。ピーコックフーズ株式会社は食肉の加工品を販売。また、和洋菓子を製造販売する株式会社大阪屋は創業70年、海苔加工販売の四国海苔株式会社は創業100年の老舗企業。「西条を元気にすることをしよう」という菅氏の呼びかけに賛同して集まったメンバーだ。

みな西条市を拠点に事業を展開し、地域を支える有力な事業者だが、ビジネスの拠点は愛媛県とその周辺が中心。ピーコックフーズの近藤正典社長は「地元のスーパーが主要な取引先だが、県外のチェーン店などが進出して厳しくなっていた。自分としても何か新しいことをしないといけないと考えていた矢先で、いいきっかけになると思って参加した」と語る。

この日でプロジェクトは終了となったが、工夫を凝らした試作品の提案を受けたバイヤーからは「今回、改めていろいろなことを勉強させていただいた。われわれで力になれること、逆に力添えをいただけること、それをじっくりと膝をつき合わせて話し合いさせていただいて、この機会をいい方向に進めていきたい」と前向きな声をもらい、大きな自信を得た。「これからがスタート」「今後もこの5人で西条を盛り上げていこう」と、参加したメンバーは気持ちを新たにしていた。

メンバー企業それぞれの経営改善もアドバイス

商品開発に向けて5人は活発な議論を繰り広げた
商品開発に向けて5人は活発な議論を繰り広げた

このプロジェクトは、ビジネスの拡大を目指し、地域の中小企業グループが抱える共通課題の解決を支援する中小機構の「地域経済振興支援事業」を活用した取り組みだ。四国本部企業支援部長の中曽根保氏(肩書は取材当時)が、この支援を活用する事業者の掘り起こしをする中で、かんこめの菅氏とめぐりあった。

「以前に中小機構の支援を活用された経験があり、新事業として始めた『玄米おむすび』をヒットさせた経営力を持たれている。事業グループでの取り組みができないか、地域経済振興支援事業を紹介させていただいた」と中曽根氏は語る。

四国の事業者が直面する共通の課題は、人口減少による市場の縮小。約370万人いる四国4県の人口は2040年には300万人を割るという試算がある。今の高知県1県の人口がなくなる計算で、全国的にも早い速度で進んでいる。「人口減少の状況を考えると、外に売る力を持ちたい。それも1社だけでは難しいし、1社がよくても波及効果は薄い。5社くらい集まって取り組もうと考えた」と、菅氏は地域経済振興支援事業の活用を決め、青年会議所の活動などでふだんから付き合いがある経営者4人に声をかけた。プロジェクトは2022年9月に本格スタートした。

中小機構は、大手流通企業の元役員で商品・原材料開発など豊富な経営経験を持つ松原覚アドバイザーを派遣した。「伊予西条“発”食の物語チーム」はアドバイザーがつけた名前だ。「発」には、地域のいいものや自社を「発見」する、もっと掘ればいいものがみつかるという「発掘」、新商品を「開発」する、そして、顧客への「発信」—。そんな意味が込められているという。

アドバイザーのサポートは、単に商品開発や販路開拓にとどまらなかった。プロジェクトのキックオフ会議で、各社にプロジェクトに対する思いを聞き、第2回目の会議では、自社の将来像やどんな企業を目指すのかを聞いた。その間、メンバーの工場を個別に視察。各社の事業規模や生産管理体制などをチェックした。生産管理の改善点など個社の経営への取り組み方にも及んだ。

自社の得意分野生かし、コラボ商品も開発

マルノー物産の河村竜介社長とピーコックフーズの近藤正典社長
マルノー物産の河村竜介社長とピーコックフーズの近藤正典社長

大きな目標である商品開発では「何か一つのことをみんなでやろう」(菅氏)と、弁当づくりなども考えたそうだ。各社の生産力などを分析したアドバイザーの助言を受けながら、みなでいろいろな意見を出し合い、各社の得意とする分野をうまく生かしながら、新たな商品開発に取り組んだ。

鶏肉団子に玄米を織り込んだ「玄米鶏肉団子」、べっぴんポークの「骨なしスペアリブ」、中華麺に青のりを練りこんだ「青のりラーメン」、青のりを使った「水餅」、鯛の風味をつけた「玄米鯛茶漬け」など…。翌年には各社が個性的な試作を提案した。メンバーから意見を聞きながら、さらに試作品をブラッシュアップし、中小機構が招いたバイヤーとの商談会が数度にわたって行われた。

マルノー物産とピーコックフーズとのコラボで生まれた、ひうちべっぴんポークのソーセージ。カタログ販売もスタートしている
マルノー物産とピーコックフーズとのコラボで生まれた、ひうちべっぴんポークのソーセージ。カタログ販売もスタートしている

こうした試作品の中で、地域ブランドである「ひうちべっぴんポーク」を加工したソーセージなどの商談が成立した。ピーコックフーズの近藤社長はドイツに留学して食肉加工の国家資格を得ており、その技術を生かしたマルノー物産社長の河村竜介氏とのコラボレーションの結果、この商品が生まれた。卸会社のバイヤーからは「この商品なら首都圏でも販売できる。新たな地域ブランドとして売り込みたい」との評価を受け、2024年2月にはカタログ販売がスタートした。

支援を通じた販路開拓では、既存商品の販売拡大につながったケースがある。また、メンバーがアドバイスを参考に独自の販路拡大に取り組み、ビジネスにつなげたケースもあった。

プロジェクト当初に行われた商談会での河村社長(左)と近藤社長(左から2人目)。バイヤーからのアドバイスも新製品開発の後押しになった
プロジェクト当初に行われた商談会での河村社長(左)と近藤社長(左から2人目)。バイヤーからのアドバイスも新製品開発の後押しになった

新商品の開発では、アドバイザーだけでなく、まったく分野の異なるメンバーたちからの意見が大きな刺激になった。玄米肉団子では、「自分の常識では、肉団子の中に玄米を入れるという発想は出てこない。『玄米を入れたらどうか』というメンバーがいたので、半信半疑やってみたら『これはいける』となった」と近藤氏。味わいをよくするため、鶏肉から豚肉に素材を変えるなどメンバーのアドバイスを試作品の改良につなげている。

一方、大阪屋代表取締役の山地良太氏が取り組む玄米おはぎでは、玄米の専門家である菅氏のサポートが開発を後押しした。玄米ともち米を使い、「企業秘密」(菅氏)という製法で、独特の食感を作り出した。完成したのは、プロジェクト最終日の前日だったそうだ。

地元から全国へ マーケットの視点が広がる

最終日の商談会で大阪屋の山地良太代表取締役がバイヤーに提案した「玄米おはぎ」
最終日の商談会で大阪屋の山地良太代表取締役がバイヤーに提案した「玄米おはぎ」

2年間にわたって5人の取り組みを見守ってきた中曽根氏。プロジェクトを推進するのにあたって気にかけていたのは、メンバーたちがメリットを感じてくれるようにプロジェクトを運営することだったという。

「参加者がメリットを感じないと、途中から一人抜け二人抜けして、空中分解してしまうことも起こりうる。単なる勉強会に終わらせることなく、常にお互いを意識し、いつまでに何をすべきか確認しあいながら取り組んでもらった」

メンバーたちはプロジェクトを通じて、大きな学びを得た。地元が中心だったビジネスの視点が全国へと大きく広がった。山地氏は「このプロジェクトがなければ、これまでの商圏でこれまで通りの仕事をしていただろう。だが、プロジェクトを通じて、全国規模のマーケットの大きさが如実に分かった。世間とはこういうものなのだと分かったことは大きな成果だった」と話す。

四国海苔の烏谷勇佑取締役(左)は東京のレストランとの商談で、製造販売する青のりのメニュー化を実現させた
四国海苔の烏谷勇佑取締役(左)は東京のレストランとの商談で、製造販売する青のりのメニュー化を実現させた

四国海苔取締役の烏谷勇佑氏は「私は代表ではないが、(代表取締役の)父に連れられてこのプロジェクトに参加した。地域の小さい会社は打席に立つことすら厳しい。アドバイザーからいろいろな提案の機会をいただく中で、自分の課題、会社の課題、こういう会社にしたいという思いが固まってきた。今回が出発点で3年後、5年後、もっと先を見据えて成長していきたい」と語った。会社経営に対する意識を変えるプロジェクトでもあった。

1本では簡単に折れてしまう矢も3本重ねると折ることができない—。瀬戸内海を挟んだ四国の対岸、中国地方を戦国時代に束ねた毛利元就が3人の子供たちに授けた「三本の矢の教え」だ。地域の小さな1社だけでは立ち向かえないことも同じ目標に向かう仲間が集まることで大きな力を生む。人口減、市場縮小という厳しい現実が迫る中、地域の企業同士の連携によって克服する力を発揮することができる。

最終回の会議に参加した中小機構四国本部の樋口光生本部長は「野球にたとえれば、このプロジェクトは中継ぎみたいなもの。7回を投げて、8、9回と続く。これからの西条を盛り上げるために引き続き、皆さんと議論や意見を交換したい」と呼びかけた。各企業が抱える課題を解決するには、さらに長いスパンが必要となるものもある。参加した5人の経営者が紡ぐ「食の物語」が今後、西条市にどんな刺激を与え、全国に羽ばたくのか。そのエピローグが楽しみでならない。

プロジェクトチームデータ

プロジェクトチーム名:伊予西条“発”食の物語チーム


設立: 2022年9月


会員数:5事業者


代表者:菅圭一郎氏(有限会社かんこめ)


所在地:愛媛県西条市朔日市554-2

関連リンク