売れない時代に売れる理由。販売低迷期の成功事例

「くら寿司」“食の戦前回帰”で差別化する回転ずし

「食の戦前回帰」—。回転ずしチェーン「くら寿司」を展開するくらコーポレーションの創業者、田中邦彦社長が掲げる経営理念だ。食べるものに添加物などが使われておらず安心・安全だった戦前の食卓に戻ろうという願いを込めている。「くら寿司」ではそのため全食材から「化学調味料」、「人工甘味料」、「合成着色料」、「人工保存料」という4大添加物を一切除去する取り組みを行っている。競争が激化する回転ずし業界で、食の安心・安全を徹底することで他の寿司チェーンと差別化している。同社の売上高経常利益率は5%と業界でもトップクラスだ。

4大添加物を一切使わない

「無添加を貫こうとすると仕入れからハードルが一段上がります」と話すのは同社の西日本広報宣伝担当マネージャーの中野浩氏だ。もちろん、鮮魚を扱う業態ゆえに、検査体制の整備は十分に必要だが、同社はその上に無添加を掲げているため、当然ながら種々コストがかかる。

食材の管理体制を徹底する「くら寿司」(写真は蔵をイメージした店舗外観)

くら寿司はセントラルキッチン体制を敷いている。個店別でなく集中的に加工する体制だが、ここで一括して食材などを検査、また本社には品質管理室を設置して、全品を対象に抜き打ち検査を実施している。従業員の検便なども高頻度に実施、さらに取引先には同社の掲げる4大添加物が入っていないことを証明してもらうという念の入れようだ。商品、食材の管理体制の徹底は「無添加」を掲げる以上、妥協できないポイントと同社ではいう。

無添加を掲げることで付加価値はつく。安心・安全を担保する体制が差別化となって、売り上げが上がればある程度はコストを吸収できる。しかし、一皿100円が主流の回転寿司業界でライバルとの競争に打ち勝ち、利益を出し続けていくにはそれだけでは無理だ。仕入れから、顧客に提供するまでのサプライチェーンの中で、コストを抑え利益を出さなければならない。同社の場合、店頭での徹底した顧客・商品管理が利益に結びついている。利益の源泉となっているのは徹底した管理による廃棄ロスの削減だ。

鮮度管理の徹底が利益の源泉

キャップに触れずに中から皿が取り出せるキャップ「鮮魚くん」

鮮魚を扱う業界で難しいのは、売れ残りによる廃棄ロスのコントロールだ。とくに“足が速い”鮮魚は、鮮度の管理との戦いといっていい。廃棄ロスが減ればその分、利益率は改善する。常に顧客数に対し最適数を提供できれば、廃棄ロスはゼロに近づく。

同社では入店段階から大人、子供が何人いるかを受付機でチェック。さらに、どの皿がどれだけ取られているかの販売データと、店長らが店内の様子を見わたして実際に何人いるかを常に把握し、製造管理システムで厨房に「今、何人のお客がいるから、何をどれだけ作るように」と指示を出す。来店客が多い時には「マグロ」や「サーモン」など売れ筋商品を絶やさないよう、という指示が出る。ムダなモノを極力流さないことで廃棄ロスを削減する仕組みだ。

また近年、回転ずし業界では回転レーンから皿を取らず注文して作ってもらう客が増えてきたため、「回転しない回転寿司」に変身するチェーンもでてきた。これに対し同社は「流れている皿を取る割合が半分以上ある」(中野マネージャー)と、回転レーン形態にこだわる。同社は席の近くにタッチパネル式の注文装置を設置している。にもかかわらず、注文の割合はそれほど増えない。というのも、同社はあえてレーンから取ってもらうように工夫しているからだ。

一般的に回転レーンから取らない割合が増えている要因として、ネタが乾いたり酢飯の酢が飛んでしまったりするからといわれる。このため、同社は乾燥を防ぐ秘密兵器として「鮮度くん」という皿にかぶせるキャップを開発した。よくあるただ被せるだけのキャップではない。調理する人も顧客も、キャップに触れずに中から皿が取り出せる仕組みになっている。さらに空気中のホコリやウィルスなどを防ぐ役割も果たしているし、皿にはICチップが装着されており、設定時間を超えた商品は廃棄される。

同社の顧客が回転レーンから取る割合が高いのは、こうした鮮度や商品管理の結果、レーンを流れてくる商品の鮮度が高く、売れ筋がキチンと把握されているからだ。中野マネージャーは「おいしそうなすしをレーンに流せば、視覚にも訴えるし次に何が来るかという楽しさがある」と指摘する。

楽しさの提供にこだわる

「食のディズニーランド」を目指す田中邦彦社長

徹底した管理システムは、顧客が食べ終わった皿を回収する仕組みにも表れている。皿をカウンターにある投入口から投入すると、水で調理場まで運ばれる仕組み。皿数はデジタル表示され、スムーズな精算を実現している。同社の店舗は、生産管理システムといい、決済システムといい一貫化した工場のように運営されている。加えて、顧客に楽しさを提供するアミューズメント性も持ち合わせる。5皿食べた時点でガチャ玉が当たるゲーム、携帯電話による予約システム、お客の携帯電話で手塚治虫の漫画を配信し待ち時間に読めるなどだ。

田中社長が目指す店舗像は「食のディズニーランド」。社名のくら寿司は、田中社長の出身地である岡山が蔵の街であり、子供の頃、蔵には何が入っているのだろうとワクワクした記憶から、わくわくを提供できる店になるよう命名したという。

この姿勢はメニューにも現れている。すしが80種類あるほか「ラーメン」や「うどん」「天ぷら」そしてスイーツなどのサイドメニューが40種類ある。「メニュー数はファミリーレストランよりも多いのでは」(中野マネージャー)というほどだ。メニューを増やすとコストアップ要因になりかねないが、「お客に喜んでもらえる取り組みなら、店のオペレーションが多少複雑になろうとも仕方ない」(同)と割り切る。競争が激しい業界では、常に新しい取り組みをしていかないと新規顧客は増えないからだ。攻めの姿勢で結果として顧客増につなげる考えだ。

2012年10月期の売上高は789億円で経常利益は40億円。現在、国内40都府県に329店舗を展開し、海外では米カリフォルニア州に5店舗を持つ。今後も郊外型を基本に都市部にも出店していく方針で、2015年まで年間25店程度の出店を目指している。

徹底した食の安全・安心の追及、廃棄ロスの低減によるコスト削減、そして楽しさを提供するための投資、独自の哲学を持った取り組みが成長を支えている。

企業データ

企業名
株式会社くらコーポレーション
Webサイト
代表者
田中邦彦社長
所在地
大阪府堺市中区深阪1035-2

掲載日:2013年9月 6日