中小企業NEWS特集記事

震災から5年「まちづくりで話題の女川町」

JR女川駅の展望デッキから臨む駅前商業エリア

被災直後から議論

レンガ敷きの広いプロムナード(歩行者専用道路)が海に向かってまっすぐ伸びる。その両側には、周囲の自然とよくマッチしたモダンな木造平屋建ての店舗が並ぶ—。

昨年12月23日、宮城県女川町が整備中の「女川駅前商業エリア」の一部が開業した。同年3月21日のJR女川駅と、駅と合築された「女川温泉ゆぽっぽ」の開業に続く女川町の〝まちびらき〟第2弾だ。

開業したのは、まちづくり会社「女川みらい創造」が運営するテナント型商店街「シーパルピア女川」と町などが運営する公共施設「女川町まちなか交流館」。被災地の中心市街地整備を助成する国の「まちなか再生計画」事業の第1号認定を受けて実現した。

女川みらい創造の代表取締役社長で、女川町観光協会会長でもある鈴木敬幸氏は「これも、震災直後に『女川町復興連絡協議会(女川FRK)』を立ち上げ、みんなで議論してきたからできた」と、被災地の中でいち早く中心市街地復興に着手できた背景を明かす。

女川FRKは2011年4月に女川町の商工会や観光協会、魚市場買受人協同組合、旅館組合など産業界を代表する幹部ら40数人で発足。震災で人口が激減する中で、「シャッター通りにはしない」「持続性のある商店街」をキーワードにまちの再生を模索してきた。その中の一人で、当時県議だった須田善明氏が同年11月の町長選に立候補して当選。住民らで構成する「女川町まちづくりワーキンググループ」を発足するなど町全体に議論の輪を広げ、公民連携であるべきまちの姿を練り上げてきた。

正面の海に朝日

駅前商業エリアの「シンボル空間」と位置づけられたプロムナードは幅15メートル×長さ370メートル。景観を損なう防潮堤は作らず、盛土による嵩上げでレベル1(マグニチュード8クラス)津波に対応しており、それを上回る津波が発生したときには高台への避難路となる。女川駅の展望デッキに立つと、正面に伸びるプロムナードの先の女川港から朝日が昇るのを眺められる。

シーパルピア女川には27店舗が入居。14店舗が被災事業者で、残り13店舗のうち7店舗が町内からの創業・新規事業者、6店舗が町外からの誘致だ。テナント型にしたのは、持続性を重視したためだという。木造平屋建てなので時代の要請に応じて作り替えることも可能。

女川FRKの事務局長を務めてきた女川町商工会の青山貴博副参事は「コンパクトシティを目指してきたので、身の丈に合い、しかも可変性を持たせた建物にした」と説明する。

27店舗は大きく3つのゾーンに分けられる。女川駅に最も近く、ミニスーパーやパン屋などが並んでいて日常生活に必要なものを買い回ることができる「デイリーエリア」、レストランやカフェ、居酒屋などが集まる「フードエリア」、ギター工房や段ボール工房など商品制作過程の見学や体験ができる「ファクトリーリテールエリア」だ。一方、女川町まちなか交流館はホールや会議室、音楽スタジオなどが配置された町民の交流拠点で、商工会も入居する。

震災企画
女川駅を背にプロムナードに立つ女川みらい創造の鈴木社長(右)と女川町商工会の青山氏

続々と開業

これに続き、今年秋には水産品をはじめとした特産品の販売、飲食、体験などのサービスを提供する「物産センター」(仮称)がオープン予定。観光客誘致の目玉施設となる。郵便局や金融機関、東北電力などの大企業を含む自立再建事業者も駅前商業エリア内に続々開業し、18年度中には約70店舗になる見通しだ。

駅前商業エリアの周りには役場や小・中学校、地域医療センターなど公共施設が配され、さらにその周辺を新しく造成する住宅地や既存の住宅地が取り囲むという構造だ。

「お客さまが来るかどうかは自分たちの考え方次第。これからが勝負だ」。鈴木氏は気を引き締める。

中小機構の震災復興支援アドバイザーとして、まちなか再生計画作りをサポートしてきた加茂忠秀ジオ・アカマツ取締役開発本部長も「舞台ができて幕が上がった。これからは役者である各店舗の魅力的な演技と女川みらい創造の脚本が大切。たくさんのお客さんを惹きつけてほしい」と指摘。「東北の人は強いから期待したい」とエールを送る。

「〝住み残る、住み戻る、住み来たる〟まちを目指す」。鈴木、青山両氏が異口同音に唱えるのは、女川FRKの提言に盛り込まれた言葉だ。

持続性を第一に

女川町に続き、これまでに岩手県山田町、宮城県石巻市、同南三陸町、岩手県陸前高田市、同大船渡市、福島県いわき市がまちなか再生計画の認定を受けた。

阪神淡路大震災や新潟県中越地震の被災地でも商店街・中心市街地の復興に携わってきた中小機構の長坂泰之震災復興支援部参事は、後に続こうとする被災地に対し、「補助金が出るので、立派な箱を作ってしまいがちだが、そのぶん維持費が大変。できるだけ身の丈に合った箱にして維持費を抑え、たとえ嵐が来ても生きていけるように持続性を第一に考えて計画を立てるべきだ」と助言する。