BreakThrough 企業インタビュー
JAXAの技術から生まれた断熱セラミック塗材【株式会社日進産業】
2017年 3月 27日
宇宙ロケットの断熱材技術から生まれた「GAINA」
2005年、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は日本の宇宙開発研究で培われた先端技術の民間への転用を目的として、ロケットの先端部用断熱材技術について委託先企業の募集を行った。大手企業を含む数十社の応募の中からJAXAが委託先に選んだのが、株式会社日進産業であった。同社は1977年に当時大学生だった石子達次郎氏(代表取締役)によって設立された。主に工場用の無人搬送システムの設計・製造を行っていたが、十数年前から断熱効果のある塗料の研究開発を独自に行っていた。技術審査を行ったJAXAの担当者は「中小企業にこれほど高度な断熱技術があることに驚いた」という。
日進産業はJAXAとの共同研究によって、2006年に断熱セラミック「GAINA」の開発に成功する。GAINAは厚さ0.4~0.5ミリの中空のセラミック球体の多層構造になっており、一般の水性塗料と同じように住宅やビル等の外装や内壁に塗るだけで、マイナス100度からプラス150度までの幅広い断熱効果を発揮する。GAINAを住居に塗ることで、夏には太陽光の熱を反射・放射し、部屋内部への熱の侵入を軽減する。冬には屋外からの冷気を遮り、暖房の熱を外に逃がさないことで部屋内を暖かい状態に保つ。また結露対策にも効果がある。2008年には、GAINAはJAXAの技術を一般生活に届ける製品ブランド「JAXA COSMODE」の認定第1号に選ばれている。
全国へ、そして世界が認めた「GAINA」の省エネ効果
説明を聞いただけでは信じがたいGAINAの特長をアピールするために、日進産業は本社近くにショールームを設けて、実験を通して、その優位性を体験してもらうセミナーを10年以上続けている。参加者は工務店やゼネコン関係者、一般の顧客を含め年間3,000人に及び、最初は疑いの目で見ていた人も、最後には納得して帰っていくという。
地道な広報活動によってGAINAを扱う施工店は全国に広がり、戸建や共同住宅、工場、店舗、オフィス、公共施設等で広く使われるようになった。海外からの問い合わせも増え、世界32カ国でGAINAが使われている。スペインでは鉄道やバス等の屋根に施工し、車内空間の快適性向上を図っている。インドの寺院では強い太陽光で熱せられる石床に施工したところ、素足で参拝する信者の負担を減らすことができた。ハワイの高校では校舎の屋根、外壁に使うことで、夏でも冷房無しで授業を行えるようになった。
また大手船舶会社が赤道直下を航行する自動車運搬用大型輸送船の甲板にGAINAを使ったところ、甲板下の温度が65度から38度に下がり、作業効率が大幅に向上したという事例もある。GAINAがもたらす省エネ効果に世界が注目している。
断熱、遮音、防臭……広がる「GAINA」の効果
GAINAの効果は断熱だけにとどまらず、遮音にも有効であることが明らかになっている。アパートに採用したところ、上階や隣の部屋からの生活音を軽減する効果があった。日進産業が大学等と共同研究を行ったところ、GAINAのセラミックが放出する赤外線効果で空気中の水分子がマイナスイオン化し、においや汚れ物質の定着を防ぎ、空気質の改善に効果があることが分かっている。
2016年、日進産業は「岩谷直治記念賞」を受賞する。この賞はエネルギーおよび環境に関する優れた技術開発に対して贈られる権威あるもので、これまでの受賞者は大手企業や公的研究機関ばかりで、中小企業の受賞は初めてとなる。
ガイナとは石子氏の故郷である鳥取地方の方言で「大きな、巨大な」という意味。GAINAは建築用塗料という枠を越えて、より大きな価値をもたらす存在へと成長している。
企業データ
- 企業名
- 株式会社日進産業
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