中小企業NEWS特集記事
「Tファーム」耐寒性バナナで日本の農業を元気に
この記事の内容
- 40年かけ耐寒性バナナの品種改良に成功、無農薬栽培で皮まで食べられる
- 税込み1本648円で岡山市内の百貨店で販売、来春には自社サイトで通販も
- 主力は苗販売。岡山から出荷し、日本各地で「ご当地バナナ」栽培中
皮まで食べられるバナナが話題だ。岡山市の農業法人D&Tファームが生産・販売している「もんげーバナナ」。もんげーとは岡山弁で「すごい」という意味だが、無農薬栽培で洗浄剤や殺菌剤を使っていないから皮ごと食べられる。耐寒性が高く、成長速度も早い。輸入に頼っていた農作物が日本で栽培できるなら新市場や地域の雇用が期待できると、同社は今年10月、日本ニュービジネス協議会連合会が主催する第13回ニッポン新事業創出大賞で中小企業庁長官賞を受賞した。田中哲也社長(46)に話を聞いた。
——「皮まで食べられるバナナ」は多くのテレビ番組で紹介され全国地の知名度です。
「皮にこそ栄養があるんです。バナナは食物繊維が豊富ですが、うちのバナナは水溶性食物繊維が一般のバナナの8倍。1本食べれば8本食べたことになる。他のバナナより糖度や抗酸化力も高いです」
——開発のきっかけは
「私の叔父で当社取締役技術責任者の田中節三が40年かけて開発した植物品種改良技術『凍結解凍覚醒法』です。ソテツなど氷河期を乗り越え現在も生育している植物に着目し、熱帯産の植物をあえて氷河期と同じ摂氏マイナス60度の環境下に置き、植物のDNAに組み込まれていた順応性を最大限に呼び覚ますことに成功しました。叔父は会社を2回立ち上げたことがあり、そこで得た自分の金で自由に独自研究ができたんです」
——節三氏の志を継いだわけですね
「5~6年前、農業経営に失敗してどうしようと思っていたときに叔父の技術を見せられた。今までと全く違う技術で安全な食べ物をつくる。『農業は食べ物をつくるのが使命。いいものを作らないと』という叔父の発想に共感しました」
——無農薬で栽培しているのは
「熱帯と気候の違う日本ではバナナの病害菌が覚醒していないし、本州にはミバエやゾウムシなどバナナの天敵となる昆虫もいない。防カビ・防虫材をまく必要がないのです。苗の育成でも叔父が開発した『竹炭の培養技術』(特許出願中)を用いているので免疫力のある苗ができます」
——果実販売は
「2017年からです。岡山市内の天満屋で売っていますが、生産量が週に数百本なのですぐに売り切れて。東京・銀座の資生堂パーラーへも食材として出していて、他の店からも引き合いはありますが余裕がない。用地取得も難しい点があり、後手を踏んでいる。土地は6000平方メートルまで増やせたが10箇所に分散している。まとまった土地なら少ない人数で管理ができるので探しているところです」
——税込みで1本648円と高価です
「『そんな高いバナナを売ってどうする』とよく言われます。ただ、バナナだから高く感じるが、グラム単価でみればメロンなど国産の高級フルーツより安い。海外に輸出することも視野に入れています。供給量に応じて値段は下がる。『もんげーバナナ』は高級ブランドとして確立したので、別のラインで大量に安くということはある。来年の春には自社サイトで通版も始めます。送料もかかるので贈答用のパッケージになると思います」
——主力は苗販売ですね
「高さ約60センチの苗を約3万円で全国の農家に出しています。広島、鹿児島、北海道などでご当地バナナとして栽培されています。昨年の販売実績は約5万個。苗9割対果実1割。単価が違うのでこの比率は変わりません。日本全国にこのバナナを広めたい。自社農園ではバナナのほか、コーヒーやカカオ、パッションフルーツなどの実験栽培にも着手しています。耐寒性種苗の育成・販売で日本の農業を元気にしたいですね」
企業データ
- 企業名
- D&Tファーム
- Webサイト
- 設立
- 2015年12月
- 資本金
- 300万円
- 従業員数
- 32人
- 所在地
- 岡山市南区西高崎81-22
- Tel
- 086-363-0877
- 事業内容
- 耐寒性無農薬作物の栽培・販売
- 売上高
- 8億8000万円(2018年10月期)
プロフィール
田中哲也 (たなか てつや)
食品小売業界・広告代理業界でセールスプロモーションとマーケティングに携わり、2005年大阪市でWebプロダクションを創業。依頼案件の島おこしに感化され自ら海外へ農業経営に進出するも挫折。叔父が開発した植物の品種改良技術に惚れ込み、2015年から現職。