中小企業のイノベーション
商習慣を破壊せよ! 目指すは「日本で最もフードロスを削減する会社」【株式会社クラダシ(東京都品川区)】
2024年 4月 3日
年間500万トン以上という日本のフードロスの原因の一端である商習慣「3分の1ルール」に切り込み、廃棄される予定だった食品などを再び流通に乗せる。企業にも、消費者にもうれしいシステムで、公益性の高さからめきめきと成長を続ける株式会社クラダシ。創業者で代表取締役社長の関藤竜也氏は長年かけてビジネスモデルを構築し、たったひとりで起業してわずか3年で「ソーシャルプロダクツ・アワード2017」優秀賞を受賞という快挙を成し遂げている。
誰にとってもWin-Winなシステム
消費者保護の観点から、日本の食品業界では暗黙の「3分の1ルール」が商習慣として定着している。賞味期限の3分の1を過ぎたものはもう流通に乗せることはできず、廃棄される可能性がある。たとえば、賞味期限が約1年(12か月)ある商品でも、製造からその期限の3分の1である4か月目を過ぎると、メーカーの在庫として残っている商品は流通に乗せることができず、廃棄される可能性がある。消費者保護を目的としているためほとんどのメーカーがこれに従っており、賞味期限を迎える前に店頭にすら並ぶことなく廃棄される可能性がある食品は少なくない。
株式会社クラダシが提供する通販サービスでは、3分の1ルールやパッケージの変更などを理由に廃棄される可能性のある食品などを企業から買い取り、同社サイトの会員に割引価格で販売する。あくまでも賞味期限内の商品であり、品質にはなんら問題のない食品などを定価よりもおトクに購入できるとあって、消費者にとってはうれしいサービス。もちろん、賞味期限が短いことは明記している。メーカーにとっても通常の販路では流通できなくなった商品を販売することができるばかりか、在庫の保管や処分にかかるコストを抑えることができるとあってWin-Winのビジネスモデルである。そのうえ、売上の一部は環境・動物保護などの団体への寄付や支援に充てることができる仕組みになっていて、誰にとっても非の打ちどころのない「Social Good(社会貢献度の高い)」なサービスだ。2014年に創業し、運用を開始したのは2015年2月。SDGsが採択される7か月前のことだが、この会社の原点は1995年にまでさかのぼる。
社会にはびこる矛盾に気づいた2つの原体験
クラダシ代表取締役社長の関藤竜也氏は当時、卒業をひかえた大学生だった。阪神淡路大震災にみまわれ、自身も被災したものの居ても立ってもいられず、救援物資を詰め込んだバックパックを背負って被災地へと足を運んだ。そこで感じたのは、個人の力では多くの人を救うことに限界があること。無力感におそわれた。多くの人を助けるためには持続可能な仕組みの必要性を強く感じたという。大学を卒業し、商社に入社した関藤氏は中国に駐在する。アパレルの生産から販売までを一手に担う現場の担当だったが、食品の、大量生産、大量廃棄を目の当たりに。食べられるものでも形が悪いなどの理由で商品にならない食物を捨てるのだ。「こんなことを続けていたら、これはいつか絶対に大きな社会問題になる」と直感した。関藤氏はこうした経験をふまえ、2001年には商社を退職。コンサルタントとして新たな一歩を踏み出す。根底にはいつも「どうしたら世の中のもったいないをなくせるか」という想いがあった。
風潮が変わるタイミングを読む
それから13年の時を経て、満を持して関藤氏は株式会社クラダシを立ち上げた。阪神淡路大震災で被災し、持続可能な仕組みの必要性を痛感したあの日から20年弱。長い年月をかけて頭のなかで最良のビジネスモデルをシミュレーションしてきた。その「フードロスを削減するビジネスモデル」の構築を実践に移すのだ。社員は自分だけ。資本金999万円の小さな会社だ。まずは賛同企業100社を目指し毎日何軒ものメーカーの扉を叩く日々が続いた。ローンチ後はこの新しい通販サイトのビジネスモデルへのメディアの反応が良かったこともあり、出店してくれる企業も徐々に増えていったという。
このタイミングのよさはたまたま起こったことではない。「ソーシャルビジネスは早すぎても遅すぎてもいけない」と話す関藤氏。国連が2000年にMDGs(Millennium Development Goals=ミレニアム開発目標)を掲げてからずっと国連の動きに注視してきたのだ。「人の意識はなかなか変えることができないが、時代とともに風潮も変わっていくものだから」と、CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)が義務的になってくることを予想していた。時代をとらえてきたからこその注目度の高さだったと自負する。次第に理解を示す企業が増えてきて、2015年に新たにSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)を国連が採択すると、意識の高まりを実感するようになったという。
逆境を打破するのは社会貢献という意義
長年温め続けたビジネスモデルは順調に形を成しているが、関藤氏は常に逆境にいると感じていたという。というのも、前述のとおり商習慣による意識改革の難しさに常に直面すること、そして「資金が枯渇するのではないか」という恐れがあったから。実は設立当時、関藤氏はどこからもサポートを受けず、自身の貯蓄のみで事業に取り組んでいる。「社会貢献をするために他人のお金をあてにしてはいけない」との考えから、事業を起こすためにこつこつと貯金し続けていた。おかげで起業後最初の1年半はほぼ無給で働いた。
これまでにないビジネスモデルゆえ、「担当者個人が納得し、賛同してくれても、社としてはNG」そんなケースが後を絶たず、商習慣を打破するのはそう簡単なことではないと痛感した。当時日本ではまだ企業の環境意識が今ほど高くなく「それは理想論だ」と一蹴されてしまう。そもそも廃棄されるはずだった食品が再度流通経路によみがえるという仕組みはありがたいものの、一方では「これだけその商品は売れ残っている」とも見えるため、メーカーからすると受け入れることが容易ではなかったのだろうと関藤氏は分析する。「もったいない」より先に商品イメージを重んじるのは当然のこと。だが、「もったいない」が最重要になるよう人の意識を変えるのは並大抵のことではないが、「3年かかることを3か月でやればいい」と、とにかくがむしゃらにアポをとって動いていた。
心が折れそうになったとき、いつも関藤氏を奮い立たせるのは「社会貢献している」という社の存在意義だ。Social Good Companyとして、「ソーシャルプロダクツ・アワード2017(一般社団法人 ソーシャルプロダクツ普及推進協会)」優秀賞をはじめとする数々の受賞歴が、その自信の裏付けとなっている。
意識改革でサステナビリティを高める
クラダシの画期的なビジネスモデルのポイントは、ただ余剰在庫を安価に売りさばくのではなく、商品の販売価格の1%~5%を社会貢献活動団体への寄付や支援に充てられる点だ。メーカーは企業イメージを損なわず、フードロスの削減もできSDGsの観点でブランドイメージも向上できるという大きな利点があること。いいことづくめだ。一方、ユーザーにとっての利点もただ安価に商品を購入できることにとどまらない。商品を購入する際に自身で支援先を選んで社会貢献活動への支援に参加できるのだ。ユーザーのマイページ上では、フードロスをどのくらい削減できたか、どのくらい寄付や支援をすることができたかの総額を確認することができるようになっている。フードロス削減や社会貢献につながる取り組みに参画している意識を”自分事“としてユーザーに捉えてもらえる仕組みとなっており、お得に買い物を楽しみながら社会貢献もできるという。まさに誰も損することがない、三方良しのビジネスモデルになっている。
現在は約1,500社のメーカーが出品し、3,300ほどの商品を取り扱い、50万人の会員を擁するクラダシ。それでも、まだ「道半ばだ」と関藤氏はいう。「日本のフードロス市場は年間8,500億円規模あると言われており、当社ではその1%も解消できていない」と、依然として深刻な状況には違いないが、「日本で最もフードロスを削減した会社」となれるようアイデアを絞る。いまは社員も60名に増え、その多くが社会貢献意欲の高い若手だ。社長といえども同じ志を持つ者たちと同じ目線で議論を繰り返し、柔軟に企画を取り入れていく様子からも、次世代を育てビジネスとして持続可能性を上げていこうとする関藤氏の姿勢が見て取れる。第一線で社長がぐいぐい引っ張っていくのではなく、社員とともに会社を育てていくのだ。
今年創立10周年を迎えるクラダシ。2022年6月には公益性の高い「良い」企業への認証であるB Corp認証を取得し、社会にとってなくてはならない存在になりつつある。社内に掲げられた「Be a Social Good Company」のワードは、Person(個人)からCompany(企業)へと言葉が変わったけれど、あの被災した大学生のころから常に関藤氏の心に刻まれていた信念なのである。
企業データ
- 企業名
- 株式会社クラダシ
- Webサイト
- 設立
- 2014年
- 資本金
- 310,080千円
- 従業員数
- 60名
- 代表者
- 関藤竜也 氏
- 所在地
- 東京都品川区上大崎3-2-1 目黒センタービル 5F
- 事業内容
- ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」の運営