中小企業応援士に聞く
花や漆器を通じ、暮らしに安らぎ・潤いを提供【株式会社アプラス(石川県加賀市)代表取締役社長・坂本博胤氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2023年 2月 6日
1.事業内容をおしえてください
生花に特殊加工を施して、年単位で長持ちさせるプリザーブドフラワーをはじめ、ドライフラワーやアーティフィシャルフラワーなど、様々な花材を使ったフラワーアレンジメント商品が主力製品。このほか、時計やオルゴールなどのインテリア雑貨・ギフト商品や、石川県加賀市の山中温泉地区で作られる山中漆器(山中塗)をメーンとした漆芸品の企画・制作・販売を手がけている。山中漆器連合協同組合にも組合員として加盟する。
1997年に山中漆器の製造・販売を始め、2001年に株式会社アイティスを設立して、フラワーアレンジメント商品分野に進出した。電報事業の〝新商品企画〟として、プリザーブドフラワーと電報を組み合わせた商品を提案し、大型受注に成功したためである。中国がWTO(世界貿易機関)に加盟したことで商機が掴めると考え、中国に会社を設立し、中国を足掛かりにしたビジネス展開も始めた。
中国に資材の自社工場、本社と東京にフラワーアレンジメントの生産現場を持ち、資材や商品の企画開発から生産までを自社で行うことによって、良質な商品を適正な価格で提供する。2019年には新社屋への移転と新社名に変更。現在の「アプラス」という社名はモットーである「最高、その先へ」を表した「A+」から名付けた。従業員数は55人の陣容だ。
ただ、コロナにより葬儀スタイルが変化したことで、お供え商品が大きく落ち込んだほか、イベントやブライダル市場に影響し、2020年度に9億2700万円だった売上高は21年度は8億7600万円に減少した。さらに母の日需要直前の「上海ロックダウン」により中国製品が入荷せず、22年度は7億9000万円と大きく減少した。このため23年度に9億2000万円に戻した上で、24年度は10億円、25年度は15億円に伸ばす計画を立てている。
2.強みは何でしょう
まず本社のある石川県の立地条件だろう。東日本、西日本のどちらへも流通させやすく、アクセスの良さから東京のデザイナーとの連携も取りやすい。また、石川県には伝統工芸品が数多くあり、山中漆器もその一つだ。山中漆器と時計を組み合わせた商品を始め、そこからインテリア商品へと波及していったことが、当社の事業拡大に繋がった。
グループ会社として上海とバンコクに拠点を設け、幅広いネットワークを活用した競争力の高い商品を提案している点も挙げられる。また大丸梅田店(大阪市)、大丸京都店(京都市)に直営店があり、消費者のニーズをいち早くリサーチして商品開発できる。
女性社員の多さも強みだと感じている。80%が女性であり、積極的にアイデアや企画を出してもらっている。社員がデザインや花を勉強したことで、よりクオリティーの高い商品開発が可能になった。プリザーブドフラワーを額縁に入れるという発想も社内で出てきたもので、2次元と3次元を組み合わせた新しい商品となっている。
3.課題はありますか
かつては山中漆器の市場規模の小ささが課題だった。市場規模は150億~200億円程度であり、陶器には到底かなわない。そこで、市場規模が数百億円に上る「花」に目を付け、電報企画コンペでプリザーブドフラワーを取り入れたところ、受注が決定した。
当時、当社にはプリザーブドフラワーをはじめとした「花」を取り扱うためのノウハウがなかったため、「花」を事業にする際に社員数人がフラワーアレンジを習い、商品企画のクオリティーを向上させた。現在は、フラワーデザイナーを雇い入れ、品質やコスト競争力を目指した社内体制の強化を行って来たことで、主力事業とすることができた。
市場規模の小さい山中漆器から事業を拡大し、現在は「新事業×山中漆器」という商品開発まで行っている。現在では、当社の商品の発売から数カ月遅れで同じような商品が出てくることも多いが、当社の強みである「人・社内体制」により、新デザインを作り続けていくことで差別化できると考えている。
4.将来をどう展望しますか
2020年12月に地域未来牽引企業に選定され、今まで以上に地域経済に貢献したいと考えるようになった。このため、山中漆器の新ブランド「YUIYU(ゆいゆ)」を立ち上げた。「成長する漆器」がテーマで、フラワーデザイナーが考えた「時とともに色が変わる植物のような漆器」に仕上がった。
素材には国産の天然木を使用。植物のようなかたちに近づけるため、回転ろくろや旋盤のほか、手彫りでも木地を整え、花のような曲線や球根の芽吹きを表現した。形は「八重」「浮葉」「球根」「蕾」「若茎」の5種類、色は「ベリー」「ミモザ」「オリーブ」「ヒアシンス」「ライラック」「セサミ」の6種類を用意。生漆の経年変化により、最初は飴色だった漆がゆっくりと透明に近づいていき、半年後には漆の下に隠れていた色が浮き出てくるというサプライズがある商品である。
今後はコロナ禍前の営業方法ではなく、見込み客に対してメール・電話・ウェブ会議ツールを活用して非対面で営業するインサイドセールスや、マーケティングを強化する。国内で花屋が減少している理由の一つは、「生花」だけを扱っている点にある。海外では花に合うインテリアも扱う花屋が多い。そうした事業展開や「ライフスタイルの中の花」といった商品提案を志向していきたい。新ブランド「YUIYU」は、山中漆器の次は九谷焼など陶磁器を開発する予定だ。
また中小機構の支援を受け、経営方針にSDGs(持続可能な開発目標)宣言を組み込み、SDGsを意識した商品づくりを進めている。例えば、中古の段ボールにシールを貼って再利用するといった取り組みを進め、取引企業からも好評を頂いている。これらをまとめたSDGs宣言のパンフレットを作成し、積極的な発信に努めている。
近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)に対する取り組みも進めている。まずは経理システムなど身近なところから始めていく方針だ。
5.経営者として大切にしていることは何ですか
コミュニケーションではないかと感じる。伝統工芸品である山中漆器に携わる中で大切にしている思いは「漆器職人と一緒になって開発する」ということである。漆器職人には、下請けのように発注されたデザインで漆器を作るのではなく、技術を基にした発想やアイデアをどんどん提案して欲しいと伝えている。
職人たちは「自分たちの技術はこれだけしかない」と思っているが、東京のフラワーデザイナーなど畑違いの人から見ると、逆に「これほどの技術を持っている」という風に映る。例えば今回の「YUIYU」の「成長する漆器」はその良い例だ。職人からすれば「色が変わるのは単なる経年劣化」だが、デザイナーからすると「このような素晴らしい技術・商品は他にはない」となる。そうした驚きを直接、デザイナーから職人に伝えてもらい、職人たちのやりがいや誇りに繋がっている。
6.応援士としての抱負は
当初は中小企業応援士として何ができるのか悩んだ。しかし、近隣の中小企業応援士が参加する意見交換会に出席して、同じ悩みを抱える人が多いことを知った。何ができるか悩んでいる時点で応援士としての活動が始まっていることを実感した。
2020年度に自社ブランド構築とマーケティング戦略策定、21年度にSDGs経営に向けた事業計画策定でハンズオン(専門家派遣)支援を受けた経験から、中小機構の情報量の多さやネットワーク力の強さは実感している。以前に海外展開事業を利用した際、漆の取り扱い先をベトナムまで探しに行ったが、そこで中小機構がありとあらゆるツテを辿ってくれた。いつでも話題に出せるように、名刺入れにはいつも「中小企業応援士」の名刺を入れており、中小機構が持つ機能・組織力をPRしていきたい。
企業データ
- 企業名
- 株式会社アプラス
- Webサイト
- 設立
- 2001年(株式会社アイティス設立)
- 代表者
- 坂本博胤(さかもと・ひろつぐ)氏
- 所在地
- 石川県加賀市伊切町い1-1
- Tel
- 0761-74-7800
同じテーマの記事
- コロナ禍は社会貢献のチャンス、社員と信頼関係醸成で【株式会社生活の木(東京都渋谷区)代表取締役社長CEO・重永忠氏】
- 強み活かした提案力向上【株式会社奥谷金網製作所(神戸市中央区)代表取締役・奥谷智彦氏】
- SDGsの理念で社会貢献【株式会社ダイワホーサン(奈良県宇陀市)取締役会長・辻本勝次氏】
- エンジンオイルの訪問「量り売り」に商機【株式会社FUKUDA(京都市山科区)代表取締役・福田喜之氏】
- 西陣織金襴の美しさを世界へ広めたい【岡本織物株式会社(京都市上京区)専務取締役・岡本絵麻氏】
- チャレンジ恐れない金型研究開発で他社と差別化【株式会社岐阜多田精機(岐阜市)代表取締役社長・多田憲生氏】
- 航空機産業支えるQCD向上力【ミツ精機株式会社(兵庫県淡路市)代表取締役社長・三津千久磨氏】
- 「高品質」「安心・安全」「安価」な建築金物を提供【大和建工材株式会社(兵庫県尼崎市)代表取締役社長・武田敏治氏】
- 失敗を恐れず挑戦し続ける人材を育成【大裕鋼業株式会社(大阪府堺市)代表取締役社長・井上浩行氏】
- モノづくりだけではない付加価値提供【株式会社サトウ精機(岩手県花巻市)代表取締役社長・佐藤智栄氏】
- 「魅せる工場づくり」をめざして【タカハ機工株式会社(福岡県飯塚市)代表取締役・大久保泰輔氏】
- 「仁方ヤスリ」の伝統を新商品に【株式会社ワタオカ(広島県呉市)代表取締役社長・綿岡美幸氏】
- 植物の成分研究を医薬品・食品などに応用【OHTA合同会社(石川県野々市市)研究所所長・太田富久氏】
- 日本の木材産業を支える国内シェアNo1企業【エノ産業株式会社(北海道東川町)代表取締役社長・小関政敏氏】
- 「うちなーんちゅ」だから沖縄の商品を世界に届けたい【株式会社新垣通商(沖縄県那覇市)代表取締役・新垣旬子氏】
- DXやデザイン経営について地域の中小企業に伝えていきたい【株式会社リーピー(岐阜県岐阜市)代表取締役・川口聡氏】
- 出雲の地で旨い手打ちうどん・そばを提供【有限会社玉木製麺(島根県出雲市)代表取締役社長・玉木暢氏】
- 従業員の結束力で成長【株式会社三義(さんよし)漆器店(福島県会津若松市)代表取締役・曽根佳弘氏】
- 企業規模よりもキラリと光る技術で地域の「未来エンジン」に【西光エンジニアリング株式会社(静岡県藤枝市)代表取締役・岡村邦康氏】
- 地域連携で佐賀の「食」を全国・海外に【佐賀冷凍食品株式会社(佐賀県小城市)代表取締役社長・古賀正弘氏】
- 眼鏡産地「鯖江」の隆盛に取り組む【株式会社ボストンクラブ(福井県鯖江市)代表取締役・小松原一身氏】
- 1000年の歴史を誇る土佐和紙の伝統を継承していく【株式会社三彩(高知県土佐市)代表取締役・鈴木佐知代氏】
- 耐圧防水樹脂「ジェラフィン」で地元貢献めざす【エスイーシー・シープレックス株式会社(北海道函館市)営業顧問・小野雅晴氏】
- 信頼される人材・製品・会社を創る【オカウレ株式会社(愛知県岡崎市)代表取締役社長・髙井恵氏】
- 創業の原点である母親目線で「安心・安全」の商品開発【沖縄子育て良品株式会社(沖縄県南風原町)代表取締役・舩谷香氏】
- 海外展開ノウハウを提供する京和傘の老舗【株式会社日吉屋 CRAFT-LAB(京都市上京区)代表取締役・西堀耕太郎氏】
- 食品加工分野でユニークな商品開発【株式会社ニッコー(北海道釧路市)代表取締役社長・佐藤一雄氏】
- 高品質な電子機器を支える提案型企業【特殊精機株式会社(福島県喜多方市)代表取締役・慶德孝幸氏】
- 華やかな貴婦人キャラクターと植物由来のピンク商品群で地域ブランド創生【ブリリアントアソシエイツ株式会社(鳥取県鳥取市)代表取締役・福嶋登美子氏】
- 「素人」の自由な発想を「玄人」の技術で形に【株式会社ナダヨシ(福岡県古賀市)代表取締役・植木剛彦氏】
- おしぼり業界の変革に挑戦【FSX株式会社(東京都国立市)代表取締役・藤波克之氏】
- 地域協働で福井の食を発信【合資会社開花亭(福井県福井市)代表社員・開発毅氏】
- 助け合いの精神で生産者とともに「琉球の自立」を目指す【ゆいまーる沖縄株式会社(沖縄県南風原町)代表取締役社長・鈴木修司氏】
- 魚を食べる日本の文化を多くの人に【株式会社安岐水産(香川県さぬき市)代表取締役社長・安岐麗子氏】
- 「人と地域と環境のために」との企業理念で「地材地消」を推進【株式会社ハルキ(北海道森町)代表取締役・春木真一氏】
- 「社員の幸せ」が最大のミッション【三重化学工業株式会社(三重県松阪市)代表取締役社長・山川大輔氏】
- 「会社はお客様のために」の理念が成長の原動力【新産住拓株式会社(熊本市南区) 代表取締役社長・小山英文氏】
- 「三方よし」の精神で地域、取引先、従業員と共に成長を目指す【アクト中食株式会社(広島市西区)代表取締役社長・平岩由紀雄氏】
- 社員が強み、農業を通じて環境守る【山本製作所(本社=山形県天童市、事業所=山形県東根市)代表取締役社長・山本丈実氏】
- 社員の成長こそが会社成長の原動力【株式会社トーコン(横浜市戸塚区)代表取締役・櫻井誠健氏】
- 地域の魅力を広げ、会社の成長につなげる【有限会社菊井鋏製作所(和歌山市)代表取締役・菊井健一氏】
- 花や漆器を通じ、暮らしに安らぎ・潤いを提供【株式会社アプラス(石川県加賀市)代表取締役社長・坂本博胤氏】
- 3兄妹の若い経営陣に世代交代 イノベーションを追求【株式会社中原製作所(岡山市中区)会長・中原健一氏】
- 正直に王道を行く経営で業容拡大【株式会社はなおか(徳島県北島町)代表取締役会長CEO・花岡秀芳氏】
- 自社ブランド製品で顧客の要望に対応【株式会社コメットカトウ(愛知県稲沢市)取締役社長・野々部正幸氏】
- 「よそ者」の視点を大切に 地域の観光ビジネスを牽引【株式会社オズリンクス(富山県富山市)代表取締役女将・原井紗友里氏】
- 社員のバックグラウンドを尊重して活躍の場を提供【ジャスティン株式会社(愛媛県四国中央市)社長・種田宗司(おいだ・しゅうじ)氏】
- “日本一低い運営コスト”で高速出店、買い物難民をなくす【株式会社ダイゼン(北海道鷹栖町)社長・柴田貢氏】
- 「社員ファースト」の経営が酒造りの強みに【株式会社一ノ蔵(宮城県大崎市)鈴木整代表取締役社長】
- 形状記憶加工技術で自社製品を開発、地元との連携をさらに強化へ【中島プレス工業有限会社(埼玉県越谷市)代表取締役・小松崎いずみ氏】
- 社員を大切にする経営で実質離職率0%【株式会社ブンシジャパン(山口県周南市)代表取締役・藤村周介氏】
- 若手人材の力でステップアップ【株式会社稲沢鐵工(長崎県松浦市)代表取締役・稲沢文員(いなざわ・ふみかず)氏】
- 「利他」の精神で社会に貢献できる会社に【株式会社ミヤジマ(滋賀県多賀町)代表取締役会長・宮嶋誠一郎氏】