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事業目標と「三つのポイント」を踏まえたDXで、中小企業もさらなる飛躍を南山大学 理工学部 ソフトウェア工学科 教授/経済産業省「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」座長・青山幹雄氏】<連載第4回>(全4回)

2020年 3月 3日

デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)研究の第一人者である青山幹雄氏にお話を伺ってきた本連載。その最終回となるこの記事では、これからDXに取り組む企業が押さえておくべきポイントと、主にものづくり中小企業に向けたメッセージをうかがいました。

自社の事業目標を大前提にDXへの取り組みを進める

「DXの本質は、新技術を活用した“事業変革”です。ですから、DXに取り組む大前提として、まず5年後には事業をどうしたいかという目標を明確化すべきでしょう。技術やデータの収集・活用はあくまで手段の一部。的確な目標を立ててこそ、どんなデータの収集・分析が必要かも見えてきます」

事業目標を設定する際には、消費者間におけるユーズド商品やシェアリングの普及、工業製品における納期の短縮化など、加速する社会や市場環境の変化をしっかり見つめる必要もあると言います。ここで青山氏がとりわけ強調するのが、ビジネスの競争原理の変化です。

「競争の中心が企業間の競争からビジネスエコシステム間の競争に移りつつある今、一社だけの勝負ではやがて限界が来ます。前回、DXの成功事例として紹介した『旭鉄工株式会社』と『株式会社早和果樹園』は、いずれも自社の取り組みを一般に公開しており、旭鉄工は自社のノウハウを普及させるコンサルティング会社も設けています。これには成果を他社と共有しようとする高い志に加え、新たなビジネスエコシステムの形成を目指す意味もあると思います」

DXの実現に向け押さえておきたい三つのポイント

では、実際のシステム導入などを進めていく上で、気をつけるべきポイントは何でしょうか。旭鉄工株式会社が自前IoT化から始まったDXを成功させた要因は三つあると青山氏は指摘します。

第一のポイントは、社長のリーダーシップにより、経営者・業務部門(現場)・IT部門の「三位一体による推進体制を築くこと」です。社内にIT部門がない場合、その役割を経営者や詳しい社員が担うことになるでしょう。

第二のポイントは、「スモールスタート」です。「初めから多額の投資をしないことが大切で、同社も最初は秋葉原で買った一個数百円のセンサと数千円の簡易コンピュータからIoT化を始めました」。

第三のポイントは、「現場で働く従業員のITリテラシー向上」です。同社では自動化されたライン、つまりロボットを操作する従業員がプログラミングを学んでおり、現場の実態に合わせて既成のロボットのプログラムも変更できるようになっているといいます。

変化をチャンスに変え、DXで経営を強化

DX化を負担に感じるのも無理はありません。しかしDXを通して、製品製造における生産性向上、新たな販路開拓、製品・サービスの付加価値向上、新規ビジネスモデルの創出を成し遂げている企業が多く存在するのは、これまで紹介してきたとおりです。

「先ほど、DXの推進には『経営者』『業務部門(現場)』『IT部門』の三位一体が重要だと言いましたが、何もすべてを社内で行う必要はありません。行政機関やコンサルタントなど、外部の知見・情報を利用することも選択肢の一つでしょう」

青山氏は、最後にこうエールを送ってくれました。

「日本経済を支えてきたものづくり中小企業が元気にならないと、日本全体も元気になりません。さまざまな変化はピンチかもしれませんが、ピンチとチャンスは表裏一体。中小企業ならではの優れた独自の技術・製品と小回りのよさは大いに生かしながら、DXのもたらす“破壊的なイノベーション”を起こしてほしいと思います」

連載「事業目標と「三つのポイント」を踏まえたDXで、中小企業もさらなる飛躍を」

青山幹雄(あおやま・みきお)
南山大学理工学部 ソフトウェア工学科 教授/経済産業省「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」座長

1980年、岡山大学大学院工学研究科修士課程修了、富士通株式会社入社。分散処理通信ソフトウェアシステムの開発などに従事。86年から2年間の米国イリノイ大学客員研究員を経て、95年より新潟工科大学情報電子工学科教授、2001年より南山大学数理情報学部情報通信学科教授を歴任。博士(工学)。05年よりDXの研究も開始し、09年より現職。18年、経済産業省「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」座長。

取材日:2019年12月25日