人手不足を乗り越える

社員の成長を見える化し、将来像が描ける解体業を実践【UK工業株式会社(奈良県奈良市)】

2024年 6月 27日

植原賢治社長
植原賢治社長

家屋やビルの解体工事は、屋外でほこりまみれの作業が避けられない3K(きつい・汚い・危険)職場というイメージが強い。なかなか人材が定着しない悩みもある。UK工業株式会社(奈良市)の植原賢治社長は、解体業を営む企業の社員として、この業界が抱える問題を実際に経験してきた。「もっと別のやり方があるのではないか。それなら自分でやってみるしかない」と、起業を決意しUK工業を創業した。商工会議所や外部のコンサルタントの力を借りて経営理念や仕事の具体的なやり方までをきめ細かくまとめた「コーポレート・デザイン・ブック」を苦心の末に完成させ、全従業員に持たせて行動指針としている。「頑張れば年収1000万円に届く働き方ができる」道筋を明確に示し、働く人が自分の将来像をしっかり描ける経営に取り組んでいる。

新しい解体業を目指し、32歳で起業

丁寧な仕事と明朗会計で顧客の信頼を獲得
丁寧な仕事と明朗会計で顧客の信頼を獲得

植原社長は2011年にUK工業を創業した。それまでは解体職人として、別の企業に雇われる身だった。大手ハウスメーカーと取引のある堅実な経営をする企業だったが、日当はどんなに頑張っても2万円程度、経験を重ねても月収は50万円程度でそれ以上は増えない現実に直面した。「それってつまらないなあ。もっとできるのではないか」と不満を抱いていた。生活も荒れていた。酒や競馬、パチンコに興じて借金も抱える日々だった。ある時「このままではだめだ。もっとできると思うなら、自分が考える解体業をやってみよう」と思い立ち、35歳までに起業すると決めた。そこから借金を返済してコツコツと貯金を続けた。起業に必要な知識を得ようと本を読んだり、融資の勉強をしたりと生活も改めた。そして、手持ち資金と日本政策金融公庫の創業融資をもとに32歳で起業した。最初は一人親方の個人事業主としてのスタートだった。トラック1台から始めた事業は、丁寧な仕事ぶりと明瞭な料金体系が評価されて仕事を任されることが増え、従業員も人づてに紹介されて少しずつ集まるようになった。

明朗会計で顧客の信頼を獲得

植原社長は創業当時から「お金はありがとうの対価」との思いで仕事に取り組んできた。「発注していただいてありがとう」と感謝し、取引先から「きれいな解体をしてくれてありがとう」と言ってもらい、その対価をいただく。解体作業は、最後は更地にするので、結果は同じように見えるが、その過程には大きな違いがある。騒音やほこりで近隣に迷惑をかけないように丁寧に作業をし、廃材の処理も適切に行う。作業に従事する従業員のマナーにも気を配る。一部の解体業で指摘されるモラルの低い行動から一線を画すことを徹底させた。作業の様子は写真に撮って進捗状況を日々管理している。

空き家が社会問題となるなか、解体業は社会に求められている。しかし、多くの人にとって、誰に頼めばいいのか分からないのが実態だ。「悪質事業者に当たったらどうしよう」と不安も募る。同社が顧客に提示する解体の見積もり費用は、個々の経費がどれだけ必要かを明確にし、それを納得してもらって受注する明朗会計を採用している。「安くもなく、高くもない適正価格。顧客に価格を納得してもらったうえで受注し、上質な解体を行うことで、当社は適正な利潤をいただき、顧客には満足を感じてもらう」。誠実な仕事で顧客を増やしている。

経営の指針となるコーポレート・デザイン・ブックを作成

経営の指針として活用するコーポレート・デザイン・ブック
経営の指針として活用するコーポレート・デザイン・ブック

植原社長は起業して間もないころから、奈良商工会議所の会員となり、青年部で活動していた。経営について学びたいという思いが強かったからだ。植原社長は「入っていなかったら、2~3人程度の社員を雇う規模で満足していたかもしれない。会議所でさまざまな経営者と交流をすることで衝撃を受け、今のままではだめだ、会社組織をもっとしっかりと作らないと、と気づかされた」と振り返る。ちょうど、自分が考える会社の将来像を、どうやって従業員に理解してもらい、行動に移してもらうかを悩んでいた時だった。そこで、会議所の講習会で聞いた経営理念の明文化に取り組もうと考えた。

経営理念の明文化は多くの企業が行っている。理念や具体的な行動指針を額に入れて掲示したり、「経営ハンドブック」や「クレド」などの名称で冊子にしたりしている企業もある。植原社長は、「作るならもっと具体的に、社員に求める行動指針を示すものにしたい」と考え、「コーポレート・デザイン・ブック」を作り上げた。企業理念は「『ありがとう』が溢れる未来を創る」とし、「わが社は上質な解体工事を通じて、顧客満足度を追求します。全社員が仕事を通して自分の未来を描くことができ、教育活動を通して社会貢献することを目的とします」と記した。工夫を凝らしたのは「部門別職務分掌」の項目だ。部門や役職ごとに取り組むべき業務内容や行動規範を詳細に示した。例えば、現場の総責任者を担う職長に対しては、「作業前に朝礼をする」「マニフェストの登録(しっかり確認して登録する。委任してもいいが責任は職長にある)」など35項目を、営業事務は「各現場への持ち出し道具の種類・数量等の把握」「工事着工前の近隣挨拶」など22項目と、事細かに記してある。「現場で判断に迷った時に、このデザイン・ブックを読んで基本に立ち返ってほしい」との考えからだ。

コーポレート・デザイン・ブックの初版は、植原社長が2023年4月に一人で完成させた。ポケットに入るサイズにして社員が持ち歩けるようにしている。受け取った社員は「最初はびっくりしたが、経営理念は毎日唱和して頭に入っている。今では取引先に見せて、『当社はこのようなものを作っています』と言うと、相手の反応が変わる。営業トークのきっかけにもなっている」と言い、社員が誇れるものとなりつつある。植原社長は今後も改定を重ねていく考えで、「改定版の作成は、現場の責任者や営業のトップに委ねる」ことにしているという。社長が強い思いで取り組んでいることは、社員にも浸透している。

納得感のある人事評価で社員の意欲を引き出す

納得感のある業績評価で従業員の意欲を引き出す
納得感のある業績評価で従業員の意欲を引き出す

見える化は人事評価においても徹底している。コーポレート・デザイン・ブックに示した各部門、役職ごとの行動指針がどこまでできているかを基本に、植原社長が半年に1回社員と面談し、進捗状況や今後のキャリアップの具体的な方向を双方が納得して進めている。役職者手当や業務に必要な資格試験に合格すれば手当を支給するなど、キャリア形成の道筋も示している。公平で納得感のある報酬体系で、社員の努力を促す仕組みだ。植原社長は「5年頑張って働けば800万円、それ以上の報酬を得たいなら独立して、請負になることを勧めている」という。請負になることで、同社からの仕事だけでなく、他社からの仕事を自分の創意工夫で獲得することもできる。トラックや必要な機材は同社が提供し、資金繰りの面倒も見ることで、リスクを軽減しながら事業に取り組み、収入も拡大できる。「頑張れば年収1000万円超も可能だということを示すことで、この業界を目指す人材を増やしていきたい」と考えている。一方で「私は月額30万円の収入でもよいので、休みがたくさんほしい」という働き方も認めているという。多様な働き方があり、それを従業員みんなが理解して受け入れる仕組みを模索している。

採用については、現在は中途採用が中心になっている。面接は社長自身が行い、一人1時間以上かけて行う。「先日バックオフィス部門の人材を募集したら、15人の応募者があり、その中から4人を採用した。面接を重視するのは、当社はこういう会社ですということを事前に説明し、それに賛同してくれる人に来てもらいたいから」と言う。植原社長が引っ張ってきた会社だが、今後は組織として動けるように人材を補強し、体制整備を進めていく。

地域に必要とされる会社に

多様な働き方を認める仕組みづくりに取り組む
多様な働き方を認める仕組みづくりに取り組む

植原社長は今後の目指す方向を「地域に必要とされる会社になる」と定めている。現在、受刑者が社会復帰できるよう支援するプロジェクトに参画し、今後出所者の受け入れを検討している。「社員を説得しないといけないし、選考基準も設けて、みんなが納得した人を採用していきたい」と考えている。「解体作業の現場には、『自分は勉強してこなかったから、家庭環境が良くなかったから、こういうところで働いている』と、人生をあきらめている人もいる。そんな人たちに、人生は自分次第で変えることができると教えていきたい。自分自身、地元の奈良の人たちに助けてもらった感謝がある。これからその恩返しをしたい」と言う。

企業データ

企業名
UK工業株式会社
Webサイト
設立
2011年
資本金
1000万円
従業員数
17人
代表者
植原賢治 氏
所在地
奈良県奈良市生琉里町35
事業内容
家屋解体・解体工事