BreakThrough 企業インタビュー
介護利用者の健康状態をグラフ化して異常を通知 『見守りふくろう』は利用者にも介護者にも強い味方【株式会社ワイヤレスコミュニケーション研究所】
2018年 3月 20日
summary
行動を制限しないセンサーを集約した音声AI搭載ロボット
介護業界が直面する負担を大幅軽減
製品化に向けて解決すべき課題
音声AI・センサーを活用した高齢者の健康・体調の見守り
電気通信大学発のベンチャー企業として2001年に設立されたワイヤレスコミュニケーション研究所は、設立以来得意としてきた無線センサーネットワーク技術をもとに、高齢者の健康・体調の検知・予測が可能なAIロボット『見守りふくろう』の開発を進めている。
同ロボットでは、マイクロ波センサーを利用しているため、一定の場所に止まった人を計測するのではなく、部屋の中を自由に行動する人の呼吸・心拍・体動の検出が可能なほか、90人分の顔の認識・表情(喜怒哀楽)を識別する顔認証センサー、非接触温度センサーによる体温の予測、室温湿センサーでの室温や湿度の検出ができる。
高齢者の顔を個別に認識し、センサー類で計測された各種データは、サーバーに送信され、グラフ化など可視化された状態で介助者のスマートフォンやタブレットで確認することができるため、小さな変化であっても見落とすことなく察知することができる。
加えて現在はまだテスト段階というが、音声認識AIエージェントを利用して
「今日の笑顔は素敵ね」
「今朝は少しお熱があるみたい…お熱を測りましょう」
「今朝の心拍は◯◯です」
など、各種センサーと連携して利用者に対して話しかけることができる。対話でのコミュニケーションによるアニマルセラピー効果も狙いのひとつだ。
見守るというコンセプトの裏側
介護業界は今、解決すべき多数の問題を抱えている。深刻な人手不足は介護従事者による利用者対応を疎かにしかねない。忙しなく日々の対応に追われていては、利用者の命に関わる致命的な見落としの可能性さえある。
同社では既に介護施設の個室において、利用者の状態をセンサーを利用して見守るサービスを提供しているが、日中の多くの時間を過ごすデイルームでは、個別に利用者の状態を把握するのは難しいという相談を受けたことから「見守りロボット」の開発に着手した。
この小型見守りロボットが介護施設等に導入されるようになれば、忙しなく動いていてもスマートフォン・タブレットの通知で異常の察知が可能になる。人手不足の解決には時間がかかるかもしれないが、介護従事者側の負担を大きく軽減することで、介護業界の問題の解消につながる。
高齢社会問題解決の一端になるために
同社取締役会長である尾崎研三氏は同ロボットが乗り越えるべき課題はまだ残されていると語る。目下の課題はコミュニケーション頻度だという。現状でもコミュニケーションロボットとしての役割を果たすことはできるが、まだまだ黙っていることが多いのだそう。
喋りかけられるのを待つだけでなく、自発的な対話の頻度や会話を成立させるための正確性の向上などにおいて、実証テストでデータを収集しつつディープラーニング等を駆使してより高精度なコミュニケーションの実現が待たれる。
また、現状では介護施設のデイルームなど人が多く集まるスペースでの利用が見込まれている。個室に1台の導入が理想でも、コスト面で難しいからだ。このことは裏を返すと利用者が個室にいる間の見守りが不十分ということだが、それを補うための施策も打たれている。
個室のベッド下に設置し、圧電センサー・マイクロ波センサーを搭載した「スリープモニター」が同社からすでに製品化されている。これと連携させることで、『見守りふくろう』の目が届かない範囲であっても利用者(入所者)の状況をセンサーでモニタリングでき、異常があれば介護従事者に向けて通知することが可能だ。
展示会出展や実証テストにおいて、今後も自社だけでは見落としがちなニーズを把握しつつ、高度な見守りアシストの早期実現を目指している。
人手不足による見落としも、このようなロボットが登場することで大きく現場の状況改善に役立てることができる。日本では幸福を呼ぶという縁起を担いでふくろうをキャラクターとして採用したそうだが、国によって縁起が良いとされる動物は異なる。キャラクターバリエーションを増やすことで、海外展開を視野に入れることもできるだろう。また、現在はその対象は高齢者だが、幼児や学校など様々な場所で、その場所のニーズに合わせる形での展開もできそうだ。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ワイヤレスコミュニケーション研究所
情報通信技術と組み合わせて環境モニタ・ヘルスケア分野のセンサネットワークのシステム開発・販売を行っております。
見守りシステムとしては、在宅介護見守り、施設内動線解析システムなどに注力しており、特に介護施設向けの、非接触型見守りスリープモニタ及び、マイクロ波見守りロボットに特色を持っています。