コロナ禍でがんばる中小企業

山の幸総菜の宅配が人気【有限会社肘折温泉元河原湯旅館】(山形県大蔵村)

2021年12月27日

山形県の「コロナ感染対策認定証」を手に笑顔の横山秀穂女将
山形県の「コロナ感染対策認定証」を手に笑顔の横山秀穂女将

1.コロナでどのような影響を受けましたか

雪景色のなかの同館
雪景色のなかの同館

出羽三山の主峰・月山のふもと、銅山川河畔の肘折温泉郷に1974年に現社長の横山政志が旅館を創業、1988年に法人化した。女将の横山秀穂と従業員6人と共に「湯宿 元河原湯(ゆやど もとかわらゆ)」を営業している。

法人化以降、顧客ニーズや時代の流れに対応できるよう毎年のように館内改修を重ねた。全12室の客室は和室仕様で、いぐさ畳に低めの和ベッドを2台置いた。源泉かけ流しの湯は赤褐色の濁り湯で、貸し切り風呂のほか4階に展望風呂がふたつあり、日帰りでも利用できる。季節ごとの地元食材を丁寧に調理した食事も売り物で、冬の夕食は山県牛のすき焼きや鴨鍋に自家製漬物、朝食は炊き立て山形米、つき立て餅、手作り惣菜などが人気だ。

宿泊客は個人客がメインで、リピーター率は3~4割。近隣県から毎月のように泊りにきてくださるお客さまもいて、コロナ前は平均稼働率60%以上を維持していた。

だが、コロナ禍で客足が途絶え、2020年3月1日から6月21日のキャンセル客が536人にのぼり、売上が967万2520円減少してしまった。同年4月17日から5月20日には旅館の営業を休止しなければならない事態に追い込まれた。完全休業は創業以来、初めてのことだった。

2.どのような対策を講じましたか

山形牛のすき焼きも
山形牛のすき焼きも

雇用調整助成金を活用して従業員に休業補償をする一方、休業期間を利用して新規事業を始めようと思い立った。コロナ禍で当館へ来たくても来ることのできないお客様に、当館の誘客の柱であり強みでもある「山の幸をふんだんに使った総菜」を宅配便でお送りする新事業だ。コロナ禍でも成り立つ「非対面型ビジネス」で、従業員の雇用確保もできる。メニュー開発や従業員や知人による試食会など、新事業の準備に取り掛かった。

ところが、20年7月28日から29日未明にかけての大雨で最上川が氾濫した。下流に位置する地元・大蔵村でも午前3時ごろに川が氾濫し、当館も地下厨房が浸水し、厨房機器が壊滅状況となった。営業休止から再開できた矢先の水害に途方にくれた。

人気の地元食材を使った総菜
人気の地元食材を使った総菜

しかし、地域の方々の応援やお客様から頂いたたくさんのお見舞いに励まされ、業者の方々の懸命な作業と、スタッフや手伝いに駆けつけてくれた友人・知人らに背中を押され、わずか2周間で復旧することができた。以前から温めてきた「かわらゆ惣菜部」の事業計画を国の持続化補助金を利用して具体化、水害後の20年9月には『かわらゆ惣菜部~山里女将による「山幸の恵」宅配事業』を本格稼働することができた。

メニューは、穫れたての新鮮な食材を使った「きゃらぶき」200グラム680円、「手作りトマトジャム」200グラム580円、「田楽味噌」300グラム680円など。秋口には地元の朝市で売られている「福耳」と呼ばれる巨大唐辛子を佃煮にし、昨年末にはおせち料理の「昆布巻き」も販売した。販売は当館に宿泊してくださったお客様限定で、かつての宿帳を頼りにダイレクトメールをお送りして告知した。宿泊や日帰り入浴で当館を訪れたお客様用に売店でも販売した。いまでは毎日のように全国から注文が入り、売店と合わせ1日約1万円を売り上げている。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

アクリル板を設置したフロント
アクリル板を設置したフロント

昨年の休業期間や水害復旧の期間に、館内のメンテナンスや、清掃・消毒を徹底した。売店やフロントには検温機器やアクリル板、アルコール消毒液を整備して三密回避策を実施し、山形県から「コロナ感染対策認定証」を頂いた。取引金融機関と経営状況も確認し、借入金返済の元金据置措置も実施してもらった。

今後はコロナ禍で落ち込んだ売り上げを回復させ、引き続き末永くお客様に愛される宿づくりを進めていきたい。客足はコロナ感染状況に左右されるが、21年10月から11月はコロナ前の9割まで回復している。困難のなか、励ましのお便りやお声掛けをいただいた当館を応援して下さるお客様へ、真心を込めて恩返しをしていくつもりだ。

企業データ

企業名
有限会社肘折温泉元河原湯旅館
Webサイト
設立
1989年8月31日
代表者
横山 政志 氏
所在地
山形県最上郡大蔵村大字南山454-1
Tel
0233-76-2259

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