中小企業応援士に聞く

食品加工分野でユニークな商品開発【株式会社ニッコー(北海道釧路市)代表取締役社長・佐藤一雄氏】

中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する 全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。

2022年 1月24日

本社ロビーに置いた「挑」の書と佐藤一雄社長
本社ロビーに置いた「挑」の書と佐藤一雄社長

1.事業内容をおしえてください

装置1台で約11人分の処理能力を持つホタテ貝生剥き装置
装置1台で約11人分の処理能力を持つホタテ貝生剥き装置

食品や水産物などを加工するロボットシステムや省人省力化機械設備の企画・開発・製造・販売を行っている。1977年に父の佐藤厚・現会長が創業した。北海道釧路市は当時、全国有数の漁場ということもあり、水産加工業が盛んな地域だった。その作業の多くが人の手による過酷なものであり、そうした作業を楽にできないかと考え、食品加工機械の製造業を創業した。

例えば鮭を包丁でさばく場合、まず頭を切り取り、開腹して内臓や魚卵を分離する。力仕事である上、熟練が必要な作業だ。これを鮭専用ヘッドカット専用機「オートヘッダー」と、自動で開腹して内臓・卵をきれいに分離回収する「ガッターマシン」を用いれば、素人でもさばくことができ、大幅な省力化が可能だ。さらに「ヘッダーガッター連続処理システム」を使えば、1台でヘッドカットから内臓処理まで自動で連続処理する。

このほかにも、魚卵を潰すことなく短時間で大量のいくらの分離が可能な「鮭鱒用魚卵セパレーター」や、希望の重量・幅・長さを設定して生魚をセットするだけで定貫切りを実現する世界初の生魚定貫切り装置「スーパープロフェッショナル」、殻・ミミ・ウロ・貝柱を自動で分離する世界初のホタテ貝生剥き装置「オートシェラー」など、ユニークな装置を商品化している。先代は加工機械が専門ではなかったが、いわゆるアイデアマンであり、会社を発展させていくことができたのだろう。

コロナ対策としては、出社時の検温・アルコール消毒の徹底や、在宅勤務、出社時間の変更、さらには無利子融資などを活用した。ただ2020年12月期の売上高は約16億円と、それほど大きくは落ち込まなかった。というのも、当社の製品は受注から納品までのリードタイムが約半年ほどあり、コロナ禍前の19年度下期の受注が多かったためだ。一方で2021年12月期は20年度の受注に影響されるため、20%程度の落ち込みを予想している。

2.強みは何でしょう

船舶搭載型「海氷」で作ったシルクアイスを魚倉に入れ、魚を急速冷却する
船舶搭載型「海氷」で作ったシルクアイスを魚倉に入れ、魚を急速冷却する

食産業に関わる要素技術と当社が持つロボット技術を組み合わせて、お客様に最適なソリューションを提案するコーディネート力が強みだと認識している。「お客様のニーズを的確に捉え、多様な技術サービスを提供し最適なソリューションを実現する」を経営方針の一つに掲げており、お客様の課題を解決するために様々な技術に取り組み続けてきた結果、コーディネート力が培われたと考えている。

具体的には、2018年に「第7回ものづくり日本大賞」で内閣総理大臣賞を受賞した「海氷」のケース。低コストに魚の鮮度を保持するため「漁船上でボタンを押したら直ぐに氷が出るような機械は作れないか」という漁師の方からの相談を受けたもので、現在も主流である「角氷」(真水で使った氷)の弱点を克服する製品となった。

角氷はマイナス温度を保つことができず冷却ムラが発生してしまうほか、魚が暴れて魚体に傷がつき美観を損なってしまう、浸透圧によって魚体に真水を吸収してしまうなどの弱点がある。一尾ずつ「活け締め」する方法もあるが、大量には処理できない。これに対し海氷が作り出す「シルクアイス」は、海水と同じ塩分のシャーベット状の流動性のある氷で、魚体を隙間なく包み込んで素早く冷却する。鮮度保持に必要不可欠な「暴れ防止」と「低温保管」の二つを同時に実現する氷で、このシルクアイスを漁船上で連続製氷する「海氷」と呼ぶ製品群を実用化した。

3.課題はありますか

第1は事業承継。2019年に創業者の先代が会長に、専務だった私が社長に就任したが、創業者と私の経営に対する価値観が相違している点が悩ましいところだ。

承継した自分のミッションは、先代や先輩が築き上げ、応援して下さった関連企業の皆さまのために、会社を維持・発展させていくこと。また会社のミッションは、食産業製造現場の課題に対するソリューションを提供することだと考えている。そのミッションを果たすためには、組織として社員自らが考えていく企業、すなわちボトムアップ経営を目指すべきだと思っている。

ところがこれまでは、創業者によるトップダウン経営が長く続いたため、個々の従業員の思考力、判断力、責任感が低下するという課題も浮上していた。だがこれからの経済・社会環境や当社の存在価値を鑑みた際、持続可能な組織で動ける会社作りが必要。トップダウン経営を刷新し、ボトムアップ志向を根付かせることが重要と考えている。

もう一つは企業のイメージアップだ。「北海道産、北海道企業」へのお客様が持つイメージとして、「食品業」は良いイメージを持たれる半面、「産業機械製造業」だと、あまり良いイメージを持たれない場合や、そもそもイメージがない場合も多い。当社の技術は、国内の企業に決して引けは取らないと自負しているが、道外で営業する場合、そうしたイメージがつきまとう。その対策に近道はないが、一段ずつ実績・成果という階段を上っていくことが重要である。

4.将来をどう展望しますか

搬送されるウィンナーを画像処理で計測し、ロボットで4本1組に集積する
搬送されるウィンナーを画像処理で計測し、ロボットで4本1組に集積する

国内の生産人口減少に伴い、ロボット化やDX(デジタルトランスフォーメーション)化に関わる需要は増大することが確実視される。このため、市場ニーズに対応した適切な商品を市場投入することにより、2024年12月期は20億円の売上高を達成したい。

最近の動きとしては、事業領域は従来通り食産業としつつも、幅を広げるためにAI(人工知能)やIoT(もののインターネット)の活用に取り組んでいる。AI分野に詳しい北海道大学大学院情報科学研究院の川村秀憲教授を技術顧問として数年前から招聘し、最近はほぼ毎月お越しいただいてAIに関する監修をお願いしている。

また当初は、画像処理の部分でAIの活用に取り組んでいたが、現在はデータ分析での活用に取り組んでいる。AIを活用した既存商品の高度化と新しい価値創造に邁進していきたい。

5. 経営者として大切にしていることは何ですか

釧路工業高等専門学校の学生が会社見学で来社した
釧路工業高等専門学校の学生が会社見学で来社した

地域の皆さまから当社への理解を深めていただくことを重視し、CSR(企業の社会的責任)活動の一つとして積極的に工場見学を受け入れている。品質管理、安全管理の現場を見ていただくことはもちろん、一般公開できる機会を増やしていくなど、さらに当社への理解を深めていただけるような取り組みをしたいと考えている。

また学生向けのインターンシップ(就業体験)や研修を受け入れ、簡単な図面製作や組み付けを通して、ものづくりの楽しさを体験してもらっている。さらに従業員は最も重要な資産のひとつと捉えており、すべての従業員が生き生きとやりがいをもって働ける職場環境や、人材活用・人材育成の仕組みづくりを進めている。

6.応援士としての抱負は

釧路市民を招いた会社見学会
釧路市民を招いた会社見学会

中小機構とは現在も専門家継続派遣事業を受けているほか、新連携支援や国際化支援、CEO商談会、中小企業大学校受講など、さまざまな面でお世話になっている。経営課題を抱えている中小企業経営者に対し、さまざまな支援施策を実施している中小機構を紹介していきたいと考えている。

企業データ

企業名
株式会社ニッコー
Webサイト
設立
1977年12月
代表者
代表取締役 佐藤一雄 氏
所在地
北海道釧路市鶴野110番地
Tel
0154-52-7101

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