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「幸せを呼ぶ」天然由来の着色料で世界に挑む「ツジコー株式会社」
2022年 11月 21日
「青」は幸福を象徴する色だ。メーテルリンクの「青い鳥」、結婚式に青いものを身に着ける「サムシングブルー」…。滋賀県甲賀市で照明器具やメカトロニクスの設計・生産などを手掛けるツジコーは「バタフライピー」という東南アジア原産の花から天然由来の青色の食品着色料を開発した。希少性の高い天然由来の着色料は海外の企業からも注目を浴びている。
「バタフライピー」との出会い
「ラオスでこの花に出会って、青い色に魅力を感じた。いろいろ調べてみると、天然由来の食品着色料には『青』がなかった。この花から天然の着色料を作り出せば、面白いビジネスになるのではないか。そんな可能性を感じた」と、ツジコー代表取締役の辻昭久氏は食品着色料の事業展開を始めたきっかけを話してくれた。
バタフライピーは熱帯アジア原産のマメ科の植物。自然の野山に普通に生えており、鮮やかな青い色の花を咲かせる。東南アジアでは、この花を浮かべた青い色のハーブティーをたしなみ、伝統医療にも使われるなど地元では親しみ深い植物だ。青い色のもとになっているのはアントシアニンという色素。ブルーベリーなどにも含まれているが、辻氏によると、バタフライピーの色素は分子量が大きく、安定的で退化しにくい構造になっているという。
ツジコーでは、バタフライピーの花を独自の粉末加工技術を駆使して微細なパウダーに加工し、天然の着色料として使用できるようにした。普通に粉末にすると灰色に色あせてしまうそうだが、熱を加えずに加工する独自の技術で鮮やかな花の色をそのまま残すことに成功した。
実際に食品に利用するには安全性などを確認し、厚生労働省の許可が必要となる。まず2017年に食料品原料としての許可を受けた。さらに2年をかけて、一般飲食物添加物としての使用許可を受け、ようやく着色料として使用できるようになった。
2020年には菓子メーカーの協力のもと、この着色料を使ったチョコレートの販売をスタート。「幸せを呼ぶ青いチョコレート」と名付け、ネット販売を始めると、インスタ映えする縁起のいい色のチョコは予想を上回るヒット商品となった。
逆境を跳ね返すチャレンジ精神
1963年に辻氏の父が創業したツジコーは、もともと照明器具の設計・生産を手がけていた会社だ。辻氏は、創業時とは全く畑違いのビジネスになぜ参入したのか。そこには、辻氏が持つ根っからのベンチャー気質と、逆境を跳ね返そうと新たな事業展開に果敢に取り組むチャレンジ精神が大きな原動力となった。
辻氏は大学を卒業すると、大手コンピューター会社に就職。父の会社に入社したのは1995年になってからだ。先端製品の開発を担当する課長にまで登り詰めていたが、「もっと自分のやりたいことをしたい」と新たな世界に飛び出した。ツジコーに入社しても父の仕事を手伝わなかったそうで、前職での経験を生かし、コンピューター関連の事業を独自に展開していた。
当時のコンピーター業界は飛ぶ鳥を落とす勢い。前に働いていた会社などからさまざまな依頼が舞い込み、会社の業績アップに大きく貢献した。「それまで赤字で大変だったのが、一気に黒字になった。あの時代はすごかった」と振り返る。2004年には経営を引き継ぎ、代表取締役に就任した。
だが、大きな逆境が訪れる。国内のものづくり事業全体が下降線をたどり、業績に影響を及ぼすようになってしまった。会社の売り上げはピーク時の4分の1以下に落ち込んだという。新たな活路を開こうと、辻氏は当時注目されていた植物工場ビジネスを展開。このチャレンジが辻氏と「バタフライピー」とを結びつける糸口となった。
植物工場は人工的に生育環境を整えた施設の中で植物を効率的に栽培するシステムだ。照明器具で培った技術を生かし、栽培システムを開発するとともに自らも植物の栽培を手掛けた。栽培したのは、健康や美容に効果がある機能性を持った植物。植物を粉末化し、健康食品や機能性食品として販売するビジネスプランを立てた。
植物工場のビジネスは、東日本大震災以降のエネルギー不足で期待通りには事業展開が進まなかった。一方で、辻氏は農業そのものに関心を持つようになった。事業を展開する過程で「機能性食品として利用価値の高い植物はないか」とJICA(国際協力機構)の民間連携事業に参画。ラオスで「バタフライピー」にたどり着いた。
海外に広がるビジネスの可能性
辻氏は植物工場を事業化するために2006年に滋賀県長浜市に「日本アドバンストアグリ」という会社を設けているが、バタフライピーのビジネスをこの会社を中心に事業を展開。ツジコーがバタフライピーの着色料などを製造し、日本アドバンストアグリが食品の開発や販売を担う体制で事業を展開している。
滋賀県中小企業家同友会の新産業創造委員会のメンバーでもある辻氏。地元中小企業とも幅広く交流している。2021年からは、地元の企業や飲食店などと連携して琵琶湖をテーマにした「びわ湖ブルー」プロジェクトをスタートさせた。「青」をテーマに滋賀県の企業や飲食店が新たな商品やメニューを提案。ごはんを青く色づけし、まるで琵琶湖のように盛り付けられたカレーライス、青いチョコで色付けされたマウントケーキ、ブルーハワイのような青い吟醸酒…。バタフライピーを使った地域ぐるみの町おこしに一役買っている。
希少価値の高い天然由来の「青」は、海外でも大きな関心を集めている。
2018年にドイツの展示会に、この着色料を出展すると、ブースは海外企業のバイヤーたちで人だかりができるほどだったという。「もともと『青=幸福』のイメージを持っている国の人たちなので、この青を見てすごく驚いていた」と辻氏は振り返った。現在、海外の食品管理当局にも天然の食品原料として使用できるよう申請中で、海外企業との商談も同時進行している。
原料となるバタフライピーを安定的に生産するため、ツジコーは、タイとラオスの農家と契約し、タイに70ヘクタール、ラオスで10ヘクタールの農地を確保している。安全安心な天然の着色料を生産するため、栽培は完全無農薬・無化学肥料で行われている。
今年11月からタイにバタフライピーのパウダーを製造する工場を稼働させる。新型コロナウイルスの感染拡大で海外への渡航が制限され、事業は足踏み状態だったが、制限の緩和で大きく一歩前進した。「今度稼働するタイの工場は農園のすぐそばにあり、新鮮な花で青いパウダーを製造することができる。原価も安く、生産ができるようになる。これからはコストを追求していきたい」と力強く語った。
ラオスでは障害者の雇用機会確保に一役
バタフライピーの栽培では、ラオスの障害者の雇用機会の提供にも貢献している。現地の障害者支援に取り組む東京のNPO法人に協力。NPO法人と一緒に開設した農園で障害者たちが栽培したバタフライピーの花を全量買い取っている。「NPO法人と一緒に、クラウドファンディングで資金を集めて、住居を準備し、農地を借り、『幸せを呼ぶ青い花の農園』を開設した。NPO法人のラオスの障害者雇用に頑張る姿に感動した」と辻氏は語る。
もともと社会貢献活動にも積極的で、中小企業家同友会の活動では、医療用ビニールガウンの製造するプロジェクトの先頭に立った。社員の協力のもと手作業で1万着のガウンを製造し、医療用ガウンが不足していた地元の医療機関に送り届けた。ガウンの製造経験もなく、費用も少ない中でのチャレンジだったが、製造したガウンのクオリティは高く、病院に送った試作品は看護婦らに好評だったそうだ。
「バタフライピーは東南アジアの花。地元の人たちの雇用を生み、幸せを呼ぶような形で事業を展開していきたい」と辻氏。工場を建設し、栽培から製造までの体制を整えたタイの事業では、地元・タイの株式市場での上場を大きな目標としている。「バタフライピー」との出会いから約8年。「幸せの青い色」が世界に羽ばたき、大きく開花する日はそう遠くはなさそうだ。
企業データ
- 企業名
- ツジコー株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1965年 5月
- 資本金
- 2400万円
- 従業員数
- 95人
- 代表者
- 辻昭久 氏
- 所在地
- 滋賀県甲賀市水口町北脇1750-1
- Tel
- 0748-62-2233
- 事業内容
- 照明器具の設計・生産、メカトロ設計・生産、植物工場システム、植物育成用LED開発・生産、食品原料開発・生産など